お腹が痛いとき救急に行くべきサイン──救急科専門医が教える急性腹症の見極め方

夜中に突然お腹が痛くなったとき、「これって救急車を呼ぶべき?」「朝まで様子を見ていい?」と迷った経験はありませんか?

腹痛は非常に多様で、すぐに命に関わるものから翌朝クリニックで十分なものまで、重症度は天と地ほど違います。「たいしたことないだろう」と自己判断して手遅れになるケースを、ERの現場では何度も経験してきました。

この記事では、救急科専門医がERの現場から、今すぐ救急を受診すべき危険なサインと、少し様子を見てよいケースの違いをわかりやすく解説します。


今すぐ救急に行くべき「危険なサイン」

以下のサインがひとつでも当てはまる場合は、ためらわずに救急車(119番)を呼ぶか、今すぐ救急病院を受診してください

危険なサイン 考えられる主な疾患
突然、これまで経験したことのないほどの激痛 腹部大動脈瘤破裂・消化管穿孔
お腹が板のように固くなっている 消化管穿孔・腹膜炎
冷や汗・顔面蒼白・意識がもうろうとする 出血性ショック・敗血症性ショック
嘔吐が止まらず、排ガス・排便が全くない 絞扼性腸閉塞・腸間膜虚血
右下腹部への移動痛+発熱+歩くと響く痛み 急性虫垂炎(穿孔リスク)
高齢者・動脈硬化がある方の突然の激しい腹痛・腰痛 腹部大動脈瘤破裂・腸間膜虚血
血便・タール便(黒い便)を伴う腹痛 消化管出血・腸管壊死
強くなったり弱くなったりを繰り返しながら悪化する 絞扼性腸閉塞

参照:急性腹症診療ガイドライン2015(日本腹部救急医学会ほか編、Mindsガイドラインライブラリ掲載)


特に見逃してはいけない4つの疾患

① 急性虫垂炎

最初はへそ周りの鈍い痛みから始まり、6〜12時間以内に右下腹部(マックバーニー点)への移動痛へ変化するのが典型です。発熱・食欲不振・吐き気を伴うことが多く、早期であれば抗菌薬での保存的治療も選択肢になりますが、穿孔すると腹膜炎に発展します。「歩くと右下腹部が響く」感覚があれば要注意です。

② 腸閉塞(絞扼性イレウス)

腸が捻れたり締め付けられて血流が途絶える絞扼性腸閉塞は腸壊死につながり命に関わります。「波のように強くなり弱くなる腹痛」「排ガス・排便がない」「嘔吐が止まらない」が特徴的な三徴です。腹部の手術歴がある方は特に注意してください。

③ 腹部大動脈瘤破裂

お腹の大動脈(大血管)がこぶ状に膨らんで破裂した状態で、「突然の背中・腰・腹部の引き裂かれるような激痛」「冷や汗」「血圧低下によるショック」が三大徴候です。高齢者・喫煙歴・高血圧・動脈硬化がある方はリスクが高く、破裂すると数時間以内に死亡の危険があります。疑われたら119番が最優先です。(参照:2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン、日本循環器学会ほか合同)

④ 腸間膜虚血(上腸間膜動脈閉塞症)

腸に血液を送る腸間膜動脈が詰まり、腸が壊死する疾患です。「症状の割に触っても大して痛くない」という特徴があり初期に見逃されやすい危険な疾患です。特に心房細動(不整脈)がある高齢者の突然の腹痛では必ず念頭に置く必要があります。発症から数時間が治療の勝負どころです。


「少し様子を見てよい」腹痛の特徴

以下の特徴が揃っていれば、翌朝のクリニック受診か様子見が可能です。

  • 痛みが30分〜1時間で自然に治まった
  • 食後に起こる、いつもと似たような胃の不快感(胃炎・機能性消化管障害など)
  • 下痢・軟便と一緒で、ガスが出たら楽になった(腸炎・過敏性腸症候群など)
  • 以前から経験している月経痛に似た痛み
  • 普通に会話でき、脈や呼吸が乱れていない
  • 痛みの強さが変わらず悪化していない

注意:「一度楽になった腹痛が数時間後に急に激痛へ変わる」ケースがあります(虫垂炎が穿孔した直後は一時的に痛みが消えることがある)。楽になっても翌朝の受診は忘れずに。


救急受診前にできること・よくある疑問

水は飲んでよい?

緊急手術になる可能性がある場合、麻酔の安全のために「絶飲食」が必要です。腹痛がひどく救急受診を決めた時点からは、水を含め何も飲まない(絶飲食)を原則としてください。

痛み止め(市販の鎮痛薬)を飲んでよい?

以前は「診断前に痛み止めを飲むと診断の邪魔になる」と言われていましたが、急性腹症診療ガイドライン2015(第X章)では、早期の鎮痛薬使用は診断・治療を助ける可能性があり、診断前の使用を妨げないと記載されています。ただし、服用した薬の名前・量・時刻を必ずメモして受診時に医師に伝えてください。

お腹を温めたり冷やしてよい?

急性虫垂炎など炎症性疾患では温めると悪化する可能性があります。原因不明の腹痛では温冷両方を避けてください。

楽な体位は?

腹膜炎がある場合、膝を立てて横向きに寝る姿勢(胎児のような体位)で痛みが和らぐことがあります。無理に動かず、楽な姿勢で安静にしてください。


まとめ──ERからのメッセージ

腹痛は「ありふれた症状」ですが、その裏には命に直結する疾患が潜んでいることがあります。

今すぐ救急に行くべきサイン(再掲):

  • 経験したことのない激しい痛み・突然の発症
  • 冷や汗・顔面蒼白・意識がおかしい
  • お腹が板のように固い
  • 嘔吐が止まらず腸が動いていない
  • 血便・タール便
  • 高齢者・動脈硬化・不整脈がある人の急な腹痛・腰痛

「大げさかな」と思っても構いません。ERでは「来なくてよかった」より「来てよかった」の方が、はるかに嬉しいのです。少しでも不安があれば、躊躇なく受診してください。

本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療を行うものではありません。症状が心配な場合は医療機関を受診してください。


参考資料

  • 急性腹症診療ガイドライン2015(日本腹部救急医学会・日本プライマリ・ケア連合学会ほか編)― Mindsガイドラインライブラリ
  • 2020年改訂版 大動脈瘤・大動脈解離診療ガイドライン(日本循環器学会・日本血管外科学会ほか合同)
  • 厚生労働省 重篤副作用疾患別対応マニュアル「麻痺性イレウス」― 厚生労働省
  • 日本血管外科学会 患者向け情報「腹部大動脈瘤って?」― 日本血管外科学会

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