アナフィラキシーとは何か
アナフィラキシーとは、アレルゲン(アレルギーの原因物質)が体内に入ることで、複数の臓器に急速かつ全身性のアレルギー反応が引き起こされ、生命を脅かす可能性のある重篤な過敏反応です。日本アレルギー学会の「アナフィラキシーガイドライン2022」では、「アレルゲン等の侵入により、複数臓器に全身性にアレルギー症状が惹起され、生命に危機を与え得る過敏反応」と定義されています。
救急外来では頻繁に遭遇する疾患であり、迅速な診断と適切な初期治療が命を救います。本記事では、救急科専門医の立場から、アナフィラキシーの症状・診断・治療について最新ガイドラインをもとに解説します。
主な原因・誘因
日本におけるアナフィラキシーの誘因として最も多いのは食物(約70%)です。次いで、医薬品、食物依存性運動誘発アナフィラキシー(FDEIA)、昆虫刺傷(ハチ刺されなど)が続きます。
- 食物:そば、ピーナッツ、甲殻類(えび・かに)、小麦、牛乳、卵など
- 医薬品:抗菌薬(ペニシリン系など)、NSAIDs、造影剤、生物学的製剤など
- 昆虫刺傷:ハチ(スズメバチ・ミツバチ)刺傷。日本では毎年平均15〜20人が死亡
- ラテックス:手術用手袋などのゴム製品
- 運動:特定の食物摂取後の運動(FDEIA)
- 原因不明(特発性):誘因が特定できない場合も約20%存在する
症状:どんな臓器に出るのか
アナフィラキシーの特徴は、複数の臓器に同時に症状が現れることです。発症から症状のピークまで、数分〜30分以内に急激に進行することが多く、早期認識が非常に重要です。
| 臓器・部位 | 主な症状 |
|---|---|
| 皮膚・粘膜(約90%) | 蕁麻疹、発赤、かゆみ、顔や唇の腫れ(血管性浮腫) |
| 呼吸器 | 喉のつまり感、声のかすれ、喘鳴、呼吸困難 |
| 循環器 | 血圧低下、頻脈、失神、ショック |
| 消化器 | 嘔吐、下痢、腹痛、嘔気 |
| 神経 | 意識障害、頭痛、不安感 |
注意点として、皮膚症状が必ずしも出るわけではありません。皮膚症状がなくても、血圧低下や呼吸困難が急激に出現した場合はアナフィラキシーを強く疑う必要があります。
診断基準(Sampson基準)
アナフィラキシーの診断には、世界的に広く用いられているSampson基準(日本アレルギー学会ガイドラインでも採用)が使われます。以下の3つの基準のいずれかを満たす場合にアナフィラキシーと診断します。
- 基準1:皮膚・粘膜症状(蕁麻疹、全身性発赤、口唇・舌・咽頭の腫れなど)が急速に発現し、かつ以下のいずれかを伴う場合
- 呼吸器症状(呼吸困難、喘鳴、低酸素血症)
- 血圧低下または臓器不全の症状(失神・低緊張・失禁)
- 基準2:既知のアレルゲンまたは高度に疑われるアレルゲンへの曝露後、以下の2つ以上が急速に発現した場合
- 皮膚・粘膜症状
- 呼吸器症状
- 血圧低下または臓器不全の症状
- 持続する消化器症状
- 基準3:既知のアレルゲンへの曝露後、血圧低下が急速に出現した場合(収縮期血圧90mmHg未満、またはベースラインから30%以上の低下)
治療:まずアドレナリン(エピネフリン)を投与する
アナフィラキシーの治療で最も重要なのは、アドレナリン(エピネフリン)の筋肉注射です。これが第一選択薬であり、絶対的禁忌は存在しません。「迷ったら打つ」が原則です。
アドレナリンの投与方法
- 投与部位:大腿前外側(太ももの前外側)への筋肉注射が推奨。皮下注射より吸収が速い
- 成人用量:0.3mg(0.1%アドレナリン製剤0.3mL)を筋注
- 小児用量:体重1kgあたり0.01mg(最大0.3mg)を筋注
- エピペン®:体重15kg以上30kg未満は0.15mg、30kg以上は0.3mgの自己注射製剤
- 効果不十分な場合:5〜15分後に同量を再投与可能
アドレナリンは、気道の浮腫を軽減し、血管収縮により血圧を上昇させ、気管支拡張をもたらす多面的な効果を持ちます。抗ヒスタミン薬やステロイドはアドレナリンの代わりにはなりません。これらは補助的治療であり、アドレナリンの投与が最優先です。
アドレナリン以外の初期対応
- 体位:仰臥位(仰向け)で下肢挙上。呼吸困難がある場合は上体を起こす
- 酸素投与:高流量酸素(10L/分マスク)
- 静脈路確保・輸液:生理食塩水などの急速補液
- モニタリング:心電図・SpO2・血圧の継続的な監視
- 抗ヒスタミン薬:皮膚症状の補助的治療(ジフェンヒドラミンなど)
- ステロイド:二相性反応の予防目的(メチルプレドニゾロン125mgなど)。ただし即効性はない
- 気管支拡張薬:喘鳴・気管支攣縮が強い場合はβ2吸入薬(サルブタモールなど)
二相性反応と観察時間について
アナフィラキシーでは、一度症状が改善した後に再び重篤な症状が出現する「二相性反応(biphasic reaction)」が約3〜20%に起こるとされています。初回症状から数時間〜最長72時間後に発症することがあり、注意が必要です。
このため、アドレナリン投与後に症状が改善した患者であっても、原則として4〜8時間以上の経過観察が必要です。重症例や二相性反応のリスクが高い症例では入院管理も検討します。二相性反応のリスク因子としては、アドレナリン投与が遅れた場合、症状が重篤だった場合、既往に二相性反応がある場合などが挙げられます。
エピペン®(自己注射製剤)について
食物アレルギーなど既知のアレルゲンがある患者、特に以前にアナフィラキシーを経験したことがある患者には、エピペン®(アドレナリン自己注射製剤)の携帯が推奨されています。日本では2003年より保険適用となっており、処方を受けた患者本人や家族が緊急時に使用できます。
エピペン®は太ももの前外側に注射します。衣服の上からでも注射可能で、キャップを外して力強く押し付けるだけで投与できます。エピペン®使用後も必ず救急車を要請し、医療機関を受診することが重要です。
まとめ:アナフィラキシー対応の要点
- アナフィラキシーは急速に進行する、生命を脅かすアレルギー反応
- 皮膚症状がなくても血圧低下・呼吸困難があればアナフィラキシーを疑う
- 第一選択はアドレナリン筋注。迷わず早期に投与する
- 抗ヒスタミン薬・ステロイドはアドレナリンの代替ではなく補助薬
- 症状改善後も二相性反応に備えて4〜8時間以上の経過観察が必要
- リスクの高い患者にはエピペン®の処方・携帯を検討する
【参照ソース】
- 日本アレルギー学会「アナフィラキシーガイドライン2022」
- 日本アレルギー学会「アナフィラキシー」解説ページ
- 日本救急医学会「アナフィラキシー」用語解説
- 厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル アナフィラキシー(令和元年9月改定)」
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📚 参考文献・情報源
- 日本アレルギー学会「アナフィラキシーガイドライン2022」
- 厚生労働省「アナフィラキシーの診断と治療」
※本記事は上記ガイドライン・公的機関の情報をもとに救急科専門医が執筆しています。

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