突然倒れた人を目の前にしたとき、あなたは正しく動けますか?
AEDや心肺蘇生(CPR)は、「なんとなく知っている」という方が多い一方で、いざというときに手が止まってしまうケースが少なくありません。
救急科専門医として日々の現場で痛感するのは、「知っている」と「できる」の間にある大きなギャップです。
この記事では、最新の蘇生ガイドラインをもとに、CPRとAEDの正しい手順と、市民が陥りやすい誤解を解説します。
なぜ「すぐに動く」ことが命を救うのか
心停止が起きると、脳への血流が止まります。約4〜6分で脳の神経細胞はダメージを受け始め、10分を超えると回復はほぼ困難になります。
救急車が到着するまでの全国平均は約9〜10分。つまり、救急車を呼んで待つだけでは間に合わないことがほとんどです。
だからこそ、その場にいる市民(バイスタンダー)が素早く動くことが、生死を分けます。
心肺蘇生(CPR)の正しい手順
ステップ1:安全確認と反応の確認
まず周囲の安全を確認し、倒れている人の肩を叩いて声をかけます。
【重要】反応の確認に迷ったら、「ない」と判断してください。
最新のガイドラインでは「反応があるかどうか判断に迷う場合も、ただちに119番通報とAEDの手配を行う」と明示されています。迷う時間が命取りになります。
ステップ2:119番通報とAED手配を同時に
周囲に人がいる場合は、「あなたは119番に電話してください」「あなたはAEDを持ってきてください」と具体的に指名します。「誰かお願いします」では誰も動きません(傍観者効果)。
一人の場合は自分で119番に電話し、指示を受けながら動きます。
ステップ3:呼吸の確認は「10秒以内」で判断
胸と腹部の動きを見て、「普段通りの呼吸」があるかを確認します。判断に迷う場合も「ない」とみなして胸骨圧迫を開始します。
「死戦期呼吸(しゃくりあげるような不規則な呼吸)」は心停止のサインです。普通の呼吸と間違えないようにしましょう。
ステップ4:胸骨圧迫(30回)

胸の中央(胸骨の下半分)に手の付け根を重ねて置き、1分間に100〜120回のテンポで、5〜6cmの深さを目安に圧迫します。
よくある誤解として「強く押すと肋骨が折れる」という不安がありますが、肋骨が折れても蘇生を優先するのが正解です。圧迫が弱すぎると効果がありません。
圧迫のテンポの目安は「アンパンマンのマーチ」や「Stayin’ Alive(ビージーズ)」のリズム(約100〜120 BPM)です。
ステップ5:人工呼吸(2回)
訓練を受けた方は、胸骨圧迫30回ごとに人工呼吸2回を行います(30:2)。
ただし、感染リスクが気になる場合や訓練を受けていない場合は、胸骨圧迫のみ(ハンズオンリーCPR)でも構いません。圧迫を止めないことが最優先です。
AEDの正しい使い方
AED(自動体外式除細動器)は、心臓の異常なリズム(心室細動)を電気ショックで正常に戻す機器です。
「使い方がわからない」という心配は不要です。AEDを開いた瞬間から音声ガイダンスが流れ、貼る場所のイラストも明示されています。
AED使用の流れ
- 電源を入れる(ふたを開けると自動で起動するものも多い)
- 音声に従い、パッドを2枚貼る(右鎖骨下・左脇腹)
- 「解析中」のアナウンス中は体に触れない
- 「ショックが必要です」→ 周囲に触れていないことを確認してボタンを押す
- 「ショックは不要です」→ すぐに胸骨圧迫を再開
AEDは必要なければ放電しません。使って害になることはないので、迷わず使ってください。
救急科専門医が見た「よくある誤解」3選
誤解①「AEDは心臓が止まったら使うもの」
正確には、AEDは「心室細動」という特定の不整脈に効果的です。完全に止まった状態(心静止)ではショックは効きません。だからこそ、CPRとAEDの両方を組み合わせることが重要です。
誤解②「救急車が来るまで待てばいい」
救急車到着までの約10分間、何もしなければ脳は回復不能なダメージを受けます。バイスタンダーCPRがあるかどうかで、生存率は約2〜3倍変わるというデータがあります。
誤解③「失敗したら責任を取らされる」
善意による救命措置は、日本の法律(民法・刑法)で保護されています。一般市民が善意でCPRやAEDを実施して法的責任を問われた事例は、日本では報告されていません。怖がらず、動いてください。
まとめ:いざという時のために覚えておくこと
| 場面 | 行動 |
|---|---|
| 反応・呼吸の確認に迷う | 「ない」と判断してすぐ動く |
| 人が倒れているのに周囲に人がいる | 具体的に指名して119番・AEDを依頼 |
| 胸骨圧迫の深さ | 5〜6cm、100〜120回/分 |
| 人工呼吸ができない・怖い | 胸骨圧迫だけでもOK(ハンズオンリーCPR) |
| AEDが来た | ガイダンスに従うだけ。迷わず使う |
心停止は突然やってきます。「自分には関係ない」と思っていた人が、ある日突然その場に居合わせます。
この記事を読んだあなたが、いざという時に一歩踏み出せることを願っています。
参考資料:
- 厚生労働省「救急蘇生法の主な変更点(市民用)」
- 日本蘇生協議会(JRC)蘇生ガイドライン2020
- 日本医師会「心肺蘇生法の手順」

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