敗血症とは?救急科専門医が2024年最新ガイドラインをもとにわかりやすく解説

敗血症とは何か?命を脅かす「感染症の重症化」

敗血症(はいけつしょう)は、感染症が引き金となり、全身の臓器が次々と障害されていく緊急疾患です。日本集中治療医学会と日本救急医学会は2024年に「日本版敗血症診療ガイドライン2024(J-SSCG2024)」を正式公開しました。本記事では、救急科専門医がこのガイドラインをもとに、敗血症の正しい知識と最新の治療の考え方をわかりやすく解説します。

敗血症の定義は2016年に大きく改訂され、「感染症に対する制御不能な宿主反応によって引き起こされる、生命を脅かす臓器障害」とされています。かつて使われていた「菌が血液に入った状態」というイメージとは異なり、現代の定義では臓器障害の有無が中心に据えられています。

敗血症の診断基準:SOFAスコアとは

敗血症の診断には「SOFAスコア(Sequential Organ Failure Assessment)」が用いられます。呼吸・凝固・肝臓・循環・神経・腎臓の6項目をそれぞれ0〜4点でスコア化し、感染症が疑われる患者で合計スコアが2点以上急上昇した場合に敗血症と診断します。

さらに重症な状態が「敗血症性ショック」です。敗血症の診断基準を満たしたうえで、①輸液に加えて血管収縮薬(ノルアドレナリンなど)が必要、かつ②血中乳酸値が2 mmol/L(18 mg/dL)を超える場合に診断されます。敗血症性ショックは死亡率が40%を超えることもあり、一刻を争う対応が求められます。

qSOFA:病棟・救急外来での素早いスクリーニング

SOFAスコアは検査値が必要なため、救急外来や一般病棟で素早く使うには不便です。そこで活用されるのが「qSOFA(quick SOFA)」です。以下の3項目のうち2項目以上を満たす場合、敗血症を強く疑います。

  • 意識変容(GCSが15点未満、ぼんやりする、話がかみ合わないなど)
  • 呼吸数の増加(22回/分以上)
  • 血圧低下(収縮期血圧100 mmHg以下)

ただしqSOFAは感度がやや低いことも指摘されており、J-SSCG2024でも「あくまでスクリーニングツール」として位置づけられています。疑わしければ積極的に次の評価(SOFA・乳酸値測定・血液培養など)へ進むことが重要です。

2024年版ガイドラインの初期治療バンドル

J-SSCG2024では、敗血症を疑ったら直ちに実施すべき「初期治療バンドル」が示されています。バンドルとは「まとめてやる」という意味で、個々の治療を1時間以内にパッケージとして実施することが推奨されています。主な内容は以下の通りです。

  • 血液培養2セット採取(抗菌薬投与前に)
  • 感染巣からの検体採取(尿・喀痰・創部など)
  • SOFAスコアの算出と乳酸値測定
  • 初期輸液(調整晶質液を使用)
  • ノルアドレナリンの早期投与(低血圧がある場合、輸液と並行して)
  • 乳酸値の繰り返し測定(治療効果の確認)
  • 心エコー評価
  • 血糖管理

特に注目すべき点は、血管収縮薬(ノルアドレナリン)を「輸液で血圧が改善してから使う」のではなく、輸液と並行して早期から投与する方針が明確化されたことです。これは過剰輸液による肺水腫などの合併症を防ぐためでもあります。

抗菌薬治療:1時間以内の投与が鍵

敗血症では、診断から1時間以内の抗菌薬投与開始が推奨されています。時間が遅れるほど予後が悪化することが複数の研究で示されており、「Time is organ(時は臓器なり)」と表現されることもあります。

初期は感染源が特定できないことが多いため、グラム陽性菌・陰性菌の両方をカバーする広域抗菌薬を使い、後で培養結果に基づいて「デエスカレーション(抗菌薬の絞り込み)」を行うのが基本戦略です。

PICSとは?:ICU後症候群への注目

J-SSCG2024では、従来のガイドラインよりも「PICS(Post-Intensive Care Syndrome:集中治療後症候群)」への対応が強化されています。PICSとは、ICUを生き延びた後に生じる身体機能低下・認知機能障害・精神的問題(PTSD・うつなど)の総称です。

敗血症は死亡率が高い疾患ですが、近年の医療進歩で生存率は改善しています。一方で、「生き延びた後の生活の質(QOL)」が大きな課題となっており、早期リハビリ・鎮静の最小化・家族へのケアがガイドラインで明記されました。

敗血症の早期発見:患者・家族が気づくべきサイン

敗血症は「感染症がひどくなった状態」ですが、その進行は非常に速いことがあります。以下のような状態があれば、ためらわずに救急を受診してください。

  • 高熱または異常な低体温(38℃以上または36℃未満)
  • ぐったりしている・意識がはっきりしない
  • 脈が速い・呼吸が速い
  • 皮膚が異常に冷たい・まだらになっている
  • 尿が出ない・量が極端に少ない
  • 感染症の治療中なのに急激に状態が悪化している

「熱があるだけ」「ちょっと具合が悪いだけ」と思っていても、敗血症は数時間で急変することがあります。特に高齢者・糖尿病・免疫抑制剤使用中の方は発症リスクが高く、注意が必要です。

まとめ

敗血症は「感染症の重症化」であり、適切なタイミングでの診断・治療が予後を大きく左右します。日本版敗血症診療ガイドライン2024(J-SSCG2024)では、初期治療バンドルの実施・早期抗菌薬投与・ノルアドレナリンの早期使用・PICS対策が重点事項として示されました。

救急科専門医の立場から、「おかしいと感じたら迷わず受診」することをお勧めします。敗血症は早期発見・早期治療で救える命が大きく変わる疾患です。

※本記事は一般向け情報提供を目的としています。症状がある場合は医療機関を受診してください。

参照ソース:
・日本集中治療医学会「日本版敗血症診療ガイドライン2024(J-SSCG2024)」
・日本救急医学会「日本版敗血症診療ガイドライン2024(J-SSCG2024)正式版公開のお知らせ」
・日本救急医学会「敗血症」用語解説

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