夏の炎天下、道端で人が倒れている。職場の工場内で同僚が突然ぐったりした。運動中の子どもが動けなくなった――。
そんな場面に遭遇したとき、あなたはとっさに何ができますか?
熱中症は対応が遅れると死に直結する緊急事態です。しかし、正しく動けば救える命があります。救急科専門医として、現場で役立つ応急処置の手順を、ガイドラインに基づいて解説します。
参照ガイドライン:日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2024」/JRC蘇生ガイドライン2020
まず119番か?応急処置か?判断フロー
熱中症を疑ったとき、最初の判断は「今すぐ119番か、まず冷やすか」です。以下のフローで判断してください。
| 確認項目 | 対応 |
|---|---|
| 呼びかけに反応しない・意識がない | 即座に119番通報し、通報しながら冷却を開始 |
| 意識はあるが、ろれつが回らない・まともに会話できない | 119番通報+冷却。水分補給は禁忌(誤嚥リスク) |
| 吐き気・嘔吐がある | 119番通報+冷却。水分補給は禁忌 |
| 意識はあり、会話もできる | 涼しい場所へ移動し、冷却+水分補給。改善なければ119番 |
ポイント:「少しおかしい」と感じたら迷わず119番。熱中症は急激に悪化します。様子見で手遅れになるケースが多くあります。
熱中症の応急処置 5ステップ
日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2024」に基づく、現場でできる応急処置の手順です。
ステップ1:涼しい場所へ移動する
直射日光・高温環境から離れることが最優先です。エアコンの効いた室内、日陰などに移動させます。自力歩行が困難なら複数人で抱えて移動させます。
ステップ2:衣服をゆるめ、冷却を開始する
ネクタイ・ベルト・上着などを外し、皮膚を露出させます。その上で以下の冷却を実施してください(詳細は次のセクションで解説)。
- 体に水をかけてうちわや扇風機で風を当てる(蒸散冷却)
- アイスパック・氷のうを頸部・腋の下・鼠径部に当てる(局所冷却)
ステップ3:水分・電解質を補給する(意識がある場合のみ)
意識が明瞭で、自力で飲める場合のみ経口補水液やスポーツドリンクを少量ずつ与えます。一気飲みは禁物です。意識がない・ぼんやりしている・吐き気がある場合は絶対に口から与えないでください。誤嚥(気道への流入)を起こします。
ステップ4:体位を整える
意識がある場合は仰向けで足を少し高くします(血圧低下への対応)。嘔吐している・意識が低下している場合は回復体位(横向き)にして気道を確保します。
ステップ5:症状の変化を観察しながら119番を待つ
呼びかけへの反応、皮膚の状態(発汗の有無・色調)、呼吸の状態を継続して確認します。意識レベルが低下したり、けいれんが始まった場合は状況を救急隊員に正確に伝えてください。
冷やし方の正解と間違い
冷却は熱中症治療の核心です。方法によって冷却速度が大きく異なります。
最も効果的な冷却方法(現場でできるもの)
| 方法 | 効果 | 現場での実施可否 |
|---|---|---|
| 冷水浸水(全身を冷水に浸ける) | 最も冷却速度が速い(毎分0.20〜0.35℃) | プールや浴槽があれば可能 |
| 水をかけて扇風機で風を当てる(蒸散冷却) | 高い冷却効果 | どこでもできる(最推奨) |
| アイスパックを頸部・腋窩・鼠径部に当てる | 補助的な効果 | 保冷剤があればすぐできる |
| エアコンの効いた室内に移動 | 環境温度を下げる(Passive Cooling) | 室内環境があれば可能 |
アイスパックを当てる正しい部位
効果的な部位は太い血管が皮膚の直下を走る場所です。
- 頸部(首の両側):頸動脈が走る部位
- 腋窩(脇の下):腋窩動脈が走る部位
- 鼠径部(足の付け根):大腿動脈が走る部位
これらの部位の血液を冷やすことで、全身の体温低下を効率よく促せます。
やってはいけないこと
- 意識のない人に水を飲ませる:誤嚥・窒息のリスク
- アルコールで冷やす:皮膚刺激・有害
- 一か所だけを集中的に冷やす:効率が悪い。複数部位を同時に冷やす
- 「様子を見る」だけで何もしない:急速に重症化します
意識がない場合の対応(CPRとの関係)
熱中症で意識がない場合、まず確認すべきことがあります。
JRC蘇生ガイドライン2020に基づく判断フロー
- 安全確認:周囲の安全を確認する
- 反応確認:肩をたたいて「大丈夫ですか?」と呼びかける
- 反応なし→119番・AED手配を依頼:その場で大声で助けを求め、119番通報とAED確保を周囲に頼む
- 呼吸確認:10秒以内に胸の上下を見て呼吸を確認する
- 呼吸なし・判断できない→CPR開始:胸骨圧迫30回+人工呼吸2回のサイクルを繰り返す
- AEDが届いたら使用する:電源を入れ、音声指示に従う
重要なのは、熱中症で体温が高くても、呼吸・循環が止まっていればCPRを行うという点です。熱中症だと思っていた患者が、実は心停止を起こしていることもあります。
AEDの使い方についてはこちらの記事も参考にしてください:AEDの使い方を救急科専門医が解説|いざというときに迷わないために
また、冷却とCPRは同時並行で行います。CPR中も可能な範囲でアイスパックを当てる・体に水をかけるなど冷却を続けてください。
職場での熱中症対応マニュアル作成のポイント
職場で熱中症が発生したとき、誰もが同じ対応ができるよう、事前にマニュアルを整備しておくことが重要です。以下のポイントを盛り込んでください。
マニュアルに必ず入れるべき項目
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 緊急連絡先 | 119番の他、職場の責任者・産業医の連絡先 |
| 冷却用具の設置場所 | 保冷剤・アイスパック・スポーツドリンクの場所を明示 |
| 意識確認の手順 | 呼びかけ→反応確認→119番の流れを図示 |
| 水分補給の可否判断 | 「意識あり・自力で飲める」場合のみ経口補給と明記 |
| AEDの場所と使用手順 | 職場内のAED設置場所とQRコード(動画リンク) |
| 記録用紙 | 発症時刻・症状・対応内容を記録する様式 |
特に注意が必要な職場環境
- 工場・倉庫(非空調・高温環境)
- 建設現場(直射日光+重労働)
- 厨房(熱源が多い閉鎖空間)
- 屋外スポーツ・運動部の練習場
これらの環境では、WBGT(暑さ指数)を日常的に計測し、基準値を超えた場合の作業中断ルールもマニュアルに盛り込むことを強くお勧めします。
まとめ
熱中症の応急処置で最も大切なのは、「迷ったら119番」「冷やすことを止めない」「意識がない人に水を飲ませない」の3点です。
- 意識確認で判断し、怪しければ即119番
- 涼しい場所への移動と冷却を最優先で行う
- アイスパックは頸部・腋窩・鼠径部の3か所に当てる
- 意識がある場合のみ経口補水液を少量ずつ
- 呼吸がなければCPRを開始しAEDを使用する
- 職場では事前にマニュアルを整備し、全員が動けるようにする
熱中症は早期対応で救える命です。この記事を読んだ今日、職場や家庭での備えを一度確認してみてください。
本記事は日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2024」およびJRC蘇生ガイドライン2020に基づいて、救急科専門医が作成しました。個別の医療相談は医療機関にご相談ください。
熱中症対策グッズ
備えあれば憂いなし。職場・屋外活動に一つ用意しておくと安心です。
冷却スプレー(熱中症対策)
保冷剤・アイスパック
経口補水液(OS-1・ポカリスエット等)

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