夜中、ふくらはぎが突然ギュッとつって目が覚めた——そんな経験はありませんか。いわゆる「こむら返り」は、梅雨から初夏にかけて相談が増える、ありふれた症状のひとつです。汗をかく季節に入り、体内の水分やミネラルのバランスが崩れやすくなることが背景にあります。
多くは数分でおさまる一過性のものですが、頻繁に繰り返す場合や片足だけ・歩行時に強く出る場合には、別の病気が隠れていることもあります。この記事では、救急科専門医の視点から、こむら返りの起こるしくみ、つった瞬間の対処、芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)の使い方の注意点、そして受診を考えるべきサインまでを整理します。
なお、この記事は一般的な医学情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療を保証するものではありません。症状が続く・強い・繰り返す場合は、自己判断せず医療機関にご相談ください。
こむら返りとは——ふくらはぎに起こる筋けいれん
こむら返りとは、自分の意思とは関係なく筋肉が強く収縮し、痛みを伴ってけいれんする状態をいいます。「こむら」はふくらはぎを指す古い言葉で、ふくらはぎの腓腹筋(ひふくきん)に起こりやすいことからこの名がつきました。足の裏や太もも、足の指に起こることもあります。
とくに多いのが、就寝中や明け方に起こる夜間のこむら返りです。高齢の方ほど頻度が高く、運動のあとや長時間立ち仕事をした日、冷えた夜などに起こりやすい傾向があります。健康な人でも経験する一方で、繰り返す場合には背景に脱水や電解質の乱れ、あるいは別の病気が関係していることもあります。
なぜ起こる?——脱水・ミネラル不足・暑熱順化が関係
こむら返りの起こるしくみは完全には解明されていませんが、筋肉や神経の興奮性が高まり、収縮の調節がうまくいかなくなることが関係すると考えられています。日常的な誘因として、次のようなものが挙げられます。
- 脱水:汗をかく季節は体内の水分が減りやすく、筋肉が興奮しやすい状態になります。
- 電解質(ミネラル)のバランスの乱れ:ナトリウム(Na)、カリウム(K)、カルシウム(Ca)、マグネシウム(Mg)といったミネラルは、筋肉と神経の働きを支えています。発汗や食事の偏り、下痢などでこれらが不足すると、けいれんが起こりやすくなります。
- 暑熱順化が不十分:体が暑さに慣れていない梅雨〜初夏は、汗の量や成分の調節がうまくいかず、ミネラルを失いやすい時期です。
- 筋肉の疲労・使いすぎ:運動や立ち仕事のあとに起こりやすくなります。
- 冷え・血行不良:就寝中に足が冷えると筋肉が収縮しやすくなります。
- 加齢:筋肉量の減少や水分保持力の低下により、高齢になるほど起こりやすくなります。
梅雨から夏は、この「脱水」と「ミネラル不足」「暑熱順化不足」が重なりやすい季節です。暑さに体を慣らす暑熱順化の進め方については、暑熱順化を解説した記事でくわしく取り上げています。なお、熱中症そのものの予防・対処については別記事で詳述していますので、本記事ではこむら返りに絞って解説します。
つった瞬間の対処——あわてず筋肉を伸ばす
こむら返りが起きたときは、収縮している筋肉をゆっくり伸ばすことが基本です。痛みのあまり力を入れてしまいがちですが、落ち着いて次の手順を試してみてください。
- ひざを伸ばし、つま先を体の方向へ反らす:座って足を前に伸ばし、手でつま先をつかんで手前にゆっくり引き寄せます。タオルを足裏にかけて引くと楽に行えます。ふくらはぎの腓腹筋がじんわり伸びる姿勢です。
- 立てる場合は壁に手をついて伸ばす:壁に手をつき、つった側の足を後ろに引いてかかとを床につけると、ふくらはぎが伸びます。
- おさまってきたらやさしくもみほぐす:強くもむより、軽くさするように血行を促します。
- 保温する:蒸しタオルや入浴で温めると、筋肉の緊張がやわらぎます。
- 水分・電解質を補う:汗をかいたあとなら、経口補水液など水分とミネラルを一緒に補給できるものが向いています。
多くの場合、数分以内に痛みは引いていきます。無理に動かそうとせず、まずは伸ばすことを優先してください。
芍薬甘草湯(しゃくやくかんぞうとう)の使い方と注意点
こむら返りに対してよく用いられる漢方薬が芍薬甘草湯です。比較的速効性があり、つったときの頓服(とんぷく=そのつど飲む)として処方されることがあります。芍薬と甘草(かんぞう)という2つの生薬からなり、筋肉のけいれんをやわらげる働きが期待されます。
用量の目安:一般的なエキス製剤では、成人で1日2〜3包(1日量として7.5g程度=甘草6g相当)を分けて服用する用法が基本ですが、こむら返りに対しては「つりそうなとき・つったときに1包」という頓服的な使い方をする場合もあります。実際の用量・回数は製剤や体格・年齢によって異なるため、必ず医師・薬剤師の指示に従ってください。
連用には注意が必要です。芍薬甘草湯に含まれる甘草(主成分グリチルリチン)は、長期間・大量に摂ると偽アルドステロン症という副作用を起こすことがあります。これは体内でナトリウムをため込みカリウムを失う状態で、むくみ・血圧上昇・体重増加・手足のだるさ・力が入りにくいといった症状が現れます。重い場合は低カリウム血症に伴う筋力低下(ミオパチー)に至ることもあり、注意が必要です。
とくに、甘草を含む他の漢方薬や、グリチルリチンを含む薬・サプリメントを併用していると甘草の総量が増え、リスクが高まります。「毎日のように飲んでいる」「むくみや血圧が気になる」という場合は、自己判断で続けず、医師・薬剤師に相談してください。偽アルドステロン症の見分け方や対応については、厚生労働省・PMDAの「重篤副作用疾患別対応マニュアル」が参考になります。
薬の副作用でこむら返りが起こることもある
見落とされがちですが、ふだん飲んでいる薬がこむら返りの誘因になっていることがあります。代表的なものとして、次のような薬が知られています。
- 利尿薬:尿とともにカリウムやマグネシウムが排泄され、電解質バランスが崩れることがあります。
- 一部の降圧薬:体液量や電解質に影響するものがあります。
- スタチン(コレステロールを下げる薬):筋肉に関連した症状(筋肉痛・けいれん・脱力)を起こすことがあります。
- β刺激薬(気管支拡張薬など):血清カリウムを低下させ、筋けいれんの誘因になりうることがあります。
これらは多くの方にとって必要な薬です。自己判断で中止せず、こむら返りが薬の開始・増量と時期的に重なるようであれば、処方元の医師・薬剤師に相談してください。中止や変更はあくまで医療者の判断のもとで行います。
こんなときは病院へ——隠れた病気のサイン
単発のこむら返りは心配のいらないことがほとんどですが、次のような場合には背景に病気が隠れていることがあり、受診をおすすめします。
- 歩くとふくらはぎが痛み、休むと楽になる(間欠性跛行):足の動脈が狭くなる閉塞性動脈硬化症(ASO/末梢動脈疾患・PAD)の可能性があります。足の冷えや色の変化を伴うこともあります。
- 糖尿病があり、足のしびれや感覚の鈍さを伴う:糖尿病神経障害が関係していることがあります。
- むくみ・だるさ・体重変化など全身症状を伴う:肝臓・腎臓・甲状腺の病気が背景にあることがあります。
- 頻繁に繰り返す・両足以外にも広がる・力が入りにくい:電解質異常や神経・筋の病気が隠れていることがあります。
こむら返りは「よくあること」と見過ごされがちですが、繰り返す場合は体からのサインかもしれません。気になる症状があれば、かかりつけ医や内科にご相談ください。
こむら返りを予防するには
日常生活でできる予防の工夫をまとめます。とくに汗をかく季節は、水分とミネラルの補給が大切です。
- こまめな水分・ミネラル補給:のどが渇く前に少しずつ。大量に汗をかいたときは経口補水液なども活用します。
- 寝る前のストレッチ:ふくらはぎをやさしく伸ばしてから就寝すると、夜間のこむら返り予防に役立ちます。
- 足を冷やさない:就寝時の冷房の風が直接当たらないようにし、必要なら薄手の靴下やレッグウォーマーを。
- 適度な運動と入浴:血行を保ち、筋肉の柔軟性を維持します。ぬるめのお湯にゆっくり浸かるのもよいでしょう。
- バランスのよい食事:海藻・大豆製品・乳製品・緑黄色野菜などでミネラルを補います。
季節の変わり目、とくに暑くなり始める時期は体が暑さに慣れていないため、こむら返りが起こりやすくなります。暑熱順化を計画的に進めることも予防につながります。具体的な進め方は熱中症対策2026完全版でも触れていますので、あわせてご覧ください(熱中症対策の詳細はそちらにまとめています)。
よくある質問(FAQ)
Q. 水をたくさん飲めばこむら返りは防げますか?
水分補給は予防の基本ですが、水だけを大量に飲むとかえって血液中のナトリウムが薄まることがあります。汗を多くかいたときは、水分とミネラルを一緒に補える経口補水液などが向いています。日常的にはこまめに少しずつ補給するのがおすすめです。
Q. 芍薬甘草湯は毎日飲んでも大丈夫ですか?
毎日の連用はおすすめできません。前述のとおり、含まれる甘草によって偽アルドステロン症(むくみ・血圧上昇・低カリウム血症など)が起こることがあるためです。基本は「つりそうなとき・つったとき」の頓服として使い、頻繁に必要になる場合は原因の検索も含めて医師・薬剤師に相談してください。
Q. 妊娠中・透析中でも対処法は同じですか?
妊娠中はミネラルバランスが変化しやすく、こむら返りが起こりやすい時期です。市販薬や漢方を使う前に、必ず主治医・薬剤師に相談してください。透析を受けている方は、体液量や電解質(とくにカリウム・カルシウム)の管理が治療と密接に関わるため、水分・ミネラル補給の量も含めて自己判断は避け、透析施設の指示に従ってください。いずれもストレッチや保温といった物理的な対処は取り入れやすい方法です。
Q. サプリメント(マグネシウムなど)は効きますか?
マグネシウム補給の効果については研究によって結果が分かれており、すべての人に有効とは言いきれません。腎機能が低下している方では過剰摂取のリスクもあるため、サプリメントを試す前に医師・薬剤師に相談すると安心です。
医療職向け活用ポイント——鑑別の閾値と薬剤性の視点
外来や在宅で「足がつる」という訴えに出会ったとき、一過性の筋けいれんと割り切る前に押さえておきたい鑑別の視点を整理します。院内勉強会や研修医指導の素材としてもご活用ください。
- 血管性の鑑別(ASO/PAD):労作で増悪し安静で軽快する下肢痛・間欠性跛行があれば末梢動脈疾患を疑い、ABI(足関節上腕血圧比)が0.9未満でスクリーニング陽性と考えます。足背・後脛骨動脈の触知低下、皮膚温・色調の左右差もチェックポイントです。
- 電解質・代謝:頻回・難治の場合は低マグネシウム血症・低カルシウム血症・低カリウム血症を念頭に採血を検討します。アルコール多飲・PPI長期内服・下痢・利尿薬使用は低Mgのリスク因子です。
- 内分泌:甲状腺機能(とくに甲状腺機能低下症)は筋症状・こむら返りの背景になりえます。だるさ・体重変化・浮腫を伴う例ではTSH確認を。
- 薬剤性:スタチン(筋症状・まれにミオパチー)、利尿薬(低K・低Mg)、一部の降圧薬、β刺激薬(低K)を被疑薬として確認します。発症時期と処方変更の時間的関連を問診で拾うことが重要です。
- 神経・筋:糖尿病性末梢神経障害、腰部脊柱管狭窄症、まれに運動ニューロン疾患などの除外を、随伴所見(しびれ・筋力低下・筋萎縮・線維束性収縮)から検討します。
- 芍薬甘草湯のフォロー:頓服を超えて連用している例では、血圧・浮腫・血清カリウムのモニタリングを。甘草含有量(1日量で甘草6g相当になりうる)を意識し、他の甘草含有漢方との重複に注意します。
本セクションは一般的な鑑別の考え方を整理したものです。診断・検査の適応は患者背景により異なります。教育・研修目的での引用は、出典を明記のうえご自由にご活用ください。
まとめ
こむら返りは、脱水やミネラル不足、暑熱順化の不足、疲労や冷えなどが重なって起こりやすくなる、ありふれた症状です。梅雨から初夏は条件がそろいやすい季節でもあります。つったときはあわてず筋肉を伸ばし、保温と水分・ミネラルの補給を心がけましょう。
芍薬甘草湯は頼りになる選択肢ですが、甘草による偽アルドステロン症のリスクがあるため連用には注意が必要です。また、頻繁に繰り返す・片足だけ歩行時に痛む・全身症状を伴うといった場合は、閉塞性動脈硬化症や電解質異常など隠れた病気のサインかもしれません。気になるときは早めに医療機関へご相談ください。
参照ソース
- 徳島県医師会「こむら返り」
- 日本プライマリ・ケア連合学会「こむら返りに芍薬甘草湯」
- 福岡県薬剤師会「こむら返りの薬物療法は?」
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「閉塞性動脈硬化症」
- 日本循環器学会 末梢動脈疾患(PAD)ガイドライン(2025フォーカスアップデート)
- 厚生労働省・PMDA 重篤副作用疾患別対応マニュアル「偽アルドステロン症」
本記事は救急科専門医が一般向けに監修・執筆した医学情報です。診断・治療は個々の状態によって異なります。症状が続く・強い場合は医療機関を受診してください。

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