コンパートメント症候群|骨折後・ギプスで腕や脚が激痛・しびれは危険【救急科専門医が解説】

「骨折してギプスをしたあと、時間がたつほど痛みがどんどん強くなる」「腕や脚がパンパンに腫れて、しびれてきた」——こうした症状は、単なる打撲や骨折の痛みではなく、コンパートメント症候群(急性区画症候群)という緊急の病気のサインかもしれません。放っておくと数時間で筋肉や神経が元に戻らないダメージを受けてしまう、時間との勝負の病態です。この記事では、救急科専門医が「見逃してはいけない危険なサイン」と「受診の目安」をわかりやすく解説します。

なお、骨折そのものの応急処置や、ぎっくり腰・アキレス腱断裂といったケガの対処は別の記事で解説しています。ここでは、骨折や打撲などの「あと」に起こる、見逃してはいけない合併症に絞ってお伝えします。

コンパートメント症候群とは

私たちの腕や脚の筋肉は、「筋膜」という丈夫な膜で包まれ、いくつかの部屋のように仕切られています。この部屋をコンパートメント(筋区画)と呼びます。筋膜はほとんど伸び縮みしないため、内部でむくみ(腫れ)や出血が起きると、部屋の中の圧力(内圧)がどんどん高くなっていきます。

内圧が上がりすぎると、区画の中を通る細い血管が押しつぶされ、筋肉や神経に血液(酸素)が届かなくなります。この状態が続くと、筋肉や神経が壊死(えし=組織が死んでしまうこと)してしまいます。これがコンパートメント症候群です。とくに、けがのあとに急激に進行するものを「急性コンパートメント症候群」と呼び、緊急手術が必要になることがあります。

どんなときに起こる?(原因)

コンパートメント症候群は、次のような状況で起こりやすいことが知られています。すねの骨折(脛骨骨折)や前腕の骨折など、四肢の骨折後に多いのが特徴です。

  • 骨折:とくにすね(脛骨)や前腕の骨折。出血や腫れで内圧が上がります
  • 強い打撲・挫滅(ざめつ):交通事故や重い物に挟まれるなど、筋肉が強くつぶされたとき
  • きついギプス・包帯・シーネ:固定が締めつけすぎると、外から圧力がかかり血流が妨げられます
  • 長時間の圧迫:泥酔して腕を下敷きにしたまま寝てしまった、意識を失って同じ姿勢で倒れていた、など
  • 血流が再開したあと(再灌流):血管がふさがっていた部位の血流が戻ったときにも腫れが強くなることがあります
  • 激しい運動(労作性):ランニングなどの運動中や運動後に、下腿の筋肉で起こることがあります

骨折そのものの応急処置については、骨折の応急処置の記事で詳しく解説しています。あわせてご覧ください。

危険なサイン「5つのP」

医療現場では、コンパートメント症候群を疑うサインを、英語の頭文字をとって「5P」と呼びます。順番にご紹介します。

  • Pain(痛み):安静にしていても増していく激しい痛み。指やつま先をそっと伸ばそうとすると激痛が走るのが特徴で、「ケガの程度に見合わないほど強い痛み」がもっとも重要な早期サインです
  • Paresthesia(しびれ・感覚異常):ピリピリ、ジンジンといったしびれや、感覚が鈍くなる
  • Pallor(蒼白):皮膚が青白くなる、血の気が引く
  • Paralysis(麻痺):指やつま先が動かしにくくなる
  • Pulselessness(脈が触れない):末期になって現れる所見です

ここでもっとも誤解されやすく、危険なポイントがあります。「脈が触れる」「指が動く」からといって、決して安心はできないということです。脈が触れなくなる(Pulselessness)のはかなり進行した末期のサインで、そこまで待っていては手遅れになります。同じように、麻痺や蒼白も遅れて出てくる所見です。

早く気づくためのポイント

脈や動きよりも、次のような早い段階のサインにこそ注意してください。

  • 痛みが時間とともにどんどん強くなっていく
  • 痛み止め(鎮痛薬)が効かない、または効きが悪い
  • 患部を触ると、板のように硬く、パンパンに張って腫れている
  • 指やつま先を軽く動かす・伸ばすだけで激しく痛む

診断と、合併症としての腎臓への影響

診断でもっとも大切なのは、医師による診察(臨床所見)です。とくに「痛みがけがの程度に不釣り合いなほど強い」「足の指などを他動的に伸ばすと激痛が走る(他動的伸展痛)」といったサインは、早い段階で現れる重要な手がかりです。必要に応じて、区画に細い針を刺して内部の圧力を測る区画内圧測定を行います。一般に、内圧が約30mmHg以上、または「拡張期血圧−区画内圧」が30mmHg未満に近づくと、危険な状態と判断されます。

コンパートメント症候群では、圧迫された筋肉が壊れることで横紋筋融解症を合併することがあります。壊れた筋肉から出るミオグロビンという物質が尿に漏れ出し(赤褐色の尿)、血液検査ではCK(筋逸脱酵素)が上昇します。これが腎臓に負担をかけ、急性腎障害(AKI)を引き起こすことがあるため、全身の管理も重要になります。

治療は「時間との勝負」

急性コンパートメント症候群と診断された場合の治療は、緊急の筋膜切開(減圧術)です。硬く張った筋膜を切り開いて内圧を逃がし、血流を回復させます。発症からおおむね6時間以内が機能を残せるかどうかの分かれ目とされ、時間がたつほど筋肉や神経の回復が難しくなります。「少し様子を見よう」という自己判断が、取り返しのつかない後遺症につながることがあります。

なお、きついギプスや包帯が原因の場合は、まず固定を緩めるだけで内圧が下がることもあります。だからこそ「ギプスをしてから痛みが強くなった」ときに我慢せず、すぐ連絡することが大切です。

やってはいけないこと・受診の目安

良かれと思ってやりがちですが、注意したい行動があります。第一に、患部を心臓より高く上げすぎないこと。腫れを引かせようと高く挙げすぎると、かえって患部への血流が減ってしまう場合があります。第二に、冷やしすぎないこと。強く冷やすと血管が縮み、血流がさらに悪くなることがあります。第三に、きついギプスを我慢しないこと。「そのうち慣れる」と締めつけを我慢するのは危険です。

次のようなときは、コンパートメント症候群を疑って夜間でも救急を受診してください。骨折・打撲・ギプス固定・激しい運動のあとに、①痛みがどんどん強くなる・鎮痛薬が効かない、②腕や脚が板のように硬く腫れる、③しびれてくる、④指先の色が悪い(白い・紫っぽい)——これらは早く動くほど後遺症を防げるサインです。「大げさかな」とためらう気持ちが、この病気ではもっとも危険です。

よくある質問(FAQ)

Q. 脈がふれて指も動くのですが、大丈夫ですか?
脈が消える・麻痺するのは、かなり進行した末期のサインです。脈があり指が動いても、コンパートメント症候群は否定できません。判断の決め手は「不釣り合いに強い痛み」と「伸ばしたときの激痛」です。

Q. 運動のあとにも起こりますか?
激しい運動で一時的に内圧が上がる「労作性(慢性)コンパートメント症候群」もあります。運動をやめると軽快することが多いですが、症状が強い・長引く場合は整形外科を受診してください。

関連するケガの記事

手足のケガに関しては、次の記事も参考になります。あわせてご覧ください。

まとめ

  • コンパートメント症候群は、筋肉を包む区画の内圧が上がり、血流が途絶えて筋肉・神経が壊死する緊急病態
  • 骨折・強い打撲・きついギプス・長時間の圧迫・激しい運動などがきっかけになる
  • 危険なサインは「5P」。とくにケガに見合わない激しい痛み・時間とともに増える痛み・鎮痛薬が効かない・板のように硬い腫れが早期の手がかり
  • 「脈がある・指が動く」から大丈夫、ではない
  • 治療は緊急の筋膜切開。発症からおおむね6時間以内が機能温存の分かれ目で、様子見は禁物
  • ギプス後・ケガ後に痛みが強くなる・しびれる・指先の色が悪いときは、夜間でも救急受診を

本記事は救急科専門医が一般の方向けに解説したものです。個々の診断・治療については、必ず医療機関を受診してください。

参考:MSDマニュアル プロフェッショナル版(コンパートメント症候群)日本救急医学会 医学用語解説集日本整形外科学会

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