脳梗塞の症状と治療——救急科専門医が2025年最新ガイドラインをもとに解説

脳梗塞の症状と治療——救急科専門医が2025年最新ガイドラインをもとに解説

「突然、片方の手に力が入らなくなった」「うまく言葉が出てこない」——こうした症状は、脳梗塞のサインかもしれません。脳梗塞は時間との戦いです。発症から治療開始までの時間が短ければ短いほど、後遺症を残さずに回復できる可能性が高まります。

本記事では、救急科専門医の立場から、脳梗塞の症状の見分け方・救急での対応・2025年改訂の最新ガイドラインに基づく治療方針をわかりやすく解説します。

脳梗塞とは?

脳梗塞は、脳の血管が詰まることで血流が途絶え、脳細胞が壊死してしまう病気です。日本では脳卒中全体で年間約27万人が新たに発症し(国立循環器病研究センター)、そのうち約6〜7割を占める脳梗塞は現在131万人超が治療を受けています(令和5年厚生労働省患者調査)。

原因によって大きく3種類に分類されます。

  • アテローム血栓性脳梗塞:動脈硬化による血栓が血管を詰まらせるタイプ
  • 心原性脳塞栓症:心臓(主に心房細動)でできた血栓が脳の血管に流れ込むタイプ。重症になりやすい
  • ラクナ梗塞:脳の細い血管が詰まるタイプ。高血圧が主な原因

今すぐ確認!FASTで脳梗塞を見分ける

日本脳卒中学会が推奨する「FAST(ファスト)」は、脳卒中の症状を素早く確認するための合言葉です。以下の3つの症状が1つでも出たら、すぐに119番通報してください。

アルファベット意味チェック方法
F(Face)顔のゆがみ笑顔を作らせたとき、片側の口角が下がる
A(Arm)腕の麻痺両腕を前に伸ばすと、片方がずり落ちる
S(Speech)言葉の障害ろれつが回らない、言葉が出ない
T(Time)発症時刻の確認「いつから」症状が出たかを記録する

F・A・Sのいずれか1つでも当てはまれば、脳卒中の陽性予測値は70%以上と言われています。

また、「一時的に症状が出てすぐに治った」という場合も要注意です。これは一過性脳虚血発作(TIA)と呼ばれ、本格的な脳梗塞の前触れである可能性があります。「治ったから大丈夫」と自己判断せず、必ず救急受診してください。

救急搬送後の治療——時間が命を左右する

① tPA静注療法(血栓溶解療法)

脳梗塞の急性期治療として、現在も中心的な役割を担うのがtPA(アルテプラーゼ)静注療法です。詰まった血栓を薬で溶かす治療で、発症から4.5時間以内に投与することが条件です。

2025年改訂ガイドラインでは、軽症脳梗塞(NIHSS 5点以下)に対して、tPAの代わりに抗血小板薬投与を考慮し得るという新しい推奨が盛り込まれました(ARAMIS試験のエビデンスに基づく)。すべての患者に一律にtPAを投与するのではなく、重症度に応じた個別化治療の方向性が明確になっています。

また、アルツハイマー病の抗アミロイド抗体薬(レカネマブなど)を使用中の患者では、tPA投与前にMRIで脳の状態(ARIA:アミロイド関連画像異常)を確認し、慎重に適応を判断するよう新たな注意喚起が追加されました。

② 機械的血栓回収療法(カテーテル治療)

太い血管が詰まった重症脳梗塞に対して、カテーテルで血栓を物理的に回収する機械的血栓回収療法が近年急速に普及しています。

2025年改訂ガイドラインでは、この治療の適応がさらに拡大されました。

  • 大梗塞コアへの対応:以前は広範な脳の損傷がある場合は治療対象外とされることが多かったですが、新しい大規模臨床試験(RESCUE-Japan LIMIT、SELECT2など)の結果を受け、発症から24時間以内であれば大きな梗塞コアを有する患者でも機能予後の改善が期待できるとされました。
  • 脳底動脈閉塞(後循環系):ATTENTION試験・BAOCHE試験の結果を受け、発症から24時間以内の重症脳底動脈閉塞患者(NIHSS≥10、PC-ASPECTS≥6)に対して血栓回収療法を行うことが妥当と明記されました(推奨度B)。
  • 術後の血圧管理:血栓回収術後は速やかに収縮期血圧180mmHg以下に降圧することが新たに推奨されています(ただし140mmHg以下への過度な降圧は避けることも明記されています)。

発症したときの正しい行動

脳梗塞が疑われたら、以下の行動を取ってください。

  1. 発症時刻を確認する——「最後に正常だった時刻」を記録する(眠っている間に発症した場合は、最後に正常だった就寝前の時刻が起点)
  2. すぐに119番通報する——「脳卒中かもしれない」と伝えると優先的に搬送してもらえます
  3. 無理に動かさない——倒れている場合は、吐物で気道が詰まらないよう横向きに寝かせる
  4. 食べ物・飲み物を与えない——嚥下障害が起きていると誤嚥の危険があります
  5. 市販の薬を飲ませない——抗血小板薬や鎮痛剤は病院での治療方針に影響することがあります

脳梗塞を防ぐために——二次予防のポイント

脳梗塞を一度起こした患者は、再発リスクが高い状態にあります。以下の二次予防が重要です。

  • 抗血小板薬・抗凝固薬の継続服用:心房細動が原因の場合は抗凝固薬(DOAC)を継続する
  • 血圧管理:75歳未満・糖尿病・CKD(蛋白尿陽性)等のリスクがある患者では収縮期血圧130mmHg未満、75歳以上・両側頸動脈狭窄・主幹動脈閉塞がある患者では140mmHg未満が目標(推奨度B)
  • 血糖・脂質管理:HbA1c・LDLコレステロールの厳格なコントロール
  • 禁煙・節酒:生活習慣の改善
  • 定期的なリハビリテーション:早期から積極的に行うことで機能回復が期待できる

救急医からのまとめ

脳梗塞は「発症から治療開始までの時間」がすべてと言っても過言ではありません。2025年の最新ガイドラインでは血栓回収療法の適応がさらに拡大され、以前は治療困難とされていた重症例でも回復の可能性が広がっています。

大切なのは「FAST」を覚えておくこと、そして症状が出たら迷わず119番を呼ぶことです。「様子を見よう」という判断が、一生続く後遺症につながることがあります。

ご家族の中に脳梗塞リスクの高い方(高血圧・糖尿病・心房細動・喫煙者)がいる場合は、ぜひこの記事を共有してください。


参照ソース

  • 日本脳卒中学会「脳卒中治療ガイドライン2021〔改訂2025〕」改訂項目一覧
  • 国立循環器病研究センター 脳卒中発症データ
  • 厚生労働省 令和5年患者調査
  • 日本脳卒中学会「静注血栓溶解(rt-PA)療法 適正治療指針 第三版 2023年9月追補」
  • 日本脳卒中学会「経皮経管的脳血栓回収用機器 適正使用指針 第5版(2023年8月)」

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