「片側のこめかみがズキンズキンと脈打って、光がまぶしくて吐き気もする」「新生活が始まってから頭痛で寝込む日が増えた」――5月は片頭痛が悪化しやすい時期です。本記事では救急科専門医の立場から、片頭痛の診断基準・5月に悪化する理由・抗CGRP抗体製剤を含む最新治療・救急受診サインまでを最新ガイドラインをもとに整理します。
片頭痛とは?緊張型頭痛との違い
片頭痛は、国際頭痛分類第3版(ICHD-3)および『頭痛の診療ガイドライン2021』で診断基準が定められた神経疾患です。国内有病率は約8.4%(女性は約13%)、20〜40代に多く、三叉神経血管系の活性化とCGRP(カルシトニン遺伝子関連ペプチド)放出による神経原性炎症が中心メカニズムとされます。
片頭痛の典型像(ICHD-3):4〜72時間続く発作、片側性/拍動性/中等度以上/動作で悪化のうち2項目以上、悪心・嘔吐または光・音過敏を伴う。月2回以上または生活に支障があれば治療対象です。
一方緊張型頭痛は頭全体の両側性の鈍い痛みで、動いても悪化せず吐き気や光過敏は基本伴いません。「動くと響く」「光が痛い」「吐き気がある」のうち2つ以上当てはまるなら片頭痛を強く疑い、緊張型頭痛と同じ対処を続けないことが重要です。
片頭痛と気象病の違い――どちらに当てはまるかチェック
片頭痛とよく混同されるのが気象病(天気痛)です。両者は別物ですが、同じ人に重なって出ることが多く読者層もかなり重なります。
気象病(天気痛):低気圧・気温・湿度の変化で誘発される、頭痛・めまい・倦怠感・耳鳴り・古傷の痛みなどを総称する「自律神経系の総合症候」。内耳が気圧センサーとして働き自律神経のバランスが揺らぐと考えられています。診断基準は確立しておらず、他疾患を除外したうえでつけられる概念です。
片頭痛:ICHD-3で診断基準が定められた独立した神経疾患で、トリプタン製剤・抗CGRP関連抗体薬・ラスミジタンなど効果が明確な治療薬の保険適応があります。診断と治療の道筋がはっきりしている点が気象病との大きな違いです。
つまり「天気のせいで頭痛い」と感じる人のすべてが片頭痛ではないし、逆に片頭痛持ちが気圧変動で発作を起こすことも非常に多く、両者は重なり合うのが実情です。気象病については別記事で詳しく解説しています:気象病(天気痛)とは?低気圧で頭痛・めまい・だるさが起こる仕組みと対処法。
かんたんチェック表:
- 月に複数日の頭痛がある/片側性で拍動性/動くと悪化/光・音過敏/吐き気を伴う――片頭痛要素が強い。本記事を読み進めてください。
- 気圧変化のたびに頭痛+耳ふさぎ感/めまい/全身のだるさ/乗り物酔いをしやすい――気象病要素が強い。気象病記事を併せてどうぞ。
- 両方当てはまる場合は片頭痛が気象変化で誘発されているパターンが多く、両記事の対策の組み合わせが有効です。
なぜ5月に悪化するのか――4つの誘発因子
気象病と片頭痛は別物ですが、5月は両方とも悪化しやすい時期です。気圧変動については別記事(post=543)で詳しく扱っているため、ここでは片頭痛固有の寒暖差・新生活ストレス・睡眠リズムに重心を置いて整理します。
1. 春の気圧変動:気象はガイドラインでも片頭痛の代表的トリガーと明記。5月は移動性高気圧と低気圧が入れ替わる時期で、気圧予報アプリで前日から身構える対策が有効です。
2. 寒暖差――自律神経の揺らぎ:5月は1日の寒暖差が10℃を超える日が続きます。自律神経の頻繁な切り替えが片頭痛発作の閾値を下げるため、羽織りもの携帯と室内外温度差を小さく保つだけでも発作頻度は減らせます。
3. 新生活ストレス――解放後の片頭痛:4月からの新生活・異動のストレスがGW明けに表面化します。片頭痛はストレスがかかっているときよりも解放された直後に発作が起きやすい(「週末頭痛」と同じ機序)ことが知られています。
4. 睡眠リズムの乱れ:連休中の夜更かしや寝だめからの通常勤務への切り替えはリズムを乱します。片頭痛は寝不足だけでなく寝過ぎでも誘発されるため、平日と休日の起床時刻差は2時間以内が理想です。
発作時の治療――トリプタン製剤を中心に
発作が起きたら早い段階での薬物治療が効果的です。痛みが軽いうちはアセトアミノフェンやNSAIDsで対応できますが、中等度以上にはトリプタン製剤が第一選択です。
- スマトリプタン・ゾルミトリプタン・エレトリプタン・リザトリプタン・ナラトリプタンの5種が保険適応。錠剤・口腔内崩壊錠・点鼻・皮下注射と剤型が豊富。
- 早期(軽度〜中等度の段階)での内服が最も効果的で、ピークを越えてからでは効きにくくなります。
- 虚血性心疾患・脳血管障害・コントロール不良の高血圧は禁忌のため必ず医師に相談を。
- トリプタンが効きにくい・使えない場合はラスミジタンやCGRP受容体拮抗薬の経口薬も登場しています。
予防治療と抗CGRP抗体製剤――月4日以上の発作で適応
月4日以上の発作、あるいは発作のたびに寝込む状態なら予防治療を検討します。従来の予防薬はロメリジン(カルシウム拮抗薬)、プロプラノロール(β遮断薬)、バルプロ酸、アミトリプチリンなどです。
抗CGRP関連抗体製剤(2021年から日本でも保険適応):片頭痛の中心メカニズムであるCGRPやその受容体を直接ブロックする注射薬で、ガルカネズマブ・フレマネズマブ・エレヌマブの3剤が使用可能です。月1回または3か月に1回の皮下注射で、月4日以上の発作があり既存予防薬で効果不十分な患者さんが対象。発作日数を約半数に減らせる人が多く、頭痛診療を一変させた薬剤として注目されています。
市販薬の使い過ぎに注意――薬剤の使用過多による頭痛(MOH)
『頭痛の診療ガイドライン2021』では薬剤の使用過多による頭痛(MOH)の基準が定められ、鎮痛薬の長期多用でかえって頭痛が慢性化することが知られています。
- アセトアミノフェン・NSAIDs単剤:月15日以上の使用が3か月を超えると注意
- トリプタン・エルゴタミン・オピオイド・複合鎮痛薬:月10日以上の使用が3か月を超えると注意
市販薬で月10日以上の鎮痛薬使用が続くなら、その時点で頭痛外来や脳神経内科を受診してください。漫然と飲み続けるのではなく誘因対策と予防治療を組み合わせる発想が大切です。
救急科専門医として――「これは片頭痛ではない」危険なサイン
片頭痛と思い込んでいた頭痛が実はくも膜下出血・脳梗塞・髄膜炎・急性緑内障発作だったケースは少なくありません。以下があれば片頭痛持ちでも自己判断せず救急車(119)を呼んでください。
- 突然始まり1分以内に最大強度に達する激しい頭痛(雷鳴頭痛)――くも膜下出血を強く疑う所見
- 「これまで経験したことのない、人生最悪の頭痛」
- 片側の手足の麻痺・しびれ・ろれつが回らない・視野が欠ける
- 意識がもうろうとする、けいれんを起こす
- 高熱と首の硬さ(うなじが曲がらない)を伴う頭痛
- 嘔吐を繰り返し目の奥の激痛と視力低下を伴う(急性緑内障発作の可能性)
- 50歳以降に初めて出現した頭痛、咳・運動・体位変換で悪化する頭痛
判断に迷うときは#7119も活用してください。
まとめ
片頭痛はICHD-3で診断基準が定められた神経疾患で、トリプタン製剤や抗CGRP関連抗体薬という効果の確立した治療薬があります。5月は気圧変動・寒暖差・新生活ストレス・睡眠リズムの乱れが重なる悪化シーズン。月4日以上の発作や月10日以上の鎮痛薬使用が続くなら頭痛外来や脳神経内科への相談を。雷鳴頭痛・神経症状を伴う頭痛・高熱と首の硬さを伴う頭痛だけは見逃さず119を。気象病と片頭痛は別物ですが、気象変化のたびにだるさ・めまいが強い場合は気象病記事(post=543)も合わせてご覧ください。
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参考文献・情報源
- 日本神経学会・日本頭痛学会『頭痛の診療ガイドライン2021』日本頭痛学会公式PDF
- 国際頭痛分類第3版(ICHD-3)日本語版:日本頭痛学会ICHD-3
- 日本頭痛学会「CGRP関連新規片頭痛治療薬ガイドライン」:日本頭痛学会CGRPガイドライン
- 日本頭痛学会「薬剤の使用過多による頭痛」解説:日本頭痛学会一般向け解説
- 厚生労働省 e-ヘルスネット:e-ヘルスネット

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