作成日:2026年4月20日/改訂番号①
ゴールデンウィークを前に、野山や草むらに出かける機会が増える時期になりました。そこで注意したいのが、マダニが媒介する感染症「SFTS(重症熱性血小板減少症候群)」です。国内の致死率は約27%と報告されており、2024年6月には世界初の治療薬ファビピラビルが承認されるなど、医療現場でも注目が高まっています。本記事では、救急科専門医がSFTSの症状・治療・予防法を最新情報に基づき解説します。
SFTSとは?マダニが媒介するウイルス感染症
SFTSは「Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome」の略で、SFTSウイルス(バンダウイルス科)によって引き起こされるダニ媒介性感染症です。日本では2013年に初めて報告され、2025年7月末時点で累計1,185例の報告があります。当初は西日本中心の疾患とされていましたが、2025年には神奈川県や北海道からも報告があり、全国的に感染リスクが広がっていると考えられています。
主な媒介者はフタトゲチマダニやタカサゴキララマダニなど、草むらや山林に生息する野生のマダニです。家の中にいるイエダニとは別物で、体長3〜8mm程度と肉眼で確認できる大きさです。春から秋にかけて活動が活発になり、特に5月〜8月の報告数がピークになります。
感染経路は3つある
- マダニによる咬傷:最も多い経路。野外でウイルスを保有するマダニに刺されて感染する
- 感染動物との接触:SFTSに感染した犬・猫などの体液や血液に触れて感染する事例が報告されている
- ヒトからヒトへの感染:患者の血液・体液に直接触れた医療従事者や家族の感染例がまれに報告されている
特に注意したいのが、ペットの犬や猫からの感染です。飼い猫がSFTSを発症し、看病していた飼い主が感染して死亡した事例も報告されています。散歩帰りにペットの体をチェックする習慣は、家族全員を守る一次予防になります。
症状:潜伏期間6〜14日、発熱と消化器症状が主体
SFTSの潜伏期間は6日〜2週間程度です。典型的な症状は以下のように進行します。
- 初期症状:38℃以上の発熱、全身倦怠感、頭痛、筋肉痛
- 消化器症状:食欲低下、吐き気、嘔吐、下痢、腹痛(しばしば目立つ)
- 神経症状:意識障害、けいれん、失語など
- 出血傾向:歯肉出血、下血、皮下出血(血小板減少による)
- 血液検査所見:血小板減少、白血球減少、AST・LDH・CKの著明な上昇
重症例では多臓器不全に至り、国内致死率は約27%と高く、特に高齢者で予後不良となる傾向があります。インフルエンザや一般的な胃腸炎と症状が似ているため、発症前2週間以内の野外活動歴を医師に伝えることが早期診断につながります。
救急外来を受診すべきレッドフラッグサイン
野山に入った数日後から発熱・消化器症状がある場合、以下のサインがあれば自宅で様子を見ず、すぐに救急外来を受診してください。
- 38℃以上の発熱が3日以上続く:SFTSは数日で急速に悪化する
- 意識がぼんやりする・会話がかみ合わない:脳症・髄膜脳炎の合併が疑われる
- 歯ぐきや皮膚から出血する・アザが広がる:血小板減少による出血傾向
- 尿量が明らかに減った:多臓器不全の初期サイン
- 嘔吐が止まらず、水分がまったく摂れない:脱水と電解質異常のリスク
- マダニに刺された跡がまだ残っている:受診時に必ず医師に見せる
世界初の治療薬「ファビピラビル」が2024年6月に承認
長らくSFTSには有効な抗ウイルス薬がなく、対症療法が中心でした。しかし2024年6月24日、愛媛大学などの研究成果をもとにファビピラビル(商品名アビガン)がSFTSの治療薬として承認されました。これは世界初のSFTS治療薬となります。
国内の特定臨床研究では、ファビピラビル投与群の28日致死率は約17.4%、追加試験(JP321)では約13.0%と報告され、既報の致死率約27%と比べて約半減する結果となりました。これは「発症7日以内の早期投与」で特に顕著です。発熱と消化器症状があり、発症前2週間以内に野山に入った履歴がある方は、必ず医師にその旨を伝えてください。診断の遅れが、そのまま予後に直結する感染症です。
救急科専門医が教える予防のポイント
SFTSにワクチンはありません。「マダニに刺されない」ことが最大の予防策です。
- 野山・草むら・農作業時は長袖・長ズボン・首にタオル・足を覆う靴を徹底する
- シャツの裾はズボンに、ズボンの裾は靴下や長靴に入れ込む
- 肌の露出部分にはディート(DEET)やイカリジン配合の虫よけ剤を使用する
- 帰宅後はすぐに入浴し、全身(特に脇・膝裏・耳の後ろ・頭皮・陰部)にマダニが付着していないか確認する
- 衣類は屋外で払ってから室内に入れ、可能なら洗濯乾燥機で高温処理する
- ペットにもマダニ駆除薬を使用し、散歩後は体に付着していないか確認する
マダニに刺されたときの正しい対処法
もしマダニが皮膚に食いついているのを見つけても、無理に引き抜いてはいけません。マダニの口器が皮膚内に残ると化膿・炎症の原因になりますし、強く潰すとウイルスを含む体液が体内に入る危険があります。
皮膚科または救急外来を受診し、専用の器具で除去してもらうのが安全です。除去後は数週間、発熱や倦怠感・消化器症状が出ないか注意深く観察し、症状が出た場合はすぐに医療機関を受診してください。その際、必ず「マダニに刺された」ことを医師に伝えることが早期診断につながります。
よくある質問(FAQ)
Q1. マダニに刺されても無症状なら大丈夫?
潜伏期間は最長2週間程度あります。刺された直後に無症状でも、2週間以内に発熱・倦怠感・消化器症状が出た場合はSFTSを疑い受診してください。SFTS以外にも、日本紅斑熱・ライム病・ツツガムシ病といったダニ媒介感染症のリスクもあるため、刺された跡が残っている場合は写真を撮っておくと診断の助けになります。
Q2. 子どもや妊婦が受診すべき目安は?
子どもや妊婦は一般に重症化リスクが高く評価されていませんが、免疫状態や脱水進行が早いため、発熱と消化器症状が重なれば大人よりも早めの受診が安全です。特に生後6か月未満の乳児、妊娠中の方、免疫抑制薬を使用している方は、症状が軽くても早期に医療機関に相談してください。
Q3. ペットから本当にうつるの?
はい、SFTSに感染した猫や犬の血液・体液に触れることで人に感染した事例が国内で複数報告されています。ペットが急に元気をなくし、発熱・嘔吐・下痢が続く場合は、すぐ動物病院に相談し、看病時は使い捨て手袋を使用し、体液に直接触れないよう注意してください。
まとめ
- SFTSはマダニが媒介するウイルス感染症で、国内致死率は約27%
- 発熱・消化器症状・血小板減少が特徴。発症前2週間の野外活動歴が診断の鍵
- 2024年6月、世界初の治療薬ファビピラビルが承認され、投与群の致死率は約13〜17%と約半減
- 予防の基本は「刺されないこと」。服装・虫よけ剤・帰宅後チェックを徹底
- 刺されたマダニは自分で抜かず、医療機関で除去してもらう
ゴールデンウィークや初夏のアウトドアシーズンを安全に楽しむため、正しい知識で備えましょう。
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