水中毒(運動関連低ナトリウム血症)とは?水分のとりすぎが招く落とし穴を救急科専門医が解説【2026年版】

「熱中症対策には、こまめに水を飲みましょう」——梅雨が明け、本格的な夏を前にして、毎日のように耳にする言葉です。実際、水分補給は熱中症予防の基本中の基本です。ところが救急の現場では、「水を飲みすぎたこと」が原因で意識障害やけいれんを起こし、救急搬送される患者さんが一定数いらっしゃいます。これが「水中毒(みずちゅうどく)」、医学的には低ナトリウム血症と呼ばれる状態です。本記事では、熱中症予防が浸透した今だからこそ知っておきたい「水分のとりすぎ」の落とし穴について、救急科専門医がわかりやすく解説します。

水中毒(低ナトリウム血症)とは?

私たちの血液には、ナトリウム(塩分)が一定の濃度で溶けています。このナトリウム濃度は、神経や筋肉が正常に働くために厳密にコントロールされています。ところが、短時間に大量の水だけを飲むと、血液中のナトリウムが薄まってしまい、濃度が下がります。これが低ナトリウム血症です。一般に血液中のナトリウム濃度が135mmol/L(=135mEq/L)未満になった状態を指します。

とくに、激しい運動の最中や後に水分を摂りすぎて起こるものを「運動関連低ナトリウム血症(EAH:Exercise-Associated Hyponatremia)」と呼びます。マラソンやトライアスロンなど4~6時間以上の長時間運動で発生しやすいことが知られていますが、夏場の部活動や登山、長時間の屋外作業でも起こり得ます。汗をかくと、体からは水分だけでなくナトリウムなどの電解質も失われます。その状態で水やお茶だけを大量に飲むと、血液中のナトリウムがさらに薄まってしまうのです。

どんな症状が出るのか

低ナトリウム血症の症状は、進行の度合いによって大きく異なります。軽度のうちは、次のような熱中症や疲労と見分けがつきにくい症状から始まります。

  • 頭痛
  • 吐き気・嘔吐
  • なんとなくだるい、ぼーっとする
  • 手足のむくみ

注意したいのは、これらの症状が熱中症の症状と非常によく似ている点です。「熱中症かもしれない」と思ってさらに水をがぶ飲みしてしまうと、かえって低ナトリウム血症が悪化するという悪循環に陥ることがあります。

さらにナトリウム濃度が下がると、脳の細胞に水分が移動して脳がむくむ(脳浮腫)状態になります。こうなると、意識がもうろうとする、錯乱する、けいれん発作を起こす、昏睡に陥るといった重篤な神経症状が現れ、最悪の場合は命にかかわります。急性に進行した低ナトリウム血症では、これらの神経症状が主体となるのが特徴です。

なぜ「水だけ大量に飲む」と危ないのか

健康な人でも、溶質(塩分など)を含まない水分を1時間あたり0.8~1.0リットル以上摂取し続けると、低ナトリウム血症のリスクが生じると報告されています。これは「ペットボトルを1時間に1~2本ずつ、立て続けに飲み続ける」ようなイメージです。「熱中症が怖いから」と善意で水を飲み続けた結果、体の調節能力を超えてしまうことがあるのです。

とくにリスクが高いのは、長時間の運動をする人、汗を大量にかく屋外作業者、そして「水だけ・お茶だけ」で水分補給をしている人です。スポーツドリンクや経口補水液には適度なナトリウムが含まれているため、水やお茶だけの補給よりも低ナトリウム血症を起こしにくくなります。

救急科専門医が教える正しい予防法

「水を飲んではいけない」という話ではありません。熱中症予防のための水分補給は引き続き重要です。ポイントは「飲み方」と「中身」です。

  • 「のどが渇いたら飲む」を基本に。あらかじめ時間を決めて大量の水を強制的に飲み続けるよりも、のどの渇きに応じて飲むことが、運動関連低ナトリウム血症(EAH)の予防として近年は推奨されています。
  • 大量の汗をかく場面では塩分も補う。1時間以上の運動や炎天下の作業では、水やお茶だけでなく、経口補水液や塩分・電解質を含む飲料を選びましょう。
  • 短時間での「がぶ飲み」を避ける。喉が渇いたからといって一気に大量に飲まず、少量をこまめに摂るのが基本です。
  • 体重の変化を目安にする。長時間の運動では、運動前後で体重が大きく増えていたら「水分の摂りすぎ」のサインです。逆に、一般には体重の2~3%減までを脱水の目安とする考え方もあります。

こんなときは医療機関へ

水分をしっかり摂っているのに、頭痛や吐き気、ぼんやりした感じが改善しない、あるいは悪化する場合は注意が必要です。とくに、意識がはっきりしない・呼びかけへの反応が鈍い・けいれんを起こしたといった症状があれば、ためらわずに救急車(119番)を要請してください。これらは脳浮腫を示す危険なサインです。

医療機関では血液検査でナトリウム濃度を測定し、重症度に応じた治療を行います。重症例では、ナトリウムを補う高張食塩水などを用いて、慎重に治療します。ナトリウムを急速に上げすぎると別の合併症(浸透圧性脱髄症候群)を起こすため、補正は医師の管理のもとで慎重に行われます。自己判断で大量の塩を摂るといった対応は危険ですので避けてください。

まとめ

熱中症予防として「水分補給」が広く浸透した一方で、その盲点となるのが「水分のとりすぎ」による水中毒(低ナトリウム血症)です。症状が熱中症と似ているため見逃されやすく、善意の「がぶ飲み」が悪化を招くこともあります。「のどの渇きに応じて」「汗をかいたら塩分も一緒に」「一気飲みは避ける」——この3点を意識して、安全に夏を乗り切りましょう。心配な症状があるときは、早めに医療機関に相談してください。

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※本記事は一般向けの健康情報であり、個別の診断・治療を行うものではありません。症状や持病に応じた対応は、必ず医療機関にご相談ください。

参考資料

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