田植えや草刈り、登山、キャンプなど屋外で過ごす機会が増える夏。実はこの季節、毒ヘビ「マムシ」による咬傷(こうしょう=噛まれること)が急増します。マムシに噛まれると激しい腫れと痛みが起こり、対応を誤ると腎臓や血液に重い合併症を招き、重篤化することもある決して軽視できないケガです。一方で「毒を口で吸い出す」「患部を強く縛る」といった昔ながらの応急処置は、現在ではかえって危険とされています。この記事では救急科専門医が、マムシの見分け方から正しい応急処置、病院での治療、受診の目安までを分かりやすく解説します。
マムシとは?見分け方とどこにいるか
本州・四国・九州に生息する毒ヘビは、主に「マムシ」と「ヤマカガシ」の2種類です。なかでもマムシ(ニホンマムシ)は日本の代表的な毒ヘビで、噛まれる事故が最も多く報告されています。
マムシの特徴
- 体長は約45〜80cmと小型。短いわりに胴が太く、ずんぐりして見えます。
- 頭が三角形で、首がくびれているのが特徴です。
- 体には灰色〜赤茶色の「銭形(ぜにがた)」と呼ばれる丸い模様が並びます。
よく似た無毒のアオダイショウは体長2m近くになる大型のヘビで、瞳が丸く、体に丸い銭形模様がない点で区別できます。ただし幼蛇はマムシに似た模様を持つことがあるため、自己判断は禁物です。マムシは田んぼのあぜ道、草むら、水辺、山林、河川敷など湿った場所を好み、夜行性ですが日中も活動します。屋外作業中に草むらへ無防備に手や足を入れて噛まれるケースが多く見られます。
噛まれたときの応急処置
マムシに噛まれたら、まず落ち着いて行動することが何より大切です。誤った民間療法はかえって被害を広げます。そして最優先は「できるだけ早く医療機関にたどり着くこと」。理想は1時間以内の受診です。
×やってはいけないこと
- ×口で毒を吸い出す……口の中の傷から毒が体内に入る危険があり、効果も期待できません。
- ×患部を強く縛って血流を完全に止める……強い駆血は組織の壊死(えし)を招き、かえって悪化させます。以前は強く縛る方法が推奨されていましたが、現在は否定されています。一般の方は無理に縛ろうとせず、安静と速やかな受診を最優先にしてください。
- ×ナイフなどで切開する……感染や出血のリスクが高く、推奨されません。
- ×走る・激しく動く……毒の回りを早めてしまいます。ただし「絶対に動くな」という意味ではなく、無理のない範囲で速やかに受診・搬送に向かうことが大切です。
○正しい対応
- 落ち着いて安静にする。慌てて走り回らないようにします。
- 噛まれた部位を心臓と同じくらいの高さに保つ。無理に高く上げたり、極端に下げたりせず、楽な姿勢でそっと固定します。
- 指輪・時計・きつい衣服を外す。腫れが進むと外せなくなり、血流を妨げるためです。
- できれば噛んだヘビの特徴を覚える・写真を撮る。種類の判断に役立ちます(ただし捕まえようとして再び噛まれないこと)。
- 速やかに医療機関を受診する。マムシ咬傷は時間との勝負で、理想は1時間以内。自力受診が難しければためらわず救急車を呼びましょう。受診先や救急隊には「ヘビに噛まれた」ことを必ず伝えてください(抗毒素を備えていない施設もあるため)。
病院での治療
医療機関では、まず腫れの広がり具合で重症度を判定します。腫れが手首や足首を超えて広がる、あるいは短時間で急速に進行する場合は重症と判断されます。
- マムシ抗毒素(抗血清)……毒を中和する治療で、重症例には早期投与が原則とされます。ウマ由来のため、まれにアレルギー反応を起こすことがあり、医師が慎重に適応を判断します。
- セファランチン……補助的に用いられることがある薬剤です。
- 破傷風の予防……傷口から破傷風菌が入る恐れがあるため、予防処置を行います。
- 合併症のモニタリング……マムシ毒は筋肉や血液、腎臓に影響を及ぼすことがあり、横紋筋融解(筋肉が壊れる)、急性腎障害、出血傾向(DICなど)に注意して血液検査や尿の色を継続的に確認します。
軽症に見えても腫れは数時間〜翌日にかけて進行することがあるため、入院して経過観察となるのが一般的です。
受診・救急要請の目安
マムシに噛まれた疑いがある場合は、症状の軽重にかかわらず必ず医療機関を受診してください。特に次のサインがあれば、ためらわず救急車を呼びましょう。
- 腫れが急速に広がり、関節を超えて進行している
- 強い痛み、皮下出血や水ぶくれが出てきた
- めまい、冷や汗、血圧低下などショックを疑う症状
- 尿が出ない、または赤褐色(コーラ色)の尿が出る
- ものが二重に見える、まぶたが下がる……これらはマムシ毒による神経症状で、多くの毒が入った重症化のサインです。すぐに救急要請を。
なお、もう一種の毒ヘビヤマカガシに噛まれた場合は、強い出血傾向を引き起こすことがあり、対応や使う抗血清が異なります。ヤマカガシ用の抗血清は国内でも限られた施設にしか保管されていないため、種類が分からないときも必ず噛んだヘビの特徴を伝えて受診することが重要です。
予防のポイント
- 草むらや田畑での作業時は長袖・長ズボン・厚手の手袋・長靴を着用する。
- 草むらにむやみに素手や素足を入れない。
- 足元が見えにくい場所では棒で先を確認しながら進む。
- 登山やキャンプでは足元をよく見て歩き、ヘビを見つけても刺激しない・近づかない。
なお、夏に多い「刺された・咬まれた」トラブルとしては、ハチ刺傷も注意が必要です。あわせて蜂に刺されたときの正しい応急処置とアナフィラキシーのサインもご覧ください。
まとめ
マムシ咬傷は夏の屋外で誰にでも起こりうるケガです。噛まれたら「吸い出す・強く縛る・切る・走る」はいずれもNG。落ち着いて安静にし、患部を心臓と同じくらいの高さに保ち、指輪や時計を外して、できるだけ早く(理想は1時間以内に)医療機関を受診することが正しい対応です。腫れの進行や全身症状があれば迷わず救急車を。そして何よりも、屋外では肌の露出を抑え、草むらに無防備に手足を入れないことが最大の予防策です。「たかがヘビ」と油断せず、適切に行動して大切な体を守りましょう。
※本記事は一般の方向けの情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。実際に咬傷を受けた際は必ず医療機関を受診してください。

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