扁桃周囲膿瘍とは?「片側だけのどが痛い」「口が開かない」は救急のサイン|救急科専門医が解説【2026年版】

「昨日からのどが痛い。でも痛いのは右側だけ。だんだん口が開かなくなって、声もこもってきた」——それは、ただの扁桃炎ではないかもしれません。扁桃周囲膿瘍(へんとうしゅういのうよう)は、扁桃の外側に膿の袋ができる病気です。放置すると気道が狭くなったり、炎症が首から胸へ降りていったりして重篤化することがあります。救急科専門医が、扁桃炎との見分け方と受診の目安を解説します。

扁桃周囲膿瘍とは?扁桃炎が「膿のかたまり」に育った状態

のどの奥の左右にある扁桃が細菌に感染して腫れるのが急性扁桃炎です。この炎症が扁桃をおおう膜を越えて外側に広がると扁桃周囲炎となり、さらに進んで扁桃の外側の隙間に膿がたまった状態が扁桃周囲膿瘍です。日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会も、扁桃炎をこじらせて扁桃のまわりに膿がたまる状態として説明しています。

順天堂大学医学部附属順天堂医院の解説によれば20〜30代の大人に多く、子どもには珍しいとされています。ただし「子どもはならない」わけではありません。日本小児感染症学会の報告では、扁桃周囲膿瘍は首まわりの深い部分に起こる感染症(深頸部感染症)のなかで最も頻度が高く、小児では思春期以降に多いとされる一方、実際に小児専門病院で診断された16例の年齢の中央値は8.6歳でした。学童期のお子さんでも起こりうると考えてください。

原因菌はA群レンサ球菌(いわゆる溶連菌)が多いものの、口の中にすむ嫌気性菌との複数菌感染も多く、日本小児感染症学会の『小児感染免疫』に報告された小児16例の検討では、原因菌が判明した12例のうち8例(67%)が複数菌感染でした。「溶連菌の迅速検査が陰性だったから大丈夫」とは言い切れない、というのが重要な点です。

「ただの扁桃炎」との見分け方——6つのサイン

扁桃炎と扁桃周囲膿瘍は、痛みの「出方」が違います。次のサインが揃うほど膿瘍が疑われます。

  • ①片側だけが激しく痛い:通常は左右どちらか一方に起こります。左右差のある痛みは大きな手がかりです
  • ②口が開かない(開口障害・trismus):炎症があごを動かす筋肉(内側翼突筋)に及んだサインです
  • ③こもった声:口に熱いものを含んだような話し方になり、”hot potato voice”(含み声)と呼ばれます
  • ④唾液をティッシュに出してしまう:痛みで飲み込めず、口からあふれます
  • ⑤耳に響く痛み:同じ側の耳が痛く感じることがあります
  • ⑥口蓋垂(のどちんこ)が反対側に押されている:膿のふくらみに押しやられて、正中からずれます

特に決定的なのが②開口障害⑥口蓋垂の偏位です。前述の小児16例の検討では、咽頭痛100%に対し口蓋垂偏位88%、開口障害56%と高頻度に認められ、発熱期間が短くても、また溶連菌迅速検査が陰性でも、開口障害と口蓋垂偏位の出現に注意して経過を追うことが早期診断につながると報告されています。

ご家庭では、明るい場所で鏡を見て「のどちんこがまっすぐか」「片側だけ大きくふくらんでいないか」を確認してみてください。ただし痛くて開かない口を無理にこじ開ける必要はありません。「口が開きにくい」こと自体が、そのまま受診すべき所見です。

【危険サイン】救急車を呼ぶ目安・すぐ受診する目安

次のいずれかがあれば、迷わず救急車(119番)を要請してください。

  • 息が苦しい、ゼーゼーする、横になると呼吸がつらい
  • いびきのような呼吸音がする、声が出しにくい
  • 首が腫れて硬く、首を動かすと激痛が走る
  • 胸の痛み・胸苦しさが加わった
  • よだれが止まらず、口から流れ出てしまう
  • ぐったりする、意識がぼんやりする、押しても消えない赤い斑点・紫斑が出てきた

息苦しさがあるときは、無理に横にしないでください。本人がいちばん楽な姿勢(座ったまま、少し前かがみなど)のまま救急車を待つのが安全です。

これらは膿が扁桃の周囲にとどまらず、首の深い層へ広がった深頸部膿瘍や、さらに胸へ降りた降下性壊死性縦隔炎を疑うサインです。兵庫医科大学病院は深頸部膿瘍について、炎症が首を走る太い血管に及ぶと出血など致命的になりうること、のどの腫れ(浮腫)で気道が狭くなりうることを挙げ、膿がたまった場所によっては緊急手術による切開排膿が必要になると説明しています。また日本小児感染症学会の報告では、扁桃周囲膿瘍の重篤な合併症として上気道狭窄・降下性壊死性縦隔炎・内頸静脈血栓症・レミエール症候群が挙げられ、早期発見・早期治療が望ましいとされています。短時間のうちに悪化しうる点が、この病気のこわさです。

救急車までは不要でも、その日のうちに耳鼻咽喉科または救急外来を受診すべき状態は次のとおりです。

  • 片側だけののどの痛み+38℃以上の発熱が続く
  • 指2本分ほども口が開かない
  • 水分がまったくとれない
  • 市販薬を飲んでも痛みが一晩で悪化している

糖尿病がある方、ステロイドや免疫を抑える薬を使っている方、がん治療中の方は、症状が軽く見えても重症化しやすいため、上の目安より早めに受診してください。

急性喉頭蓋炎とはどう違う?

のどの激痛で救急受診となるもう一つの緊急疾患に急性喉頭蓋炎があります。喉頭蓋炎は気道の入口のふたが腫れる病気で、口の中を見ても異常が見えにくいのに気道が塞がる危険がある、という点が異なります。一方の扁桃周囲膿瘍は、口を開ければ片側の腫れと口蓋垂の偏位が見えるのが特徴で、開口障害を伴いやすいのも違いです。ただし両者はどちらも気道の緊急事態であり、ご自身で区別する必要はありません。喉頭蓋炎の詳細は急性喉頭蓋炎の解説記事をご覧ください。

病院では何をするのか

  • 診察:口の中を観察し、片側の腫れ・口蓋垂の偏位を確認します
  • 造影CT検査:口の中を見るだけでは膿の広がりが判断できないときや、開口障害で観察が難しいときに行います。首の深い部分や胸へ膿が降りていないかも同時に評価します
  • 穿刺吸引・切開排膿:局所麻酔をして針で膿を吸引するか、小さく切開して膿を出します。治療の中心はこの「膿を出すこと」です
  • 抗菌薬の点滴:排膿と並行して行います。前述の小児16例の報告では、点滴の抗菌薬として全例でアンピシリン/スルバクタムが選択され有効でした(実際の薬剤は年齢・重症度・アレルギー歴により医師が判断します)
  • 入院:水分や食事がとれない、痛みが強い、気道が狭い、糖尿病などの背景がある場合は入院管理となります
  • 扁桃摘出術:膿の排出が難しい重症例や、扁桃炎・膿瘍を繰り返す場合に検討されます

ポイントは、扁桃炎が「薬で治す病気」なのに対し、扁桃周囲膿瘍は「膿を出す処置が必要な病気」だということです。抗菌薬だけで様子を見ても、膿の袋には薬が届きにくく改善しにくいのです。ここが決定的な違いです。

自宅でやってはいけない4つのこと

  • 市販の痛み止め・のどスプレーで粘る:痛みが隠れて受診が遅れ、その間に膿は広がります
  • 自分で潰そうとする・針を刺す:出血や感染の拡大を招きます。絶対に行わないでください
  • アルコールを飲む:血管が広がって腫れが増し、脱水も進みます
  • 熱いもの・辛いもの・喫煙:粘膜への刺激で症状が悪化します

なりやすい人(リスク因子)

注目されているのが喫煙です。日本口腔・咽頭科学会の学会誌に掲載された30例の研究では、扁桃炎を繰り返す患者は健診受診者より尿中コチニン(タバコ煙の指標)濃度が有意に高く(p=0.03)、扁桃炎とタバコ煙の関連が定量的に示唆されました。扁桃周囲膿瘍そのもののリスクを直接測った研究ではありませんが、膿瘍のもとになる扁桃炎を繰り返す背景として、喫煙・受動喫煙は無視できません。済生会も扁桃炎について、喫煙者は禁煙することでのどへの刺激を減らす効果があるとしています。

そのほか、むし歯や歯周病など口腔内の衛生状態が悪いこと、扁桃炎を年に何度も繰り返していること、糖尿病や免疫を抑える薬の使用など感染症が重症化しやすい背景がある方は、より慎重な経過観察が必要です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 扁桃周囲膿瘍は自然に治りますか?

膿の袋ができてしまうと、自然に吸収されて治ることは期待できません。治療の中心は穿刺吸引や切開による排膿で、抗菌薬だけでは膿の内部に薬が届きにくいためです。放置すると首や胸へ炎症が広がり、重篤化するおそれがあります。

Q2. 口が開かないのですが、何科を受診すればよいですか?

耳鼻咽喉科が専門です。夜間・休日で耳鼻咽喉科が開いていない場合は救急外来を受診してください。息苦しさ、首の腫れや硬さ、胸の痛みを伴う場合は、受診手段を探すより先に救急車を要請してください。

Q3. 抗生物質を飲んでいれば膿瘍にはなりませんか?

なりにくくはなりますが、確実には防げません。扁桃周囲膿瘍はA群レンサ球菌に加えて口の中の嫌気性菌などとの複数菌感染が多く、内服中でも進展することがあります。服薬中でも片側の痛みが強まる、口が開きにくくなるといった変化があれば再受診してください。

Q4. 切開したら必ず入院になりますか?

必ずではありません。排膿がうまくいき、水分や食事がとれて全身状態が安定していれば外来通院で治療できる場合もあります。一方で、飲食ができない、痛みが強い、気道が狭い、糖尿病などの背景があるといった場合は点滴治療のため入院となります。

Q5. 一度なったら扁桃を取ったほうがよいですか?

全員に必要なわけではありません。膿の排出が困難な重症例や、扁桃炎・扁桃周囲膿瘍を繰り返す場合に扁桃摘出術が検討されます。年齢や再発回数、生活への支障を含めて耳鼻咽喉科医と相談して決めるのが原則です。

まとめ

  • 扁桃周囲膿瘍は、扁桃炎→扁桃周囲炎→膿瘍と進展してできる膿の袋。20〜30代に多い
  • 見分け方は片側性・開口障害・こもった声・耳への放散痛・口蓋垂の偏位
  • 息苦しさ・首の腫れと硬さ・胸の痛みは救急車。深頸部膿瘍や降下性壊死性縦隔炎のサイン
  • 治療は穿刺・切開による排膿+抗菌薬。「薬だけで様子を見る」は通用しない
  • 市販薬で粘る・自分で潰す・飲酒・喫煙は禁物。喫煙はリスク因子そのもの

「のどが痛い」の多くは自然に治ります。しかし片側だけ痛くて、口が開かない——この2つが揃ったときは、時間との勝負になる病気を疑ってください。

※本記事は一般的な情報提供であり、個別の診断・治療に代わるものではありません。症状が心配なときは必ず医療機関を受診してください。監修:救急科専門医。

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