「急に40度近い高熱が出て、悪寒でガタガタ震える。関節も痛いし、これは風邪かインフルエンザだろう」——そう思って様子を見ているうちに、おしっこのときの痛みや頻尿、おしりの奥(会陰部)の鈍い痛みが強くなってきた。成人男性でこうした症状が重なるとき、それは風邪ではなく急性細菌性前立腺炎かもしれません。放置すると敗血症や尿が出なくなる尿閉、前立腺の膿の塊(膿瘍)へと進み、命に関わることもある、れっきとした救急性のある感染症です。救急科専門医が、見逃さないためのポイントを解説します。
まず確認|こんなときはすぐ受診を
- 高熱(38度以上)+排尿時の痛み・頻尿がそろっている → 早めに泌尿器科・救急外来へ
- 尿がまったく出ない(急性尿閉) → 救急受診
- ぐったりして意識がもうろう、冷や汗・震えが止まらない → 敗血症の疑い。ためらわず救急車も検討
急性細菌性前立腺炎とは
前立腺は、膀胱のすぐ下で尿道を取り囲むようにある、男性だけにあるクルミ大の臓器です。ここに細菌が感染して急激に炎症を起こした状態が「急性細菌性前立腺炎」です。前立腺が腫れて熱を持ち、高熱・排尿の症状・痛みが一気に出てくるのが特徴です。
細菌の多くは、尿道から尿の通り道をさかのぼって前立腺に入り込みます(上行性感染)。慢性的に経過する前立腺炎とは異なり、急性のものは全身に強い症状が出て、適切に治療しないと急速に悪化しうる点が重要です。
原因となる菌・なりやすい人
最も多い原因菌は、腸内にいる大腸菌(E. coli)をはじめとするグラム陰性桿菌で、報告により半数以上を占めます。これらの腸内細菌が尿道から侵入し、前立腺で増殖して炎症を起こします。
次のような状況・条件があると、発症リスクが高まります。
- 尿道カテーテル(管)を入れている、または最近入れた
- 前立腺の組織検査(前立腺生検)を受けた後
- 尿の流れが悪くなる前立腺肥大症などがある
- 過労・脱水・長時間の座りっぱなし・過度の飲酒など
- 糖尿病など、感染に対する抵抗力が落ちている状態
症状——なぜ「風邪」と間違えやすいのか
急性細菌性前立腺炎の症状は、大きく「全身症状」と「排尿・局所の症状」に分かれます。
- 全身症状:38度以上の高熱、悪寒・戦慄(ガタガタ震える)、倦怠感、関節痛、筋肉痛
- 排尿の症状:排尿時の痛み、頻尿、尿意切迫(我慢しづらい)、残尿感、排尿しにくさ
- 痛みの症状:会陰部(陰のうと肛門の間)・下腹部・腰の痛み。座る・歩くのもつらいことがある
問題は、最初に高熱・悪寒・関節痛といった全身症状だけが前面に出ることが多い点です。この段階では「インフルエンザや風邪をひいた」と自己判断しがちです。しかし、成人男性で高熱に加えて排尿時の痛みや頻尿、おしりの奥や下腹部の痛みを伴うときは、風邪では説明がつきません。この組み合わせに気づくことが、早期受診の最大の鍵になります。
こんなときは救急受診を——危険なサイン
急性細菌性前立腺炎は、放置すると細菌が血液に乗って全身に回り(敗血症)、重篤化する危険があります。次のサインがあるときは、夜間・休日でも救急受診を検討してください。
- 尿がまったく出ない・出にくい(急性尿閉)——前立腺の腫れで尿道がふさがれた状態。緊急処置が必要です
- 高熱が下がらず、悪寒・震えを繰り返す
- ぐったりして意識がぼんやりする、呼びかけへの反応が鈍い
- 血圧が下がる・脈が速い・冷や汗が出る(敗血症が疑われるサイン)
特に「高熱+排尿時の痛み」がそろっていたら、たとえ歩けても早めに泌尿器科か救急外来へ。「尿が出ない」「意識がもうろうとする」は、ためらわず救急車を含めた受診を考えるべき状態です。これらは敗血症の初期サインと重なります。
検査と診断
診断は、症状の経過と診察、そして検査を組み合わせて行います。
- 直腸診:肛門から指を入れて前立腺の状態を確認します。急性炎症では前立腺に強い圧痛があり、腫れて熱を持っています。なお、診断のための強い前立腺マッサージは、菌を血液中に押し出して菌血症を誘発する危険があるため、急性期には行いません
- 尿検査・尿培養:炎症の有無を調べ、原因菌と効く抗菌薬を特定します
- 血液検査:炎症の強さや全身への影響を評価します
- 画像検査:抗菌薬を始めても高熱が続く場合は、前立腺膿瘍(膿の塊)が隠れていないかをCTやエコーで確認します
治療と経過
治療の中心は抗菌薬です。症状が軽く全身状態が安定していれば内服(前立腺へ移行しやすいニューキノロン系など)で治療します。ただし近年は薬の効きにくい菌(耐性菌)も増えており、高熱があり全身状態が悪い場合は、入院のうえセフトリアキソンなどの点滴抗菌薬で治療を始めることがあります。どの薬を使うかは、尿培養の結果や重症度をみて医師が判断します。
治療期間は重症度や経過によって異なり、一般的に2〜4週間ほど抗菌薬を続けます。途中で熱が下がっても、再発や前立腺膿瘍・慢性化を防ぐため、医師の指示どおり最後まで飲み切ることが大切です。
尿がまったく出なくなった場合(急性尿閉)は、管(カテーテル)で尿を出す処置が必要になりますが、前立腺の炎症が強い時期は通常の尿道からの管を避け、下腹部から膀胱に管を入れる方法(膀胱瘻)がとられることもあります。いずれも医療機関で行う処置です。膿瘍ができている場合は、針や手術で膿を出す処置が必要になることがあります。
慢性前立腺炎との違い
「前立腺炎」という言葉でよく心配される慢性前立腺炎は、はっきりした高熱を伴わず、会陰部の違和感や軽い排尿の不快感が長く続くタイプで、命に関わる急性感染とは別物です。一方、今回の急性細菌性前立腺炎は突然の高熱と強い症状で発症し、救急性があるのが特徴です。両者は経過も対応も異なります。
予防・再発予防
- こまめな水分補給で尿をしっかり出す
- 尿意を我慢しすぎない
- 長時間の座りっぱなしを避け、適度に動く
- 過労・過度の飲酒・冷えを避けて体調を整える
- 処方された抗菌薬は最後まで飲み切る(中途半端な治療は慢性化・再発のもと)
よくある質問(FAQ)
Q. 風邪との見分け方は?
高熱や関節痛だけなら風邪と区別しにくいですが、排尿時の痛み・頻尿・残尿感・会陰部や下腹部の痛みを伴うなら前立腺炎を疑います。成人男性で「高熱+排尿の症状」がそろったら、風邪と決めつけず受診してください。
Q. 何科を受診すればいいですか?
泌尿器科が専門です。高熱でぐったりしている・尿が出ない・夜間や休日などの場合は、救急外来でも対応します。
Q. 人にうつる病気ですか?
多くは自分の腸内細菌が尿の通り道から入って起こるもので、風邪のように人にうつる病気ではありません。ただし性感染症が関与することもあるため、原因は医師が確認します。
まとめ
成人男性の突然の高熱・悪寒に排尿時の痛み・頻尿・残尿感・会陰部や下腹部の痛みが重なるとき、それは風邪ではなく急性細菌性前立腺炎の可能性があります。早く抗菌薬で治療すればしっかり治る病気ですが、放置すると敗血症・尿閉・前立腺膿瘍へと進み、命に関わることもあります。「高熱+排尿痛」に気づいたら早めに泌尿器科へ、「尿が出ない」「意識がもうろうとする」なら救急受診を。迷ったときは、ためらわず医療機関に相談してください。(関連記事:尿路結石とは?激痛発作の対処法と再発予防)
※本記事は一般的な医療情報の提供を目的としたものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。気になる症状があるときは医療機関を受診してください。救急科専門医が監修・解説しています。

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