心肺蘇生ガイドライン2025が変わった!救急科専門医が市民向けに4つの変更点をわかりやすく解説

2025年秋、日本蘇生協議会(JRC)が「JRC蘇生ガイドライン2025」のオンライン版を公開しました。このガイドラインは5年ごとに改訂される、日本における心肺蘇生(CPR)の公式な指針です。

今回の改訂は「大改訂ではない」とされており、一次救命処置(BLS)の基本的な流れ自体に大きな変更はありません。しかし、市民が知っておくべき4つの重要な追加・変更点があります。救急科専門医として、その内容をわかりやすく解説します。

そもそも「蘇生ガイドライン」とは?

蘇生ガイドラインとは、心停止や呼吸停止が起きたときにどのように対応すべきかを、最新のエビデンスに基づいてまとめた指針です。医療者だけでなく、市民向けの一次救命処置(BLS)のルールも含まれており、AEDの使い方や胸骨圧迫の方法も規定されています。

日本では年間約12万人以上が院外で心停止を起こすとされており(総務省消防庁)、その場に居合わせた市民がいち早くCPRを開始することが救命率を大きく左右します。一般市民によるAED使用が行われた場合の1か月後生存率は、何もしなかった場合と比べて約2倍以上に改善するというデータもあります。

だからこそ、ガイドラインの改訂内容を広く知ってもらうことが重要です。

JRC蘇生ガイドライン2025:4つの変更・追加ポイント

① AED使用時に服を全部脱がさなくてよい

従来の講習では「AEDを使う際は胸をはだける(服を脱がす)」と教えられてきました。2025年版では、

「適切な位置の素肌にパッドを貼ることができれば、服をすべて脱がさなくてもよい」

という記載が明確になりました。これは特に女性への配慮を踏まえた変更です。人目が気になってAEDをためらう市民が少なくない現状を受け、「完全に脱がさなくても貼れる場所に貼れればよい」と示されました。

実際の現場では、胸骨の右上と左側胸部の2か所にパッドを貼ります。衣服をずらして素肌に貼れれば問題ありません。AEDをためらわず使うことが最優先です。

② 死戦期呼吸をCPRのサインとして認識する

「死戦期呼吸(しせんきこきゅう)」とは、心停止直後に起こる不規則でしゃくりあげるような呼吸のことです。うめき声や「ガーガー」という呼吸音として見られることがあります。

これを「まだ息をしている」と誤解して、CPRを開始しないケースが報告されていました。2025年版では、

「死戦期呼吸を認めた場合もCPRが必要である」

と明記されました。倒れた人が変な呼吸をしているように見えても、意識がなく普段通りの呼吸でなければ、ためらわずに胸骨圧迫を開始することが重要です。

③ 心停止でなくても胸骨圧迫をためらわなくてよい

「本当に心停止なのか判断できない」「もし生きていたら骨を折るのでは?」という不安から、CPRをためらう市民は多くいます。2025年版では以下の一文が追加されました。

「心停止ではない場合でも、胸骨圧迫による傷害が発生するリスクは低く、救助者は恐れずに実施すべきである」

確かに胸骨圧迫では肋骨骨折が起こることがあります。しかし、心停止の場合に何もしないリスクの方がはるかに高い。「やりすぎ」への罪悪感よりも、「やらないこと」の方が命取りになる——このメッセージが込められています。

④ オートショックAEDへの対応

近年、オートショックAEDと呼ばれる新しいタイプのAEDが普及しています。従来のAEDはショックボタンを押す必要がありましたが、オートショックAEDは心室細動を自動検知するとボタンを押さずに自動的に電気ショックを行います

最新ガイドラインでは、

「AEDの音声メッセージに従う」

という点が強調されており、AEDの種類が変わっても、音声の指示に従えば対応できることが示されています。オートショックAEDでは「ショックボタンが見当たらない」と戸惑う人も多いため、「機械の声を聞いて従えばよい」と理解しておけば十分です。

基本的なBLSの手順(変わらない部分)

ガイドラインが改訂されても、一次救命処置の基本的な流れは変わりません。いざというときのために確認しておきましょう。

  1. 周囲の安全確認:自分が危険にさらされないか確認する
  2. 反応の確認:肩を叩いて呼びかける。反応がなければ次へ
  3. 大声で助けを求め、119番・AEDを要請:複数人いれば役割分担する
  4. 呼吸の確認:胸の動きを10秒以内で確認。普段通りの呼吸でなければCPR開始
  5. 胸骨圧迫30回:胸の中央(胸骨下半分)を深さ5〜6cmで100〜120回/分のリズムで圧迫
  6. 人工呼吸2回(可能であれば):講習を受けていない場合は胸骨圧迫のみでも可
  7. AEDが届いたら即使用:電源を入れて音声に従う
  8. 救急隊が来るまで継続:疲れたら交代しながら続ける

救急科専門医からのメッセージ

現場で心停止に遭遇したとき、誰でも戸惑います。「本当に心停止か」「骨が折れたらどうしよう」「AEDの使い方がわからない」——そういった不安がCPR開始を遅らせ、救命率を下げてしまいます。

今回の2025年版ガイドラインは、こうした「行動をためらわせる心理的バリア」を取り除くことに重点を置いた改訂です。服を全部脱がさなくていい、胸骨圧迫をためらわなくていい、機械の声に従えばいい——すべて「やれる人を増やす」ための言葉です。

地域のAED講習会や消防署の市民向け講習は無料で受講できます。年に1度でも復習の機会を設けることを強くお勧めします。あなたの行動が誰かの命を救います。

まとめ

変更・追加ポイント内容
AED使用時の服の扱い全部脱がさなくてよい。素肌にパッドが貼れれば可
死戦期呼吸不規則な呼吸でもCPRが必要。見逃さない
胸骨圧迫のリスク心停止でなくても傷害リスクは低い。ためらわずに実施
オートショックAEDボタンなしで自動ショック。機械の音声に従えばOK

引き続き、救急の現場から最新情報をお届けします。

JRC蘇生ガイドライン2025の変更点まとめ|BLSと一次救命処置の最新手順

JRC蘇生ガイドライン2025は、日本蘇生協議会が5年ごとに改訂する一次救命処置(BLS:Basic Life Support)の公式指針です。心肺蘇生法(CPR:Cardiopulmonary Resuscitation)の世界標準であるILCOR(国際蘇生連絡委員会)の最新エビデンスを反映しています。

2025年版で市民が知っておくべきポイントをまとめると次のとおりです。

  • 胸骨圧迫の深さ:成人で約5cm(6cmを超えない)。テンポは1分間に100〜120回
  • AEDの使用:服を完全に脱がさず、パッドを貼れる位置の素肌が見えればOK
  • 傷病者の評価:反応・呼吸の確認は10秒以内に
  • 119番通報:口頭指導(電話越しのCPR指導)を積極的に活用
  • 胸骨圧迫の中断:10秒以上中断しない(AED解析時を除く)

これらは「BLSガイドライン2025の変更点」として講習会でも順次反映されています。一次救命処置の手順自体は2020年版から大きく変わっていませんが、市民がためらわずにCPRを開始できるよう、文言や運用が見直されている点が特徴です。

よくある質問(JRC蘇生ガイドライン2025 FAQ)

Q1. JRC蘇生ガイドライン2025の主な変更点は何ですか?

2025年版では、AED使用時に服を完全に脱がさなくてもよいことの明文化、口頭指導の重要性の強調、市民救助者がCPRをためらわずに始められるための表現の見直しが主な変更点です。胸骨圧迫の深さやテンポなどの基本パラメータは2020年版から変更ありません。

Q2. BLS(一次救命処置)とは何ですか?

BLSはBasic Life Supportの略で、医療器具を使わずに行える救命処置のことです。胸骨圧迫・人工呼吸・AED使用などが含まれ、医療従事者だけでなく一般市民も実施できるよう講習が普及しています。心停止の現場で最初に行う処置として最も重要です。

Q3. 一次救命処置の手順を教えてください

基本の流れは「①安全確認②反応の確認③119番通報とAED手配④呼吸の確認⑤胸骨圧迫開始⑥AED装着」の順です。胸骨圧迫は1分間に100〜120回のテンポで、深さ約5cm。AEDが届いたら音声指示に従って解析・電気ショックを行います。

Q4. 心肺蘇生法(CPR)の胸骨圧迫の深さは2025年版で変わりましたか?

変わっていません。成人では約5cm(6cmを超えない)が引き続き推奨されています。これはILCOR(国際蘇生連絡委員会)の最新エビデンスでも確認されています。小児は胸の厚さの約3分の1、乳児は約4cmが目安です。

Q5. AED使用時に服を脱がす必要はありますか?

2025年版では、パッドを貼る位置の素肌が見えていれば服をすべて脱がす必要はないと明確化されました。これは特に女性傷病者への配慮を踏まえた変更で、人目を気にしてAEDをためらう市民が安心して使えるようにするための重要な改定です。


※本記事は一般市民の方向けの情報提供を目的としています。実際の処置は講習を受けた上で行ってください。

参考:日本蘇生協議会(JRC)公式サイト(jrc.umin.ac.jp)、総務省消防庁「救急・救助の現況」

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