2026年に入り、日本国内で麻疹(はしか)の患者報告数が増加しています。日本小児科学会や厚生労働省からは、春の渡航シーズンを前に注意喚起が出されました。本記事では、救急科専門医が麻疹の症状・潜伏期間・合併症・ワクチン接種について、最新の公的情報をもとに解説します。
作成日:2026年4月15日/改訂番号①
麻疹とはどんな病気か
麻疹は、麻疹ウイルスによって引き起こされる急性の全身感染症です。感染力が非常に強いことで知られ、免疫を持たない人が感染者と接触した場合、90%以上が発症するとされています。感染経路は咳やくしゃみによる飛沫感染だけでなく、空気感染(飛沫核感染)も成立します。換気の悪い室内では、感染者が立ち去った後もウイルスが空中を漂い、感染リスクが続くことが特徴です。
麻疹は「5類感染症」に指定されており、診断した医師は直ちに保健所へ届出る必要があります。マスクや手洗いのみでは感染を完全に防ぐことは難しく、唯一有効な予防手段はワクチン接種です。
潜伏期間と症状の経過
麻疹の潜伏期間は約10〜12日です。発症すると、症状は大きく3つの時期に分かれて進行します。
カタル期(2〜4日):38℃前後の発熱、咳、鼻水、結膜充血、眼やに、まぶしさなどの症状が続きます。この時期は普通の風邪と区別がつきにくく、しかし感染力が最も強い時期でもあります。他者への感染期間は発症(発熱)の1日前から解熱後3日を経過するまでとされており、特に発疹出現前のカタル期に最も強い感染力を示します。
発疹期(3〜4日):一度下がった熱が再び39〜40℃に上昇し、耳の後ろから顔、首、体幹、四肢へと赤い発疹が広がっていきます。発疹が出る直前には、頬の内側の粘膜に白い小さな斑点「コプリック斑」が現れ、これが麻疹を診断する重要な手がかりになります。
回復期:発疹は色素沈着を残しながら徐々に消退し、解熱します。発症から完全な回復までは2週間前後かかることが一般的です。
合併症が怖い病気である
麻疹は「ただの発疹の病気」ではありません。先進国であっても、麻疹患者1,000〜2,000人に1人程度が死亡する重大な感染症です。主な合併症として次のものが挙げられます。
- 麻疹肺炎:死亡原因として最も多い合併症です
- 麻疹脳炎:約1,000人に1人の頻度で発症し、後遺症や死亡のリスクがあります
- 中耳炎:小児で比較的多い合併症です
- 亜急性硬化性全脳炎(SSPE):感染から数年〜十数年後に発症する致死性の神経難病です
特に成人が感染した場合、小児よりも重症化しやすい傾向があります。妊婦が感染すると流産や早産のリスクが高まるため、妊娠を希望する女性は事前の抗体確認が推奨されます。
2026年の流行状況と渡航リスク
日本小児科学会は2026年4月、国内の麻疹患者報告数の増加を受けて注意喚起を公表しました。世界的にも欧州・東南アジアで麻疹の流行が続いており、海外からのウイルス流入例に加え、国内での集団感染事例も報告されています。
春はゴールデンウィークを含む海外渡航のピークにあたります。渡航前にワクチン接種歴を確認し、2回接種が完了していない場合は出発の2週間前までに医療機関へ相談することが推奨されます。
ワクチン接種と大人の追加接種
麻疹の予防にはMRワクチン(麻しん風しん混合ワクチン)が用いられます。1回の接種で約95%、2回接種でほぼ全員が免疫を獲得できるとされています。現在は小児の定期接種として1歳と小学校就学前の2回接種が行われています。
注意が必要なのは、1990年4月1日以前に生まれた方です。この世代は定期接種の機会が1回のみ、あるいは接種機会がなかった世代にあたり、免疫が不十分な可能性があります。接種歴が母子手帳などで確認できない場合、厚生労働省は任意での追加接種を検討するよう呼びかけています。
医療従事者、保育・教育関係者、海外渡航予定者は特に抗体確認と追加接種の優先度が高い対象です。抗体検査よりも追加接種を直接受けるほうが費用面・時間面で効率的な場合もあり、かかりつけ医との相談が勧められます。
こんなときは医療機関へ
発熱と咳、鼻水、結膜充血があり、さらに体幹に赤い発疹が広がってきた場合は、麻疹の可能性を念頭に行動してください。受診する際は次の点に注意が必要です。
- いきなり医療機関を受診せず、必ず事前に電話で連絡する
- マスクを着用し、周囲への感染拡大を防ぐ
- 公共交通機関の利用はできるだけ避ける
- 同居家族のワクチン接種歴も確認しておく
麻疹に対する特異的な治療薬はなく、対症療法が中心となります。だからこそ、事前のワクチン接種による予防が何よりも重要です。2026年春、海外渡航や人が集まるイベントを控えている方は、この機会にご自身とご家族のワクチン接種歴を確認してみてください。
参照ソース
- 厚生労働省「麻しん(はしか)」
https://www.mhlw.go.jp/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/measles/index.html - 日本小児科学会「2026年における麻疹患者数増加に関する注意喚起」
https://www.jpeds.or.jp/ - 厚生労働省「MRワクチン」
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/kekkaku-kansenshou/yobou-sesshu/vaccine/mr/index.html - 日本感染症学会「麻しん(はしか)が世界・国内で増加しています」
https://www.kansensho.or.jp/ - 国立感染症研究所「医療機関での麻疹対応ガイドライン 第七版」
https://www.mhlw.go.jp/content/001098090.pdf

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