ゴールデンウィーク明け、「会社に行きたくない」「朝起きられない」「動悸がする」といった不調を訴える方が増える時期です。これは俗に「5月病」と呼ばれ、新生活の緊張が緩んだ反動で心身に不調が現れる状態を指します。医学的には適応障害やうつ状態に関連することが多く、放置すると休職や受診の長期化につながることもあります。本記事では、救急科専門医の立場から、5月病の正体・救急外来でも見かける身体症状・受診の目安・セルフケアの方法を、2026年最新の公的情報に基づいて解説します。
5月病とは?正式な病名ではない
「5月病」は正式な医学用語ではなく、新入社員や進学・異動などで環境が大きく変わった人が、ゴールデンウィーク前後に新しい環境にうまく適応できず、心身の不調を訴える状態の通称です。厚生労働省「こころの耳」でも、5月病は医学的には適応障害や抑うつ状態に該当することが多いと解説されています。
4月の入学・入社・異動・転居といった生活変化は、本人が「楽しみ」「ポジティブ」と感じていても脳と自律神経には大きな負荷がかかっています。緊張で持ちこたえていた4月を経て、長期休暇でいったん緩んだ後に「もう一度あの環境に戻る」というタイミングで症状が顕在化しやすいのが特徴です。
適応障害の診断と症状
適応障害は、はっきりとしたストレス因(環境変化・人間関係・業務負荷など)が引き金となって、情緒面や行動面に支障が生じる状態です。日本精神神経学会の総説でも紹介されている通り、診断基準(DSM-5)ではストレス因の発生から3か月以内に症状が出現し、ストレス因が終わってから6か月以内に消退することが目安とされています。日常的なストレスの蓄積でも該当しうる点が特徴です。
こころの症状
- 気分の落ち込み、涙もろくなる
- 不安・焦燥感、イライラ
- 意欲の低下、集中できない
- 「会社に行きたくない」という強い回避感情
からだの症状
- 不眠(寝つけない・早朝覚醒)
- 動悸、息苦しさ、胸のつかえ
- 頭痛、めまい、肩こり
- 食欲不振、胃痛、下痢・便秘
- 慢性的な倦怠感
救急外来でも実は多い「ストレス由来の身体症状」
救急外来には、新生活シーズン以降「胸が苦しい」「過呼吸になった」「頭が割れそうに痛い」といった訴えで搬送される方が一定数います。心電図・採血・画像検査をしても明らかな異常が見つからないケースの中には、強いストレス反応やパニック発作、適応障害に伴う身体症状が背景にあることが少なくありません。
慶應義塾大学病院の解説でも、身体的な検査で異常が認められないにもかかわらず多彩な身体症状が続く場合は、身体症状症などの精神科的アプローチが必要になると説明されています。「異常なし」と言われても症状がつらいときは、決して気のせいではありません。
受診の目安——こんなときは早めに相談を
以下のサインがあるときは、医療機関や産業医、地域の相談窓口の利用を検討してください。
- 2週間以上、気分の落ち込みや意欲低下が続く
- 不眠(寝つけない・途中で目が覚める・早朝覚醒)が週3日以上・3か月以上続いている(慢性不眠症の診断基準に該当しうる)
- 朝起きられず欠勤・欠席が続く
- 食欲が落ち、体重減少がある
- 動悸・過呼吸・胸痛発作を繰り返す
- 「消えてしまいたい」という気持ちが浮かぶ
特に最後の項目があるときは、迷わず精神科・心療内科、または以下の公的相談窓口に連絡してください。胸痛や激しい頭痛が突然出現した場合は、まず救急外来で重篤な疾患を否定することも大切です。
- こころの健康相談統一ダイヤル:0570-064-556(お住まいの都道府県の公的相談窓口につながります)
- よりそいホットライン:0120-279-338(24時間・通話無料)
- いのちの電話:ナビダイヤル0570-783-556(全国の窓口は日本いのちの電話連盟サイト参照)
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」:電話・SNS相談窓口の総合案内ページ
セルフケアの基本——「頑張らない仕組み」をつくる
厚生労働省「こころの耳」では、ストレスをため込まないために、自分に合った複数の対処法(コーピング)を持つことが推奨されています。特別なことではなく、日常に取り入れやすい工夫の積み重ねが効果的です。
- 睡眠を守る:就寝・起床時刻を一定に保つ。寝る前1時間はスマホを置く。
- 朝の光を浴びる:起床後30分以内に屋外の光を浴びると体内時計が整う。
- 運動を少しだけ:1日10〜20分のウォーキングでも気分症状の改善が報告されている。
- 話せる相手を確保:友人・家族・同僚など、評価せず聞いてくれる相手に言語化する。
- カフェイン・アルコールを控える:不眠と不安を悪化させやすい。
- 「やらないこと」を決める:5月は新しい挑戦を増やさず、業務量も意識的に絞る。
周囲ができるサポート
新入社員・新人スタッフの上司や、新生活を始めた家族がいる場合、「最近元気ないね」「眠れている?」と一言声をかけることが大きな予防になります。叱責・励まし・原因追及はかえって追い詰めることが多く、まずは「話を聴く」「業務量を調整する」「受診を一緒に検討する」姿勢が重要です。
まとめ
- 5月病は正式病名ではないが、医学的には適応障害や抑うつ状態に該当することが多い
- こころの症状だけでなく、不眠・動悸・頭痛などの身体症状で救急外来を受診することもある
- 2週間以上不調が続く、不眠が長引く、希死念慮があるときは早めに医療機関や公的相談窓口へ
- セルフケアの基本は睡眠・朝の光・運動・対話・カフェイン制限・「やらないこと」を決めること
- 周囲は叱責ではなく傾聴と環境調整でサポートすることが回復を早める
新生活の疲れは、頑張ってきた証拠でもあります。「気合が足りない」と自分を責めず、早めに休む・相談することが何より大切です。
参照ソース
- 厚生労働省 こころの耳「適応障害:用語解説」 https://kokoro.mhlw.go.jp/glossaries/word-1653/
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「適応障害」 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-041.html
- 厚生労働省 e-ヘルスネット「不眠症」 https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/heart/k-02-001.html
- 厚生労働省 こころの耳「5月『五月病』とのつきあい方」 https://a.ns.kokoro.mhlw.go.jp/column/sea05/
- 日本精神神経学会「適応障害の診断と治療」精神神経学雑誌 120巻6号 https://journal.jspn.or.jp/jspn/openpdf/1200060514.pdf
- 慶應義塾大学病院 KOMPAS「身体症状症」 https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000071/
- 厚生労働省「まもろうよ こころ」 https://www.mhlw.go.jp/mamorouyokokoro/
- 厚生労働省 こころの健康相談統一ダイヤル https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/hukushi_kaigo/seikatsuhogo/jisatsu/kokoro_dial.html

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