「暑い日は水をたくさん飲めばいい」——そう思っていませんか?
実はこれ、半分正解で半分危険な考え方です。水分補給は熱中症予防の基本ですが、水だけを大量に飲むと「低ナトリウム血症」という命に関わる状態を引き起こすことがあります。
救急科専門医として、熱中症の患者さんを数多く診てきた立場から、正しい水分・塩分補給の方法と、熱中症予防に本当に効果的な食べ物・飲み物をお伝えします。
熱中症の基本的な知識についてはこちらの記事(熱中症の基本)もあわせてご参照ください。
熱中症予防に水だけでは不十分な理由——低ナトリウム血症の危険
人間の体液には、適切な濃度のナトリウム(塩分)が含まれています。正常値は血清ナトリウム濃度で136〜145 mEq/L。この濃度が崩れると、全身の細胞機能に異常が生じます。
大量発汗をしたとき、体からは水分と同時にナトリウムも失われます。そこに「ナトリウムを含まない水だけ」を補給し続けると、血液中のナトリウム濃度が希釈されて低下——これが低ナトリウム血症です。
低ナトリウム血症の症状は軽症では頭痛・吐き気・倦怠感ですが、重症化するとけいれん・意識障害・脳浮腫を引き起こし、最悪の場合は死に至ります。マラソン大会やスポーツイベントでも、「水を飲みすぎた」ことによる低ナトリウム血症の救急搬送例が報告されています。
水分補給には、必ず塩分(ナトリウム)をセットで摂ることが重要です。
脱水の詳しいメカニズムについてはこちらの脱水記事も参考にしてください。
理想的な飲み物の条件——塩分・糖分濃度
熱中症予防・軽症対応に適した飲み物の条件は、腸管からの吸収効率で決まります。
小腸はブドウ糖とナトリウムを同時に取り込む「共輸送体(SGLT1)」を持っています。この仕組みを最大限活用するために、飲み物の組成が重要になります。
| 項目 | 推奨濃度・量 |
|---|---|
| ナトリウム濃度 | 40〜80 mg/100mL(食塩換算で0.1〜0.2%) |
| 糖分濃度 | 2〜4 g/100mL |
| 飲む量・頻度 | 20〜30分ごとにコップ1〜2杯(約200〜400mL) |
糖分が高すぎると(5%以上)浸透圧が上がって腸管への水分移行が遅れ、吸収効率が落ちます。市販の清涼飲料水やジュースは糖分が10〜13%程度あるものも多く、熱中症対策の観点では不向きです。
また、ナトリウムが全くない飲み物では前述の低ナトリウム血症リスクがあるため、必ず電解質を含む飲み物を選びましょう。
経口補水液・スポーツドリンク・水の使い分け
市販の飲み物を正しく使い分けることが、熱中症対策の第一歩です。
| 飲み物 | Na濃度 | 糖分 | 適した場面 |
|---|---|---|---|
| 経口補水液(OS-1など) | 約50 mg/100mL | 約2.5 g/100mL | 熱中症・脱水の治療・軽症回復期 |
| スポーツドリンク(ポカリ等) | 約49 mg/100mL | 約6 g/100mL | 運動中・大量発汗時の予防的補給 |
| 水(ミネラルウォーター) | ほぼ0 | 0 | 食事と一緒・軽い活動時の補水 |
経口補水液(ORS)
日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2024」でも、軽症〜中等症の熱中症では経口補水液による水分・電解質補給が推奨されています。ナトリウム濃度がWHO推奨のORSに準じており、吸収効率が最も高い。ただし日常的な予防目的での大量摂取は不要(ナトリウム過剰になるリスク)。
スポーツドリンク
運動前後や屋外作業中の予防補給に適しています。ただし糖分がやや高いため、糖尿病の方は注意が必要。2倍希釈して使う方法も有効です。
水(ミネラルウォーター)
食事から十分な塩分を摂れている場合の補水には水で問題ありません。ただし、長時間の屋外作業や運動時に水だけで補給すると低ナトリウム血症のリスクがあるため、塩分タブレットや梅干しと組み合わせることを推奨します。
熱中症予防に効果的な食べ物——塩分・カリウム・水分を含む食品
「飲み物」だけでなく「食べ物」も水分・塩分補給の重要な手段です。食事から約1L/日の水分を摂取できると言われています。
水分を多く含む食品
| 食品 | 水分含有量(目安) | 特徴 |
|---|---|---|
| きゅうり | 約95% | カリウムも豊富。そのまま塩をつけて食べると塩分も補給可能 |
| トマト | 約94% | カリウム・リコペンを含む。熱中症対策に理想的な夏野菜 |
| スイカ | 約90% | カリウム・シトルリン含有。夏に最適な補水食品 |
| レタス | 約95% | 水分補給に優れるが塩分は少ないため他食品と組み合わせを |
塩分・ミネラル補給に役立つ食品
| 食品 | 特徴 |
|---|---|
| 梅干し | 塩分(ナトリウム)+クエン酸で疲労回復効果も。携帯しやすい |
| 塩分タブレット | 手軽にナトリウム補給可能。外出・運動時の携行に最適 |
| みそ汁 | 塩分+カリウム+水分を同時摂取できる理想的な熱中症予防食 |
| 漬け物 | 塩分補給に有効。過剰摂取には注意 |
| チーズ・牛乳 | カルシウム・ナトリウム・水分補給が可能 |
カリウムが豊富な食品(発汗で失うミネラル補給)
発汗ではナトリウム以外にカリウムも失われます。カリウムは細胞内液の浸透圧維持に必要なミネラルです。
- バナナ(手軽でカリウム豊富。運動後に最適)
- アボカド
- ほうれん草・小松菜
- さつまいも・じゃがいも
飲んではいけない・避けるべき飲み物——アルコール・カフェイン
アルコール飲料
アルコールは抗利尿ホルモン(バソプレシン)の分泌を抑制し、腎臓での水の再吸収を低下させます。結果として、飲んだ量以上に尿として水分が排出されるため、摂取量以上の脱水を引き起こします。
暑い日のビールは「水分補給」にはなりません。むしろ脱水を悪化させ、熱中症リスクを高めます。夏の飲酒後は必ず水や経口補水液で補水を。
カフェイン飲料(コーヒー・緑茶・エナジードリンク)
カフェインには腎臓でのナトリウム・水の再吸収を抑制する利尿作用があります。ただし、習慣的なコーヒー摂取(1日3〜4杯程度)では耐性が生じ、利尿作用は軽減されることも研究で示されています。
日常的にコーヒーを飲んでいる方が完全に避ける必要はありませんが、運動中・屋外作業中・すでに脱水気味の状態でのカフェイン大量摂取は避けるべきです。特にエナジードリンクは糖分・カフェイン濃度が高く、熱中症対策には不向きです。
糖分の多い清涼飲料水・ジュース
果汁100%ジュースや炭酸飲料は糖分が10%を超えるものが多く、浸透圧が高いために腸管からの水分吸収が遅れます。大量に飲むと下痢を引き起こすこともあり、脱水を悪化させる可能性があります(いわゆる「ペットボトル症候群」の原因にも)。
1日の水分摂取量の目安
厚生労働省「健康のための水分補給」によると、成人が1日に必要な水分量の目安は以下の通りです。
| 区分 | 必要水分量(目安) |
|---|---|
| 飲み物からの補給 | 約1.0〜1.5L |
| 食事からの水分 | 約1.0L |
| 体内で生成される代謝水 | 約0.3L |
| 合計(必要量) | 約2.5L |
夏季・屋外作業・スポーツ時はこれに加えて発汗量分(1〜2L以上)を上乗せして補給する必要があります。
水分補給のタイミング
- のどが渇く前に補給する(のどの渇きを感じた時点ですでに脱水が始まっています)
- 起床時・食事前後・入浴前後・就寝前は意識的に摂取
- 屋外作業・運動中は20〜30分ごとにコップ1〜2杯を目安に
- 高齢者は口渇感が低下しているため、時間を決めて定期的に摂取することが重要
まとめ
熱中症予防の水分・塩分補給について、救急科専門医の立場からポイントをまとめます。
- 水だけの大量補給は低ナトリウム血症のリスク——必ず塩分(ナトリウム)とセットで
- 理想の飲み物はナトリウム40〜80 mg/100mL、糖分2〜4 g/100mL
- 経口補水液は治療・回復向け、スポーツドリンクは予防・運動中向け
- 食べ物でも補給できる——みそ汁・梅干し・きゅうり・バナナが特に有効
- アルコールは脱水を悪化させる——夏の飲酒後は必ず補水を
- のどが渇く前に、定期的・計画的な補給を
特に高齢者・小児・慢性疾患をお持ちの方は熱中症リスクが高いため、周囲の方が積極的に声がけをしてください。
熱中症が疑われる症状(めまい・立ちくらみ・筋肉のけいれん・ひどい頭痛・意識障害など)が出た場合は、迷わず救急要請(119番)を。
参考資料
・日本救急医学会「熱中症診療ガイドライン2024」
・厚生労働省「健康のための水分補給」
・MSD マニュアル プロフェッショナル版「低ナトリウム血症」
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塩分タブレット
水と一緒に携帯しておくと、外出中や運動中のナトリウム補給に便利。低ナトリウム血症予防の強い味方。

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