梅雨から初夏にかけては、手足口病・ヘルパンギーナ・夏かぜなど発熱を伴うウイルス感染症が子どもの間で流行します。発熱に伴って起こりやすいのが「熱性けいれん」です。初めて熱性けいれんを目の当たりにすると、多くの保護者がパニックになり、誤った対応をしてしまいがちです。この記事では、救急科専門医が日本小児神経学会の「熱性けいれん(熱性発作)診療ガイドライン2023」をもとに、正しい初期対応と救急車を呼ぶ目安「5分ルール」を解説します。
熱性けいれんとは?
熱性けいれん(熱性発作)とは、おもに生後6か月から5歳ごろの子どもが、38℃以上の発熱に伴って起こすけいれんや一時的な意識障害のことです。日本人の子どもの約7〜8%程度が経験するとされ、決して珍しいものではありません。多くは脳に後遺症を残さず、成長とともに自然に起こさなくなります。
けいれんが15分未満で、左右対称の全身性、24時間以内に繰り返さないものを「単純型」と呼びます。一方、けいれんが15分以上続く、体の一部だけがけいれんする(左右差がある)、24時間以内に繰り返す——このいずれかに当てはまるものを「複雑型」と呼び、より慎重な観察が必要です。
熱性けいれんが起きたときの初期対応
けいれんが始まったら、まず慌てずに以下の対応をとってください。
- 体を横向きにする——嘔吐物による窒息を防ぐため、顔と体を横向きにして寝かせます。
- けいれんの様子と時間を記録する——「何分続いたか」「左右対称だったか」「目の向き」は、その後の診断にとても重要です。可能ならスマートフォンで動画を撮っておくと医師の判断に役立ちます。
- 周囲の安全を確保する——硬いものや角のあるものから遠ざけます。
絶対にやってはいけないこと
良かれと思った行動が、かえって子どもを危険にさらすことがあります。次の行為は絶対に避けてください。
- 口の中にタオルや指、箸などを入れる——「舌を噛む」ことを心配する方が多いですが、熱性けいれんで舌を噛んで重大な事態になることはほぼありません。逆に口に物を入れると窒息や嘔吐の誘発、けがの原因になります。
- 体を強く押さえつける・揺さぶる・大声で呼びかける——けいれんは止まりませんし、けがにつながります。
- あわてて口移しの人工呼吸をする——けいれん中は不要で、嘔吐物の誤嚥を招く危険があります。
「5分ルール」——救急車を呼ぶ目安
熱性けいれんの多くは数分以内に自然におさまります。判断の基準となるのが「5分ルール」です。けいれんが5分以上続く場合は、ためらわず119番通報してください。ガイドライン2023では、けいれんが5分以上続く状態を「薬物治療の開始を考慮すべき状態」と位置づけており、放置すると「熱性けいれん重積状態」につながるおそれがあります。医療機関での速やかな治療が必要になるため、5分を一つの目安にしてください。
5分以内におさまった場合でも、次のようなときは救急受診・救急車を検討してください。
- けいれんが止まっても、呼びかけに反応しない・視線が合わない・極端にぐったりしている
- 24時間以内に2回以上けいれんを繰り返す
- 体の一部だけがけいれんする、または左右差がある
- 初めてのけいれんである
- 生後6か月未満、または6歳以上で起きた
- けいれん後も嘔吐を繰り返す、頭を痛がる、首が硬いなど髄膜炎・脳炎を疑う症状がある
とくに「いつもと様子が明らかに違う」と感じたときは、髄膜炎や脳症など別の病気が隠れている可能性があります。判断に迷うときは、こども医療電話相談「#8000」(厚生労働省)に相談するか、迷ったら救急車を呼んでかまいません。
解熱薬や再発予防について
「解熱薬を使うと熱性けいれんを誘発する/予防できる」という説を耳にしますが、ガイドライン2023では、解熱薬の使用が熱性けいれんの再発を増やすことも、予防することもないとされています。つらそうなときには、子どもの月齢・体重に合った解熱薬(アセトアミノフェンなど)を通常どおり使ってかまいません。
くり返す場合に、発熱時にジアゼパム坐剤を使う予防法がありますが、これはすべての子どもに必要なものではありません。けいれんが15分以上長引いた既往がある、短期間に何度も繰り返すなど、再発リスクの高い一定の条件を満たす場合に、医師が判断して処方します。自己判断で常用するものではありません。予防接種についても、熱性けいれんの既往があるからといって控える必要はないとされています。具体的な対応は、かかりつけの小児科医にご相談ください。
家庭で備えておきたいこと
熱性けいれんは突然起こるため、事前の心構えがあるだけで落ち着いて対応できます。次の3点を家族で共有しておきましょう。
- 「時間を測る」と決めておく——けいれんが始まったら、まずスマートフォンのストップウォッチを押す習慣をつけておくと、5分の判断が確実になります。体感時間は実際より長く感じやすいためです。
- 動画を撮る役割を決めておく——左右差や持続時間は診断の決め手になります。慌てず撮影できるよう、家族で役割を相談しておきましょう。
- 母子健康手帳・お薬手帳をすぐ出せる場所に——過去の発作歴やジアゼパム坐剤の処方歴は、救急隊や医師への重要な情報です。
よくある質問(FAQ)
Q. 熱性けいれんで後遺症は残りますか?
多くの単純型熱性けいれんは脳に後遺症を残さず、成長とともに自然に起こさなくなります。ただし、けいれんが長く続く・くり返す・けいれん後の意識がはっきりしないなどの場合は、別の病気が隠れていないか確認が必要です。
Q. 熱性けいれんを起こすと、将来てんかんになりますか?
単純型熱性けいれんのお子さんが将来てんかんを発症する割合は、一般の子どもと大きくは変わらないとされています。複雑型や、てんかんの家族歴・発達の遅れなどがある場合はリスクがやや高くなるため、医師の経過観察が望ましいです。
Q. 一度熱性けいれんを起こすと、毎回起こすようになりますか?
必ず再発するわけではありません。再発する子もいれば、一度きりの子もいます。初めての発症が低年齢である・家族歴があるなどの場合は再発しやすい傾向がありますが、多くは年齢とともに起こさなくなります。
Q. すぐおさまったのに救急車を呼ぶのは大げさですか?
けいれんが5分以上続く、けいれん後も意識がはっきりしない、初めての発作などの場合は、ためらわず119番で問題ありません。救急要請は決して大げさではなく、重い病気を見逃さないための適切な判断です。
まとめ
熱性けいれんは多くの子どもが経験し、ほとんどは後遺症を残さずおさまります。大切なのは、横向きにして安全を確保し、口に物を入れず、時間を測ること。そして5分以上続く・くり返す・けいれん後の意識がおかしいときは迷わず119番です。落ち着いて対応できるよう、ぜひこの記事をご家族で共有しておいてください。
※本記事は一般的な情報提供を目的としたものであり、個別の診断・治療に代わるものではありません。実際の対応はかかりつけ医にご相談ください。
参考にした情報源
- 日本小児神経学会「熱性けいれん(熱性発作)診療ガイドライン2023」
- Minds ガイドラインライブラリ「熱性けいれん(熱性発作)診療ガイドライン2023」
- 厚生労働省「子ども医療電話相談事業(#8000)」
- 総務省消防庁「救急車利用リーフレット(子ども版)」

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