夜になると体中がかゆくて眠れない・家族にも広がってきたら|疥癬(かいせん)を疑うサインと治療・家での洗濯のしかた【救急科専門医・2026年版】

「夜になると体中がかゆくて眠れない」「家族にも同じかゆみが広がってきた」——その症状、もしかすると疥癬(かいせん)かもしれません。疥癬はヒゼンダニという小さなダニが皮膚に寄生して起こる感染症で、家族内や高齢者施設での集団発生が問題になります。市販のかゆみ止めでは治らず、気づかないうちに家族や同居者、施設内に広がってしまうのが特徴です。本記事では救急科専門医が、疥癬を疑うサイン・治療・周囲への対応を、日本皮膚科学会の診療ガイドラインに沿って解説します。

疥癬とは?ヒゼンダニが起こす皮膚の感染症

疥癬は、ヒゼンダニ(疥癬虫)という体長0.4mmほどの小さなダニがヒトの皮膚の角質層に寄生し、激しいかゆみを引き起こす病気です。メスのダニは角質にトンネル(疥癬トンネル)を掘りながら卵を産み、その糞やダニ自体に対するアレルギー反応によって強いかゆみが生じます。

日本皮膚科学会のガイドラインによれば、主な感染経路は肌と肌の直接の接触で、感染してから症状が出るまで約1〜2か月の無症状の潜伏期間(高齢者では数か月のこともある)があります。そのため「いつどこでうつったか分からない」ことが多いのも特徴です。角化型疥癬(後述)では、寝具や衣類などを介した間接的な接触でも広がります。

通常疥癬と角化型(ノルウェー)疥癬の違い

疥癬には大きく2つのタイプがあり、感染力がまったく異なる点が重要です。

  • 通常疥癬:寄生するダニの数は少なく、健康な成人では雌の成虫が患者の半数で5匹以下とされています。短時間の接触ではうつりにくく、個室への隔離は不要です。
  • 角化型疥癬(ノルウェー疥癬):免疫力が低下した方に起こりやすく、皮膚に厚いかさぶた状の角質ができ、その中に100万〜200万匹、ときに500万匹以上のダニが潜んでいます。感染力が非常に強く、短時間の接触や、はがれ落ちた角質(落屑)を介しても広がるため、治療開始後1〜2週間は個室で管理します。

角化型疥癬の患者さんからうつった場合は一度に多数のダニが移るため、潜伏期間が4〜5日に短縮することもあるとされています。高齢者施設では、一人の角化型疥癬の見逃しが集団発生の引き金になります。

こんな症状に注意:夜間に強くなるかゆみと疥癬トンネル

疥癬を疑う代表的なサインは次のとおりです。

  • 夜間に増悪する強い掻痒:体が温まる就寝時にかゆみが激しくなり、眠れないほどになります。
  • 疥癬トンネル:手首の内側・手のひら・指の間や指の側面に多く、足の裏、肘、わきの下、陰部、おしりなどにも見られる、わずかに盛り上がって蛇行する白っぽい線状の発疹です。雌のダニが卵を産みながら掘り進んだ道そのもので、疥癬に特異的な唯一の皮疹とされています。
  • 家族・同居者・施設内での集団発生:身近な複数の人が同じようなかゆみを訴えている場合、疥癬の可能性が高まります。

おへそのまわり・おなか・胸・わきの下・太ももの内側・二の腕の内側などに、激しいかゆみを伴う赤いブツブツ(丘疹)が散らばるのも特徴です。かゆみは夜に特に強く、眠れなくなることもあります。高齢者ではかゆみが目立たないこともあるので、「乾燥肌」「湿疹」として市販薬で様子を見ているうちに周囲に広がることがあります。

診断:ダーモスコピーと皮膚擦過検鏡

疥癬の診断は、症状や集団発生の状況に加えて、医療機関で次の検査を行って確定します。

  • ダーモスコピー:皮膚を拡大して観察する機器で、疥癬トンネルの先端にいるダニを確認します。
  • 皮膚擦過検鏡:疑わしい部位の角質を採取し、顕微鏡でヒゼンダニ本体や卵を見つけます。

確実な診断のためには皮膚科などの専門的な検査が望ましく、自己判断や市販薬での対応には限界があります。

疥癬の治療:内服薬と外用薬

日本皮膚科学会の「疥癬診療ガイドライン(第3版)」では、次の薬が用いられます(体重15kg以上の場合)。

  • イベルメクチン(内服):空腹時に水とともに体重あたり200μg/kgを内服します。推奨度A(行うよう強く勧められる)。高脂肪食の後に飲むと血中濃度が上がるため、空腹時に飲みます。
  • フェノトリン(外用):首から下の全身(発疹のないところも含む)に塗り、12時間以上たってから入浴やシャワーで洗い流します。1週間の間隔で少なくとも2回塗ります。推奨度A。
  • クロタミトン・イオウ剤(外用):第2選択の外用薬です(推奨度C1)。

治療で大切なのが1週間後の再診です。ガイドラインは、イベルメクチンを内服したら1週後に再来してもらい、顕微鏡検査かダーモスコピー検査でダニが見つかるか、疥癬トンネルなど特徴的な皮疹が新しく出ていれば、もう一度内服するとしています。通常は2回の内服で1か月前後で治るとされています。

注意したいのは、治療でダニがいなくなってもかゆみはすぐには消えないことです。ガイドラインによれば、ダニが死滅するときに放出される成分へのアレルギー反応が死滅後数か月続くことがあり、新しい特徴的な皮疹などダニの生存がはっきりしている場合を除き、かゆみや赤みだけを理由に漫然と再投与しないこととされています。「まだかゆいから薬が効いていない」と自己判断せず、再診で医師に確認してください。

角化型疥癬では、厚い角質層を除去したうえで、フェノトリン外用とイベルメクチン内服を併用するか、いずれか単独で治療します。

受診の目安と、家族・施設での対応

次のような場合は、皮膚科などの医療機関を受診してください。

  • 市販のかゆみ止めで改善しない、夜間に強くなる全身のかゆみが続く
  • 手指の間や手首などに線状の発疹がある
  • 家族・同居者・施設の入所者など、身近な複数の人に同じ症状が出ている

家庭での寝具・衣類の扱いは、通常疥癬と角化型疥癬で大きく違います。ヒゼンダニは高温に弱く、50℃・10分間で死滅するとされています。ガイドラインの感染予防の表では、通常疥癬の洗濯は通常の方法でよく、布団の消毒も不要です。一方、角化型疥癬では、洗濯物は落屑が飛び散らないようポリ袋に入れて運び、「普通に洗濯したあと乾燥機を使う」「50℃10分間の熱処理をしてから普通に洗濯する」などの方法をとります。過剰な消毒で家族が疲れ切ってしまわないことも大切です。

高齢者施設・訪問診療での集団感染対策

高齢者施設や訪問診療の現場では、疥癬の集団感染が大きな課題です。特に注意すべきは角化型疥癬の見逃しです。高齢者や免疫力が低下した方では典型的なかゆみが乏しいことがあり、「乾燥肌」「湿疹」として見過ごされている間に、一人の患者から施設全体へ広がってしまう危険があります。

集団感染を防ぐためには、原因不明のかゆみや皮膚のかさつきがある入所者は早期に皮膚科で評価すること、角化型が疑われる場合は速やかに個室管理と接触予防策をとること、寝具・衣類の適切な処理を徹底することが重要です。ケアにあたるスタッフの手指衛生や、ガウン・手袋の使用も感染拡大の防止に役立ちます。

まとめ

夜間に強くなる体中のかゆみ、手首や指の間の線状の発疹、家族や周囲での集団発生は、疥癬を疑う重要なサインです。疥癬は適切な内服・外用薬と1週間後の再診で治る病気ですが、かゆみはダニがいなくなった後もしばらく続くことがあります。自己判断で市販薬を続けず、早めに皮膚科を受診し、同居の家族も含めて対応してください。

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※本記事は一般的な医療情報の提供を目的としており、個別の診断・治療に代わるものではありません。症状がある場合は医療機関を受診してください。

参照ソース(一次情報)

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