寝たきりの親や、パーキンソン病・向精神薬を飲んでいる家族のお腹がパンパンに張って、便もガスも出ない。そんなときに疑うのがS状結腸軸捻転です。大腸の一部がねじれて腸閉塞になる病気で、下剤や浣腸を足しても解決しません。救急科専門医が、下剤を足す前に確認する3つのことと、夜間でも受診すべきサインを解説します。
結論:下剤を足す前に確認する3つのこと
- 便だけでなく、ガス(おなら)も止まっていないか
- お腹の張りが時間とともに強くなり、痛み・吐き気が出てきていないか
- その人が「なりやすい人」に当てはまらないか(高齢・寝たきり・パーキンソン病・向精神薬・慢性便秘・過去に同じことがあった)
3つとも当てはまるなら、便秘ではなく腸閉塞を疑って受診してください。強い腹痛、吐く、お腹を触ると痛がる、顔色が悪く冷や汗をかいている、のどれかがあれば夜間でも救急外来へ向かいます。
S状結腸軸捻転とは:大腸がねじれて出口がふさがる腸閉塞
S状結腸は、大腸の終わり近く、左下腹部でS字にうねっている部分です。ここがねじれると、ねじれた先に便とガスがたまって出られなくなります。日本臨床外科学会雑誌の症例報告(日本医科大学外科)は、「S 状結腸軸捻転症は腸間膜を軸として腸係蹄が捻れ回転することにより腸閉塞をきたす病態である」と説明し、発症頻度は全腸閉塞の6%と報告しています。
頻度は高くありませんが、日本医科大学武蔵小杉病院の報告は、この病気が「発見が遅れがちな寝たきりの高齢者や精神神経疾患症例に多い」ことを指摘しています。本人が痛みをうまく訴えられない人に起こりやすいため、周りの家族や介護職が気づく必要があります。
①便もガスも止まっていないか
同じ報告は、症状として「腹部膨満、便秘、排ガスの停止、腹痛などの症状があり」と挙げています。ポイントは「排ガスの停止」です。数日便が出ないだけならガスは出ていることが多いのですが、ねじれて出口がふさがると、おならも出なくなります。
おむつを使っている人なら、おむつにガスの音やにおいがあるか、便の汚れがまったくないかを見てください。「最後に便が出た日」と「最後におならが出たのに気づいた日」をメモしておくと、受診したときにそのまま伝えられます。
②お腹の張りが強くなり、痛み・吐き気が出ていないか
便秘のお腹の張りは、日によって変わります。S状結腸軸捻転では、ねじれた腸にガスがたまり続けるので、お腹が太鼓のように張ってきます。日本医科大学の91歳の症例も「前日から腹痛,便通停止」で受診し、お腹は膨満していました。
次のどれかがあれば、朝まで待たずに救急外来を受診してください。
- お腹の痛みが強い、または痛がり方が増している
- 吐いた、吐き気で食事や水分がとれない
- お腹を軽く押すだけで顔をしかめる・手で払いのける
- 顔色が悪い、冷や汗、ぐったりして反応が鈍い
日本医科大学武蔵小杉病院の21例では、初診時に腹膜刺激症状(お腹を押すと強く痛がる状態)が6例、ショック症状が5例にみられました。ねじれが強く腸の血流が悪くなると、腸の壁が傷んで重症になります。
③「なりやすい人」に当てはまらないか
長崎労災病院の報告(日本消化器内視鏡学会雑誌)は、S状結腸軸捻転が「高齢者(70~80代)、パーキンソン病や向精神薬を長期間内服している精神科疾患患者、長期臥床者、脊髄損傷患者などに多い」としています。日本医科大学武蔵小杉病院の報告も、「高齢男性や老人ホーム、精神科病院などに入居、入院している患者に多いとされる」と書き、その理由を「慢性便秘や投薬によりS状結腸の拡張をきたし、軸捻転を生じやすくなる」と説明しています。
もう一つ大事なのが、過去に同じことがあったかです。日本医科大学の91歳の男性は「約1年の期間に計7回の軸捻転をきたし、毎回内視鏡下整復を行った」と報告されています。一度起こした人は、次も同じ場所がねじれやすいと考えてください。
飲んでいる薬も確認する
腸の動きを鈍くする薬もあります。厚生労働省の「重篤副作用疾患別対応マニュアル 麻痺性イレウス」は、「腸管の動きが鈍くなる」麻痺性イレウスが、鼻炎薬、あへん系鎮痛薬、抗精神病薬、鎮痙薬、頻尿・尿失禁治療薬などで起こることがあるとし、「「お腹がはる」、「著しい便秘」、「腹痛」、「吐き気」、「おう吐」など」が続く場合は医師・薬剤師に連絡するよう求めています。麻痺性イレウスは腸がねじれる病気とは別のものですが、どちらも「薬と便秘とお腹の張り」がそろったときに見逃しやすい点は同じです。
受診するときは、同マニュアルが挙げるとおり「服用した医薬品の種類と量、服用からどのくらいたっているのか、症状の種類、程度などを医師に知らせてください」。お薬手帳を1冊持っていけば足ります。自己判断で薬をやめるのはやめてください。
家族がやってはいけないこと
- 下剤の量や種類を増やして様子を見る……出口がねじれてふさがっている状態では、下剤で腸を動かしても便は出てきません。
- 浣腸をくり返す……急性腹症が疑われるときは浣腸を使いません。浣腸の注意点は高齢者の便秘に浣腸を使う前に確認する5つのことで詳しく解説しています。
- お腹を強くもむ……張って痛いお腹を押し続けることは治療になりません。
- 「いつもの便秘」で朝まで待つ……便もガスも止まって張りが強くなっているなら、夜間救急に電話で相談してください。
病院では何をするか:レントゲンと内視鏡でねじれを戻す
診断はまずお腹のレントゲンです。日本医科大学外科の報告は、本症が疑われた場合「腹部単純レントゲン検査で約8~9割は診断が可能」としています。大きくふくらんだ腸が、コーヒー豆のような形に写ることがあります。必要に応じてCTで腸の血流の状態も調べます。
治療は、腸が傷んでいるかどうかで分かれます。日本医科大学武蔵小杉病院の報告は「腸管穿孔や腹膜炎の所見がない場合は内視鏡的整復が第1選択となる」としています。熊本赤十字病院も、「腸が破れたり腐れたりしていない場合は内視鏡的治療で治せる可能性があります」と説明しています。肛門から大腸内視鏡を入れてねじれた部分を通過させ、たまったガスと便を吸い出して、ねじれを戻します。
内視鏡での整復の成功率は、日本医科大学外科の報告で「内視鏡的整復術では76~90%」とされています。一方で、腸に穴が開いている、腹膜炎を起こしている、内視鏡で戻らない場合は、緊急手術になります。受診が遅れて腸の血流が悪くなるほど、内視鏡で済む可能性は下がります。
治ったあとが本番:再発を防ぐために
内視鏡で戻せても、ねじれやすい長いS状結腸はそのまま残っています。日本医科大学外科の報告は、内視鏡などで戻す治療の効果は一時的で「再発率は30~90%と高い」とし、「軸捻転を繰り返す症例は内視鏡的整復術などで急性期を乗り切ったあとに待機的にS 状結腸切除術を行うのが望ましい」としています。先の91歳の男性も、7回目のあとに腹腔鏡を使った手術を受け、術後7か月の時点で再発していません。
手術を選ぶかどうかは、年齢や体の状態、本人と家族の希望で決まります。手術をしない場合でも、便通の管理を続けることが欠かせません。長崎労災病院の症例では、再発の背景について「治療後の医療機関への定期受診がなく、慢性の便秘があったことが今回の再発の原因と思われた」と書かれています。
- 退院後も消化器内科・外科の外来に通い続ける
- 処方された便通の薬を自己判断でやめない・増やさない
- 便とガスの出た日を、介護記録やカレンダーに残す
- 施設やデイサービスに「過去にS状結腸軸捻転を起こした」と伝えておく
よくある質問
Q1. 便秘がひどいだけではないのですか?
便秘だけなら、ガスは出ていることが多く、お腹の張りが日に日に強くなることは多くありません。便もガスも止まり、お腹がどんどん張ってくる場合は腸閉塞を疑います。S状結腸軸捻転は慢性便秘がある人に起こりやすい病気なので、「いつもの便秘」と決めずに受診してください。
Q2. 夜中ですが、朝まで待ってもいいですか?
強い腹痛、吐く、お腹を触ると痛がる、顔色が悪く冷や汗をかいている、のどれかがあれば待たずに救急外来へ。痛みが軽くても、便もガスも止まってお腹が張り続けているなら、夜間救急に電話で相談してください。
Q3. 一度治れば、もう大丈夫ですか?
内視鏡で戻せても再発が多い病気です。学会誌の報告では再発率は30〜90%とされ、繰り返す場合は落ち着いてから予定手術でS状結腸を切除する方法が検討されます。退院後も外来通院と便通の管理を続けてください。
Q4. 飲んでいる薬は関係ありますか?
関係することがあります。S状結腸軸捻転は向精神薬を長く飲んでいる人に多いと報告されています。また厚生労働省は、抗精神病薬や鎮痙薬、頻尿・尿失禁の薬などで腸の動きが鈍くなることがあるとしています。自己判断で薬をやめず、受診時にお薬手帳を持参してください。
Q5. 女性でも起こりますか?
起こりますが、男性に多い病気です。日本医科大学武蔵小杉病院の21例も男性14例・女性7例でした。同報告は、女性に少ない理由として「女性の広い骨盤が捻転の自然解除に有利なため」という報告を紹介しています。
まとめ
S状結腸軸捻転は、大腸の一部がねじれて出口がふさがる腸閉塞です。寝たきりの高齢者、パーキンソン病や向精神薬を飲んでいる人、慢性便秘の人に多く、本人が訴えにくいぶん発見が遅れがちです。①便もガスも止まっていないか、②張りと痛み・吐き気が強くなっていないか、③なりやすい人か、を確認し、当てはまれば下剤を足さずに受診を。治ったあとも再発が多いので、外来通院と便通の管理を続けてください。
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参照ソース(一次情報)
- 菅隼人ほか(日本医科大学外科)「再発を繰り返した超高齢のS状結腸軸捻転症に対し腹腔鏡補助下前方切除術を行った1例」日本臨床外科学会雑誌 69(5), 2008
- 小西真理世ほか(日本医科大学武蔵小杉病院 消化器病センター)「当科におけるS状結腸軸捻転症に対する治療方針」Progress of Digestive Endoscopy 72(2), 2008
- 山口東平ほか(長崎労災病院 消化器内科)「吸引用に2本目の内視鏡を挿入して整復したS状結腸軸捻転症の1例」日本消化器内視鏡学会雑誌 63(4), 2021
- 熊本赤十字病院「S状結腸軸捻転に対して内視鏡的捻転整復術の成功の有無による再発率の検討」(臨床研究に関する情報公開)
- 厚生労働省「重篤副作用疾患別対応マニュアル 麻痺性イレウス」(令和3年4月改定)
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