本記事は看護師・研修医・病棟スタッフ・多職種チームを対象とした、救急科専門医による医療職向け解説です。院内で起こる心停止の多くは「突然」ではなく、数時間前からのバイタルサイン悪化という予兆を伴います。その予兆を早期に捉え、心停止に至る前に介入する仕組み――それがRRS(Rapid Response System)と早期警告スコアです。本稿では、救命の連鎖の最上流に位置する院内急変対応を、実践レベルで整理します。
なぜ院内急変対応システムが必要か
院内心停止(IHCA)の多くは突発事象ではありません。国際的な研究では、院内心停止の相当数(報告により最大約80%)で、発生の数時間前から呼吸数・血圧・意識レベルなどのバイタルサイン異常が先行していたと報告されています。つまり「介入できたはずの猶予」が存在したということです。
この予兆を捉えて対応する仕組みがRRSで、機能的に2つの「limb(枝)」で説明されます。ひとつはafferent limb(求心路=発見・起動)――病棟スタッフが悪化を認識し、チームを呼び出す部分。もうひとつはefferent limb(遠心路=対応)――呼ばれて駆けつけるチームです。実臨床で破綻しやすいのは前者の「気づいて・呼ぶ」段階(afferent limb failure)であり、ここを支える客観的ツールが早期警告スコアです。
NEWS/NEWS2:呼吸数が最も鋭敏な予兆
NEWS(National Early Warning Score)は英国王立内科医協会(RCP)が標準化した早期警告スコアで、現行のNEWS2は以下の7項目を点数化します。
- 呼吸数(最も鋭敏な悪化の指標)
- SpO2(酸素飽和度)
- 酸素投与の有無(室内気か酸素投与下か)
- 収縮期血圧
- 心拍数
- 意識レベル(ACVPU:Alert / Confusion / Voice / Pain / Unresponsive)
- 体温
採点は、呼吸数・SpO2・収縮期血圧・心拍数・意識・体温の6つの生理項目を各0〜3点で評価し、これに「室内気か酸素投与か」の項目を加えて、酸素投与を受けている患者には一律+2点を加算します。これらを合計してリスクを層別化します。一般に合計0〜4点=低リスク、5〜6点または単一項目で3点=中リスク、7点以上=高リスクとされ、点数に応じて観察頻度の強化から医師・RRT起動へとエスカレーションします。臨床的に重要なのは、呼吸数の上昇が最も早期かつ鋭敏な悪化サインである点で、脈拍や血圧が保たれていても頻呼吸を見逃さない姿勢が求められます。
NEWS2ではSpO2の評価に2つのスケールがあります。スケール1を原則すべての患者に適用し、SpO2 96%以上=0点、94〜95%=1点、92〜93%=2点、91%以下=3点と採点します(すなわち95%以下から加点が始まります)。一方、スケール2はCO2ナルコーシスのリスクがあるII型(高炭酸ガス性)呼吸不全患者に限り、能力ある臨床医が確定・記録した場合のみ使用し、目標SpO2を88〜92%に設定します(この患者群では酸素投与下でSpO2 93%以上になると逆に3点が付く点も特徴です)。COPD等で低めの酸素目標が指示されている患者では、スケールの取り違えがスコアの誤読につながるため注意が必要です。日本でも各施設が「早期警告スコア」として院内運用しており、電子カルテ連動での自動算出・アラートが広がっています。
RRS・RRT・MET:呼ぶ側と応える側
スコアが起動基準に達したら対応チームを呼びます。この対応チームの呼称は構成で異なります。RRT(Rapid Response Team)は看護師・呼吸療法士などを中心とした比較的簡素な編成を指すことが多く、MET(Medical Emergency Team)は医師(集中治療医など)を含み、その場で気道確保・薬剤投与といった介入まで行える編成を指すのが一般的です。いずれもRRSという大きな仕組みの「efferent limb」にあたります。
起動基準は、バイタルサインの閾値(例:呼吸数の著明な増減、SpO2低下、収縮期血圧低下、意識障害、けいれん、尿量減少など)に加え、「なんとなくおかしい(worried criteria/スタッフの懸念)」も正式な起動基準として明文化されている点が本質的です。数値が閾値未満でも、ベッドサイドの看護師が「何かおかしい」と感じたら、それだけで起動してよい――この主観的懸念を制度に組み込むことが、afferent limbの破綻を防ぎます。
起動をためらわせる「文化」を壊す
RRSが機能しない最大の要因は、システムの不備ではなく「呼びづらさ」という文化的障壁です。「大げさだと思われないか」「主治医に無断で呼んでよいのか」というためらいが起動を遅らせ、予兆を見逃す原因になります。これを是正する鍵は、誰でも・いつでも・咎められずに起動できる文化の醸成です。空振り(起動したが介入不要だった)をむしろ推奨し、起動者を決して責めない――この心理的安全性こそが、院内急変対応の成否を分けます。
ABCDEアプローチへ、そして救命の連鎖へ
チームが到着したら、初期評価はABCDEアプローチ(気道Airway・呼吸Breathing・循環Circulation・意識Disability・全身/体温Exposure)で系統的に進めます。「見つけたところから、命を脅かす順に」評価・介入する原則です。
院内急変対応は、救命の連鎖の中で心停止の「手前」を埋める最上流の営みです。ここで止めきれずに心停止へ至れば心肺蘇生ガイドライン2025に基づく蘇生が始まり、自己心拍再開後はROSC後の全身管理(PCAS・体温管理)へ、そして集中治療を経た患者では集中治療後症候群(PICS)への長期的配慮が続きます。さらに、こうした急変対応の議論はACP(人生会議)と多職種連携――「そもそもどこまで介入するか」の事前の合意――とも不可分です。急変を“心停止になる前”に止めることは、この連鎖全体の負荷を最上流で軽くする、最も費用対効果の高い介入といえます。
医療職向け活用ポイント
- 呼吸数を必ず測る:省略されがちだが最も早期の悪化サイン。「16回」の慣習的記載をやめ実測する。
- スコアは“呼ぶ根拠”:中リスク以上や単一項目3点は、遠慮なくRRT/MET起動の裏付けに使う。
- 「なんとなくおかしい」を言語化して起動:主観的懸念は正式な起動基準。数値が揃うのを待たない。
- スケール2は限定運用:II型呼吸不全の確定・記録がある患者のみ。取り違えに注意。
まとめ
院内心停止の多くには予兆があります。NEWS/NEWS2で悪化を客観的に捉え(afferent limb)、RRT/METが速やかに応える(efferent limb)――そして何より、誰もがためらわず起動できる文化をつくること。これが「心停止になる前に止める」ための実践です。呼吸数ひとつの気づきが、救命の連鎖の最上流を動かします。
※本記事は医療職向けの一般的な解説であり、特定施設の運用基準や個別患者の診療方針を代替するものではありません。実際の起動基準・スコア閾値・対応手順は、各施設のプロトコルおよび最新の学会指針に従ってください。
参照ソース
- Royal College of Physicians. National Early Warning Score (NEWS) 2 — https://www.rcp.ac.uk/resources/national-early-warning-score-news-2/
- 日本蘇生協議会 JRC蘇生ガイドライン — https://www.jrc-cpr.org/
- The NEWS2 in patients with hypercapnic respiratory failure (PMC6399647) — https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC6399647/
- Prevalence and significance of abnormal vital signs prior to IHCA (PMC4715919) — https://pmc.ncbi.nlm.nih.gov/articles/PMC4715919/

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