大腸憩室炎とは?左下腹部だけとは限らない痛みと発熱——虫垂炎と間違えやすい理由|救急科専門医が解説【2026年版】

お腹の一か所が痛くて、熱がある。押すとそこだけ強く痛む。数日たっても引かない——このとき、多くの方は「食あたり」か「盲腸(虫垂炎)」を思い浮かべます。しかし救急外来では、同じ症状で受診されて大腸憩室炎(だいちょうけいしつえん)と診断される方が少なくありません。しかも日本人の憩室炎は、教科書に書かれている「左下腹部」とは限らないという特徴があります。救急科専門医が、症状・虫垂炎との見分け方・受診の目安・治療と再発について、日本消化管学会のガイドラインと日本大腸肛門病学会の解説をもとに整理します。

  1. 大腸憩室炎とは?腸の壁にできた「小部屋」が炎症を起こした状態
  2. 日本人の大腸憩室炎は「左下腹部」とは限りません
  3. どれくらいの人に憩室があり、どれくらい発症するのか
  4. 症状——「一点が痛い」「熱がある」「押すと痛い」
  5. 【重要】痛みのない血便は、憩室炎ではなく「憩室出血」
  6. 虫垂炎(盲腸)との見分け——診察と血液検査だけでは足りません
  7. すぐ病院へ・救急車を呼ぶべきサイン
    1. 迷わず119番を考える状態
    2. その日のうちに受診したい状態
  8. 治療——多くは手術をせずに治ります
    1. 腸を休ませる
    2. 抗菌薬——ここは考え方が動いている領域です
    3. 膿瘍ができている場合
  9. 再発——繰り返しても、それだけで手術にはなりません
  10. 「食物繊維をとれば再発を防げる」は、まだ言い切れません
  11. 治ったあと、一度は大腸内視鏡を勧められる理由
  12. 何科を受診すればよいですか
  13. よくある質問(FAQ)
    1. 大腸憩室炎は左下腹部が痛くなる病気ではないのですか?
    2. 痛みがなく血便だけが出ました。これも憩室炎ですか?
    3. 虫垂炎(盲腸)と自分で見分けられますか?
    4. 憩室炎と診断されました。手術になりますか?
    5. 憩室炎は再発しますか?
    6. 食物繊維をとれば再発を防げますか?
    7. 治った後に大腸カメラを勧められました。必要ですか?
    8. どの段階で救急車を呼べばいいですか?
  14. まとめ
  15. 参照ソース(一次情報)
  16. 関連記事

大腸憩室炎とは?腸の壁にできた「小部屋」が炎症を起こした状態

大腸の壁には、風船のように外側へ飛び出した小さなくぼみができることがあります。これが大腸憩室です。日本大腸肛門病学会は次のように説明しています。

大腸憩室は大腸壁の固有筋層が欠損した部位から粘膜および粘膜下層が嚢状に漿膜側に突出した状態で(図1)、内視鏡で見ると凹みとして観察されます。
(日本大腸肛門病学会「大腸憩室出血 虚血性腸炎|市民のみなさまへ」より引用)

腸の壁は本来、筋肉の層を含む何層かの構造になっています。その筋肉の層が欠けたすき間から、内側の粘膜だけが袋状に押し出されたもの——それが憩室です。ですから憩室の壁はとても薄く、炎症が起きたときに外側まで届きやすいという弱点があります。

ここで大事なのは、用語が三つに分かれていることです。

  • 大腸憩室症……憩室が「ある」だけの状態。ほとんどは無症状で、大腸カメラや健診のCTで偶然見つかります。それ自体を治療する必要はありません
  • 大腸憩室炎……その憩室に炎症が起きた状態。痛みと発熱が出ます。この記事の主題です
  • 大腸憩室出血……憩室のそばの血管が破れて出血した状態。痛みを伴わない血便が主症状で、憩室炎とはまったく別の顔をしています

「憩室があると言われた」と「憩室炎になった」はまったく違う話です。健診で憩室を指摘されただけの方は、それ自体を心配しすぎる必要はありません。

日本人の大腸憩室炎は「左下腹部」とは限りません

大腸憩室炎といえば左下腹部——これは主に欧米のデータに基づく記述で、日本人にはそのまま当てはまりません。日本消化管学会のガイドラインは、憩室の場所について次のように述べています。

日本人では大腸憩室は右側結腸に多く,年齢とともに左側結腸の割合が増加する.米国白色人種では左側結腸に多い.
(日本消化管学会「大腸憩室症(憩室出血・憩室炎)ガイドライン」CQ3 ステートメントより引用)

解説部分ではさらに具体的で、本邦50歳未満の大腸憩室保有者では、75%近くの憩室が右側結腸に認められるとされています。加齢とともに左側結腸憩室の割合が増え、70歳以上では60%の症例で左側結腸に認められると記載されています。一方、米国では大腸憩室の80%が左側結腸にあり、S状結腸が70%と大半を占めます。

憩室炎そのものについても、同じ傾向が示されています。

本邦では,60 歳未満で右側結腸憩室炎が多く,より高齢では左側結腸憩室炎が多い.左側結腸憩室炎の方が合併症を伴いやすく重症化しやすい.
(同ガイドライン CQ23 ステートメントより引用)

この一文には、患者さんにとって大事な情報が二つ入っています。

ひとつは、60歳未満の方の憩室炎は右側に出やすいということ。つまり虫垂炎とまぎらわしいのです。もうひとつは、高齢の方に多い左側の憩室炎のほうが、合併症を伴いやすく重症化しやすいということ。ガイドラインの解説では、合併症を有する患者は左側結腸に多く(57.5%対26.4%)、死亡率が高まると記載されています。

なお、日本大腸肛門病学会は近年の変化にも触れており、「本邦では従来右側結腸(盲腸、上行結腸、横行結腸)の頻度が高く70%を占めていました。しかし、近年S状結腸憩室が増加してきており、右側型50-60%、左側型15%、両側に認めるものが20-35%程度とされています」としています。日本人の憩室は「右にも左にもある」と考えておくのが実際に近いでしょう。

どれくらいの人に憩室があり、どれくらい発症するのか

まず憩室そのものの多さです。ガイドラインは「本邦の大腸憩室保有率は欧米より低い」とした上で、解説で数字を挙げています。欧米では60歳以上で憩室保有率が50%を超えるのに対し、本邦の2001〜2010年の統計(平均年齢52歳)では、大腸憩室保有率は23.9%とされています。日本大腸肛門病学会も「高齢になるほど増加する傾向があり、近年、高齢者ではその頻度は20%に達すると言われています」と説明しています。

つまり、高齢の方の5人に1人前後は憩室を持っている計算になります。決して珍しいものではありません。

では、憩室を持っている人がどれくらい発症するのでしょうか。

本邦において,大腸憩室保有者の累積出血率は 0.2%/年・2%/5 年・10%/10 年である.大腸憩室炎は大腸憩室出血より 3 倍程度多い.
(同ガイドライン CQ4 ステートメントより引用)

出血の側から見ると、10年で10人に1人という頻度です。そして憩室炎は、その出血より3倍程度多いとされています。健診で憩室を指摘された方がすぐに何か起こすわけではありませんが、年単位で見れば決してまれな出来事ではない——この距離感が実際に近いと思います。

症状——「一点が痛い」「熱がある」「押すと痛い」

ガイドラインは、膿瘍・穿孔を伴わない大腸憩室炎の症状を次のように挙げています。

膿瘍・穿孔を伴わない大腸憩室炎の症状には,腹痛および憩室部位に限局した圧痛,発熱,嘔気,嘔吐などが挙げられる.
(同ガイドライン CQ27-2 解説より引用)

ポイントは「限局した」という言葉です。お腹全体が漠然と痛むのではなく、炎症を起こした憩室のある場所が、ピンポイントで痛い。指で押すとそこだけ強く痛む。これが憩室炎の痛み方です。

受診される方の訴えを整理すると、おおむね次のようになります。

  • 痛む場所が動かない……食あたりの痛みは「お腹全体がキリキリ」「便が出ると軽くなる」と波がありますが、憩室炎の痛みは同じ場所に居座ります
  • 数日かけて悪くなる……朝より夕方、昨日より今日、と少しずつ強くなる経過をたどることが多いです
  • 熱が出る……微熱から38℃台まで幅があります
  • 下痢が主役ではない……胃腸炎のような激しい下痢で始まることは多くありません。むしろ「お腹が張って便が出にくい」と言われる方もいます
  • 食欲が落ちる・吐き気がある

「何日も同じ場所が痛くて、熱がある」——この組み合わせは、市販薬で様子を見てよい腹痛ではありません。お腹の痛みで受診すべきかどうかの一般的な考え方については、お腹が痛いとき救急に行くべきサインもあわせてご覧ください。

【重要】痛みのない血便は、憩室炎ではなく「憩室出血」

ここは混同されやすいところなので、はっきり分けて書きます。大腸憩室出血と大腸憩室炎は、同じ憩室から起こるのに、症状も診療の流れもまったく違います。

ガイドラインの診療フローチャートは、憩室出血のほうが「急性発症の無痛性の血便を主訴とした患者」という一文から始まります。一方、憩室炎のフローチャートは「大腸憩室炎を疑う急性の腹痛または発熱を有する患者」から始まります。入口の時点で別系統なのです。

日本大腸肛門病学会の説明はさらに具体的です。

腹痛を伴うことなく突然に鮮やかな出血あるいは赤黒い出血を多量に認めた場合には、憩室出血を疑います。とくに、高齢者で解熱鎮痛薬や抗血栓剤を投与されている場合には強く疑う必要があります。
(日本大腸肛門病学会「大腸憩室出血 虚血性腸炎|市民のみなさまへ」より引用)

痛くないのに、まとまった量の血が出る。これが憩室出血の典型です。痛み止め(解熱鎮痛薬)や血をサラサラにする薬を飲んでいる高齢の方では、とくに疑わしくなります。

同学会は経過についても、「憩室出血の4分の3は自然止血するため、実際に内視鏡で観察した場合には既に止血している場合も少なくありません。しかし、一方で約4割が再出血すると言われており、出血量が多く輸血を必要とする場合もあります」と記しています。

ここを誤解しないでください。4分の3が自然に止まるというのは「放っておいてよい」という意味ではありません。約4割が再出血し、輸血が必要になることもある。しかも出血源がどの憩室かを特定するのは難しい。だからこそ血便が出た時点で受診する必要があります。

なお、痛みのあとに血便が出る場合は、また別の病気を考えます。代表が虚血性腸炎で、同学会は「急性に発症する下腹部痛、鮮血便や鮮血を混じた下痢が特徴的です」と説明しています。この違いについては突然の腹痛のあと血便(下血)が出たら|高齢者に多い虚血性腸炎で詳しく解説しています。

整理すると、こうなります。

  • 痛み+発熱、血便なし……大腸憩室炎を考えます
  • 痛みなし+まとまった血便……大腸憩室出血を考えます
  • 痛みのあとに血便・血の混じった下痢……虚血性腸炎などを考えます

どれも自己判断で確定できるものではありませんが、「痛みが先か、血が先か」「痛みを伴うか、伴わないか」は、受診したときに必ず聞かれる情報です。整理しておくと診察がスムーズになります。

虫垂炎(盲腸)との見分け——診察と血液検査だけでは足りません

ここが、日本人の憩室炎でいちばん実務的に重要なところです。ガイドラインは、右側の憩室炎について次のように明記しています。

本邦に多い右側大腸憩室炎の診断時には,急性虫垂炎との鑑別が重要であり,両者の鑑別は身体所見や血液検査だけでは不十分であり,画像検査 (CT または超音波) が必要になる
(同ガイドライン CQ27-2 解説より引用)

「身体所見や血液検査だけでは不十分」——これは、お腹を触って白血球やCRPを測っただけでは決着がつかない、とガイドラインが認めているということです。医師が診てもわからないものを、患者さんがご自分で「これは盲腸かな、憩室炎かな」と判断することはできません。

だから診断には画像を使います。

大腸憩室炎の画像診断として,CT を実施することを推奨する.
(同ガイドライン CQ27-3 ステートメントより引用)

CTがゴールドスタンダードとされる一方、解説では「近年の超音波機器の性能の向上から、超音波が大腸憩室炎の診断や治療効果判定に有用とする報告」にも触れられており、施設によっては超音波が第一選択になりうるとされています。ただし施設間の格差や再現性の問題に留意が必要、とも書かれています。

そしてもう一段、大事なことがあります。ガイドラインは、診断がついたあと「合併症があるかどうか」まで見にいくことを推奨しています。

大腸憩室炎の初期診療時に膿瘍・穿孔・腹膜炎などの合併評価を実施することを推奨する.
(同ガイドライン CQ27-1 ステートメントより引用)

理由は、合併症の有無で予後がまったく変わるからです。解説では、英国の大規模コホート研究として「穿孔や膿瘍を合併した大腸憩室炎の死亡率は一般住民のそれと比較すると、4.6倍高い」という報告が引用されています。

また、日本のデータとして次の数字も示されています。

本邦では,膿瘍等の合併症を有する大腸憩室炎の死亡率は 2.8%,合併症がない大腸憩室炎の死亡率は 0.2% である.
(同ガイドライン CQ25 ステートメントより引用)

解説によれば、大腸憩室炎のうち膿瘍等の合併症を有しているのは16%とされています。裏を返せば、8割強は合併症のない憩室炎で、その死亡率は0.2%ほとんどの憩室炎は落ち着いて治る病気ですが、1〜2割の「そうでないもの」を見つけるために画像を撮る——これが救急外来でやっていることです。

すぐ病院へ・救急車を呼ぶべきサイン

合併症を起こした憩室炎は、腹膜炎・敗血症・ショックに至る可能性があるとガイドラインに明記されています。次のような状態は、時間をおかずに受診してください。夜間・休日でも待たないでください。

迷わず119番を考える状態

  • お腹全体が板のように硬い(腹壁が緊張して、押すと全体が硬く感じる)
  • 動くと激痛が響いて歩けない・車の振動が響く
  • 高熱と強い悪寒・震えが出て、意識がぼんやりする
  • 顔色が悪く、冷や汗をかき、脈が速い
  • まとまった量の血便が出て、立ちくらみやふらつきがある

お腹全体に炎症が広がった状態(汎発性腹膜炎)は、ガイドラインのフローチャートでも「腹膜炎が限局しておらず,汎発性腹膜炎を呈していれば,緊急手術の対象となる」とされている段階です。ここは時間との勝負になります。

その日のうちに受診したい状態

  • 同じ場所の腹痛が2日以上続いて、だんだん強くなっている
  • 腹痛に38℃前後の発熱を伴う
  • 吐き気で水分がとれない
  • 市販の痛み止めを飲んでも痛みが戻ってくる
  • 糖尿病がある、ステロイドや免疫抑制薬を使っている、抗がん治療中など、感染に弱い状態にある

最後の項目は特に重要です。ガイドラインは免疫が低下している方について、「免疫低下状態の膿瘍・穿孔を伴わない大腸憩室炎には抗菌薬投与を推奨する」とし、解説ではこれらの患者では膿瘍・瘻孔などの合併症が多いことが報告されていると記載しています。同じ憩室炎でも、免疫が落ちている方はより早く・より慎重に診る対象だということです。

なお妊娠中の方については、「妊婦では産科医に相談の上,抗菌薬投与の決定を行うことを推奨する」とされています。自己判断で市販薬を使わず、産科の主治医に連絡してください。

治療——多くは手術をせずに治ります

診断がつき、膿瘍・穿孔がないと確認できた場合、治療は基本的に保存的(手術をしない方法)です。

腸を休ませる

膿瘍・穿孔を伴わない大腸憩室炎で,炎症反応や発熱等から入院加療を要する場合には,食事制限と腸管安静を実施することを提案する.
(同ガイドライン CQ28-1 ステートメントより引用)

食事をすると腸の内圧が高まり、蠕動(ぜんどう)が誘発されます。炎症を起こしている憩室にとっては負担です。そこで、状態によっては絶食や食事制限で腸を休ませ、点滴で水分を補う方針をとります。

ただしガイドラインは、外来で経過をみる軽い憩室炎について「外来患者に食事制限や腸管安静を必ずしも施行していないのが現状である」とも率直に書いています。入院するほどではない場合の食事の指示は、担当医の判断に幅があるということです。指示された内容に従ってください。

抗菌薬——ここは考え方が動いている領域です

初版ガイドラインの記載はこうです。

膿瘍・穿孔を伴わない大腸憩室炎に抗菌薬は不要とする報告はあるが,日本人のデータはなく不明であり,現状では抗菌薬投与は許容される.
(同ガイドライン CQ28-2 ステートメントより引用)

解説では、海外のランダム化比較試験で「抗菌薬を投与した場合と投与しなかった場合で、大腸憩室炎の合併症および再発率には差が生じないことが示されている」と紹介されつつ、高熱や全身状態不良の患者は除外されていること、アジアでの同様の検討がないことから、日本人での必要性は現時点では不明である、と結論づけられています。

ここで版について正確にお伝えしておきます。本記事が引用しているのは、Mindsガイドラインライブラリで全文が公開されている初版(2017年)です。日本消化管学会は、日本消化器病学会・日本消化器内視鏡学会・日本大腸肛門病学会・日本腹部救急医学会の協力を得て、2026年2月15日に『大腸憩室症(憩室出血・憩室炎)ガイドライン2026(改訂第2版)』を南江堂より発刊しています。学会の発刊告知は、改訂の狙いを次のように説明しています。

本改訂ガイドラインでは、特に過去約10年間に蓄積された最新のエビデンスを整理するとともに、従来の疫学的知見や我が国で慣習的に行われてきた診療についても再検討を行い、エビデンスに基づいた診療指針として取りまとめました。
(日本消化管学会「『大腸憩室症(憩室出血・憩室炎)ガイドライン2026(改訂第2版)』発刊のお知らせ」より引用)

改訂第2版は「マイページにてPDF版(印刷不可・テキストコピー不可)を公開いたしました」とされており、一般に全文が公開されているのは初版です。そこで本記事では、全文を確認できる初版の記述に基づいて解説し、改訂で見直された可能性のある部分については断定を避けています「我が国で慣習的に行われてきた診療についても再検討を行い」と学会自身が述べていることからも、抗菌薬の使い方はまさに見直しの対象になりうる領域だとお考えください。実際の治療方針は、必ず目の前の担当医の判断に従ってください。

患者さんの側で押さえておいていただきたいのは、「抗菌薬が出なかった=手を抜かれた」ではないということです。軽い憩室炎に抗菌薬を使わない方針は国際的に検討が進んでいる領域で、担当医が経過観察を選ぶこともあります。大事なのは、処方の有無ではなく「悪化したときにすぐ戻れる約束をしておくこと」です。

膿瘍ができている場合

膿の袋(膿瘍)ができている場合は、大きさによって方針が変わります。ガイドラインのフローチャート解説では、「膿瘍がおおよそ 3cm 以下の場合には抗菌薬投与と腸管安静を提案する」、一方「膿瘍がおおよそ 5cm を超える場合には,超音波あるいは CT ガイド下ドレナージと抗菌薬投与,腸管安静を実施することを提案する」とされています。3〜5cmの境界サイズについては、患者の病態や施設の状況を勘案して個々に治療法を選択する、と記載されています。

ドレナージとは、皮膚から細い管を入れて膿を体外に出す処置です。お腹を大きく開ける手術をせずに膿を抜けることが多く、この処置があるおかげで、以前なら手術だった方の一部が手術を避けられるようになりました。

再発——繰り返しても、それだけで手術にはなりません

憩室炎と診断された方が次に心配されるのが、再発です。

膿瘍・穿孔を伴わない大腸憩室炎の再発率は,用いた再発の定義により異なるが,13~47% である.再発は必ずしも大腸憩室炎の予後不良の要因にはならない.
(同ガイドライン CQ30-1 ステートメントより引用)

13〜47%と幅が広いのは、何をもって再発と数えるかで結果が変わるためです。解説によれば、膿瘍・穿孔を伴わない左側大腸憩室炎の再発率は、画像で大腸憩室炎と診断できる症例に限ると13%、症状から診断した際には47%と報告されています。また、一般住民規模の検討として再発率は1年で8%、5年で17%、10年で22%という数字も紹介されています。

そして、患者さんに知っておいていただきたいのが後半の一文です。「再発は必ずしも大腸憩室炎の予後不良の要因にはならない」。ガイドラインの解説によれば、以前は大腸憩室炎が再発するごとに穿孔や膿瘍を合併する可能性が高くなると考えられていたため、欧米を中心に積極的な大腸切除術が勧められていました。しかし近年の検討では、穿孔や膿瘍形成はむしろ初回発症時に多いことが示されています。

そのため、手術の適応についてもこう書かれています。

膿瘍・穿孔を伴わない大腸憩室炎を繰り返すだけでは必ずしも手術適応とならない.しかし免疫不全患者など,一部の症例では選択的待機手術が考慮される.
(同ガイドライン CQ28-4 ステートメントより引用)

「2回目だから手術」「3回目だから手術」という回数のルールはありません。ただし、狭窄(腸が細くなる)や瘻孔(腸と膀胱などがつながってしまう)といった合併症が生じた場合には手術の対象となります。

一方、膿瘍を伴った憩室炎を保存的に治療した後は再発率が上がり、ガイドラインは「膿瘍を合併した大腸憩室炎を保存的に治療した後の再発率は 30~60% と考えられる」としています。膿瘍まで作った経験のある方は、外来でのフォローをより丁寧に受けてください。

「食物繊維をとれば再発を防げる」は、まだ言い切れません

インターネット上では、憩室炎の予防として食物繊維がしばしば挙げられます。しかしガイドラインの結論は、期待されるほど強くありません。

大腸憩室炎の再発を予防するエビデンスレベルの高い有効な方法はない.
(同ガイドライン CQ30-4 ステートメントより引用)

解説では、食物繊維摂取量の増加が再発率を下げたとする報告について、画像で確認された再発を評価したのか、腹部症状だけで再燃を評価したのかが不明であることを指摘し、「食物繊維摂取量の増加により大腸憩室炎の再発予防効果があるとは言えない」としています。メサラジン、プロバイオティクス、リファキシミンについても、いずれも決定打とは言えないと整理されています。

なお、憩室が「できる」原因としては、日本大腸肛門病学会が「憩室の原因として食物繊維の摂取低下や便秘等による内圧亢進が関与しているとされています」と説明しています。憩室ができる過程に食生活が関わることと、すでにできた憩室の炎症を食物繊維で予防できることは、別の話だという点にご注意ください。

では手をつけられるものは何もないのか、というとそうではありません。危険因子については明確な記載があります。

喫煙が大腸憩室炎の合併症の増悪に関与している可能性が高い.肥満も関連が強いと考えられている.ほかにエビデンスの高い危険因子はない.
(同ガイドライン CQ24 ステートメントより引用)

解説には具体的な数字があります。スウェーデンのコホート研究では、喫煙が1日15本以上・1日14本以下・機会喫煙の人の穿孔を伴う重症化リスクは、喫煙しない人と比較して2.7倍・1.4倍・1.2倍と報告されています。米国の報告では、発症前に喫煙歴があると重症化・死亡リスクが1.4倍。また、BMI30以上の女性は、BMI20から25の女性と比較して大腸憩室炎の発症リスクが33%上昇し、合併症の出現率が2倍になると報告されています。

つまり、「食物繊維で再発を防ぐ」より先に効く可能性があるのは、禁煙と体重ということになります。地味ですが、ここが現時点でいちばん根拠のある行動です。

治ったあと、一度は大腸内視鏡を勧められる理由

憩室炎が落ち着いたあと、大腸カメラを勧められて戸惑う方がいます。もう治ったのに、なぜ——という疑問はもっともです。ガイドラインの記載はこうです。

大腸憩室炎と大腸癌の関連性は不明である.ただし,原疾患として大腸憩室症以外の病変を否定するための大腸内視鏡を,一度は行うことを推奨する.
(同ガイドライン CQ27-4 ステートメントより引用)

憩室炎と大腸癌の関連そのものは「不明」とされています。ですから「憩室炎になったから癌になりやすい」という意味ではありません。目的は逆で、憩室炎に見えた炎症の裏に、別の病気が隠れていないかを確かめるためです。CQ26の解説では、CTで大腸憩室炎と診断したあと大腸内視鏡を行わずに経過観察して進行癌となった報告があることにも触れ、「大腸憩室炎後には大腸癌を疑うことが大切である」としています。

炎症が強い時期に内視鏡を行うわけではありません。炎症が落ち着いてから、時期を見て一度——という位置づけです。担当医から提案されたら、受けておくことをおすすめします。

何科を受診すればよいですか

迷ったときの目安です。

  • 平日の日中で、歩いて受診できる程度の痛み……消化器内科。近くになければ内科でかまいません。「何日前から、どこが、どのように痛むか」「熱の有無」「血便の有無」を伝えてください
  • 夜間・休日で、痛みが強い/熱がある/水分がとれない……救急外来を受診してください。画像検査が必要になる可能性が高いためです
  • 板のように硬いお腹、意識がぼんやりする、まとまった血便で立ちくらみ……119番
  • 判断に迷うとき……救急安心センター事業「#7119」に相談する方法もあります(実施していない地域もあります)

受診の際は、飲んでいる薬(とくに痛み止め・血をサラサラにする薬・ステロイド)のお薬手帳を必ず持参してください。憩室出血のリスクにも、治療方針にも直結する情報です。

よくある質問(FAQ)

大腸憩室炎は左下腹部が痛くなる病気ではないのですか?

欧米ではその通りですが、日本人は違います。ガイドラインは「日本人では大腸憩室は右側結腸に多く,年齢とともに左側結腸の割合が増加する」としており、憩室炎についても「本邦では,60 歳未満で右側結腸憩室炎が多く,より高齢では左側結腸憩室炎が多い」と記載しています。若い方の右下腹部痛が憩室炎ということは十分にあります。

痛みがなく血便だけが出ました。これも憩室炎ですか?

それは大腸憩室出血として、憩室炎とは別に扱われる状態です。ガイドラインの診療フローチャートも「急性発症の無痛性の血便を主訴とした患者」から始まる別系統になっています。日本大腸肛門病学会は「腹痛を伴うことなく突然に鮮やかな出血あるいは赤黒い出血を多量に認めた場合には、憩室出血を疑います」としています。量が多い血便は受診してください。

虫垂炎(盲腸)と自分で見分けられますか?

見分けられません。医師でも身体所見だけでは見分けられないため画像検査を使います。ガイドラインは、日本に多い右側大腸憩室炎について「両者の鑑別は身体所見や血液検査だけでは不十分であり,画像検査 (CT または超音波) が必要になる」と明記しています。自己判断で様子を見ないでください。

憩室炎と診断されました。手術になりますか?

膿瘍や穿孔を伴わない憩室炎の多くは、手術をせずに治療します。ガイドラインも「膿瘍・穿孔を伴わない大腸憩室炎を繰り返すだけでは必ずしも手術適応とならない」としています。一方、お腹全体に炎症が広がる汎発性腹膜炎になった場合は緊急手術の対象です。

憩室炎は再発しますか?

再発することがあります。ガイドラインは「膿瘍・穿孔を伴わない大腸憩室炎の再発率は,用いた再発の定義により異なるが,13~47% である」とし、同時に「再発は必ずしも大腸憩室炎の予後不良の要因にはならない」としています。再発回数が増えるほど重症になる、と決まっているわけではありません。

食物繊維をとれば再発を防げますか?

予防できると言い切れる根拠は、現時点ではありません。ガイドラインは「大腸憩室炎の再発を予防するエビデンスレベルの高い有効な方法はない」としています。ただし危険因子としては喫煙と肥満が挙げられており、この2つには手をつける価値があります。

治った後に大腸カメラを勧められました。必要ですか?

一度は受けることが勧められています。ガイドラインは「大腸憩室炎と大腸癌の関連性は不明である.ただし,原疾患として大腸憩室症以外の病変を否定するための大腸内視鏡を,一度は行うことを推奨する」としています。憩室炎に見えた炎症の裏に別の病気が隠れていないかを確認する目的です。

どの段階で救急車を呼べばいいですか?

お腹全体が板のように硬い、動くと激痛が響いて歩けない、高熱と震えが出て意識がぼんやりする、繰り返す嘔吐で水も飲めない、といった状態は迷わず119番です。これらは膿瘍・穿孔・腹膜炎といった合併症を疑う所見で、ガイドラインでも穿孔や膿瘍を合併した場合の死亡率は一般住民の4.6倍と報告されています。

まとめ

大腸憩室炎は、腸の壁にできた小さな袋に炎症が起きる病気です。日本人では右側結腸に多く、60歳未満では虫垂炎とまぎらわしいという特徴があります。症状は限局した腹痛・圧痛・発熱痛みのない血便は憩室炎ではなく憩室出血で、別の病気として扱われます。診断には身体所見と血液検査だけでは足りず、CTまたは超音波が必要とガイドラインに明記されています。多くは手術をせずに治りますが、膿瘍・穿孔・腹膜炎を伴うと様相が変わります。お腹が板のように硬い、動くと響く、高熱で意識がぼんやりする——このときは迷わず119番です。再発予防に確立した方法はまだありませんが、禁煙と体重は根拠のある行動です。

参照ソース(一次情報)

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本記事は一般の方向けの情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。症状の判断に迷う場合は、医療機関または救急相談窓口にご相談ください。

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