「突然おなかが痛くなって、しばらくしたら血のような便(血便・下血)が出た」――。とくに高齢の方やそのご家族が、この突然の腹痛と血便に驚いて受診・検索されるケースは少なくありません。その代表的な原因のひとつが虚血性腸炎(きょけつせいちょうえん/虚血性大腸炎)です。この記事では、救急科専門医の立場から、虚血性腸炎の症状・受診の目安・診断・治療をわかりやすく解説します。
虚血性腸炎とは?「血流の一時的な低下」で起こる
虚血性腸炎とは、大腸への血流が一時的に低下し、腸の粘膜が傷ついて炎症や潰瘍を起こす病気です。多くは左側の大腸(脾彎曲部〜下行結腸〜S状結腸)に起こります。
ここで大切なのが、似た名前の「急性腸間膜虚血(SMA塞栓・NOMIなど)」とはまったく別の病気だという点です。急性腸間膜虚血は、腸へ向かう太い動脈が詰まる・血流が極端に落ちることで腸が壊死してしまう、命に関わる重篤な状態です。一方、虚血性腸炎の多く(一過性型)は血流が回復すれば数日で自然に良くなる、予後の良い可逆的な病態です。同じ「腸の虚血」でも、重症度がまったく異なります。
典型的な3つの症状(3徴)
虚血性腸炎は、次のような順番で症状が出るのが典型的です。
- 突然の腹痛:前ぶれなく、おなか(とくに左下腹部)にキューッとした強い痛みが起こります。
- 下痢:痛みから数時間以内に下痢が始まります。
- 血便・下血:続いて鮮やかな赤色〜暗い赤色の血便が出ます。
典型的には左側のお腹(左下腹部)に痛みが出ますが、まれに右側に出ることもあります。痛む場所だけで安易に「違う」と否定せず、「痛み → 下痢 → 血便」という流れに心当たりがあれば、虚血性腸炎の可能性を考えます。
ポイントは、検査で初めてわかる「便潜血」ではなく、見てはっきりわかる鮮血〜暗赤色の血便であること。なお、便が真っ黒でタール状(黒色便)の場合は、胃や十二指腸など上部の消化管からの出血が疑われ、虚血性腸炎とは別の対応が必要です。この場合も早めに受診してください。
高齢者に多い虚血性腸炎|なぜ60歳以上で起こりやすい?
- 高齢の方(とくに60歳以上)。報告により女性にやや多いとされます。
- 便秘がちの方。排便時に強くいきむと腹圧で大腸の血流が下がりやすくなります。
- 高血圧・糖尿病・脂質異常症など、動脈硬化が進む生活習慣病をお持ちの方。
- 脱水(夏場や発熱時など)も誘因になります。
- 常用薬:便秘を起こしやすい薬や、経口避妊薬・女性ホルモン製剤などが関係することがあります。受診時には飲んでいる薬を医師に伝えましょう。
「便秘でいきんだあとに、突然の腹痛と血便」というのは、高齢者の虚血性腸炎で非常によくみられる経過です。
こんなときは救急受診を|重症型を見逃さない
虚血性腸炎の多くは一過性型で、保存的な治療で軽快します。しかし一部に、腸が狭くなる狭窄型や、腸の壁が深く傷んでしまう壊死型(重症)があり、これらは入院・手術が必要になることがあります。次のサインがあるときは、ためらわず救急受診してください。
- 痛みが強く、数時間たっても和らがない
- 発熱を伴う
- 血便が止まらない・繰り返す、または大量の出血が続く
- 立ちくらみ・冷や汗・意識がもうろうとする(ショックを疑う徴候)
- お腹を押すと激しく痛む、お腹がカチカチに張る(腹膜刺激の徴候)
これらは重症化のサインです。とくに高齢の方や基礎疾患のある方では、自己判断せず医療機関に相談しましょう。腹痛全般で「いつ救急に行くべきか」については、急性腹症(おなかが痛いとき救急に行くべきサイン)の記事もあわせてご覧ください。
診断|CTと大腸内視鏡で見分ける
診断は、問診(便秘や持病、症状の出方、常用薬)に加え、次のような検査で行います。
- 採血:炎症の程度(白血球・CRPなど)を確認します。
- 腹部CT:腸の壁の腫れ(浮腫)や血流の状態を確認し、より重い急性腸間膜虚血などとの区別に役立ちます。
- 大腸内視鏡(大腸カメラ):ある範囲だけに発赤・むくみ・潰瘍がみられ、その前後の粘膜は正常という「区域性病変」が確認できれば、虚血性腸炎の診断が確実になります。
血便を起こす病気はほかにもあり、大腸憩室出血・感染性腸炎・大腸がん・炎症性腸疾患(潰瘍性大腸炎など)、そして重症の急性腸間膜虚血との区別がとても重要です。とくに高齢の方の血便では、腸管出血性大腸菌(O157)やHUSなどの感染性腸炎との見分けも必要になります。検査はこの見分けのためにも行われます。
治療|多くは「腸を休ませる」だけで良くなる
もっとも多い一過性型では、絶食で腸を休ませ(腸管安静)、点滴で水分を補う支持療法が中心です。多くの方が数日〜1〜2週間で改善し、回復します。抗菌薬は、軽症の一過性型では通常は使いません。重症型や壊死が疑われる場合、全身の炎症が強い場合に、医師の判断で使用されます。
一方、狭窄型(腸が狭くなって通りが悪くなる)や壊死型(腸の壁が深く傷む)では、入院での治療や手術が必要になることがあります。だからこそ、最初にきちんと診断し、重症型を見逃さないことが大切です。
再発予防と、やってはいけないこと
虚血性腸炎は、一度治っても再発することがあります。とくに便秘や動脈硬化といった背景が残っていると繰り返しやすいため、次のような点に気をつけましょう。
- 便秘対策:食物繊維や水分をしっかりとり、強くいきまずに排便できる状態を保ちましょう。
- こまめな水分補給:脱水を避けることが血流低下の予防になります。
- 持病の管理:高血圧・糖尿病・脂質異常症などをきちんとコントロールしましょう。
注意したいのは、血便や強い腹痛があるときに、自己判断で市販の下痢止め薬を安易に使わないことです。腸の動きを無理に止めてしまうと、原因の評価が難しくなるだけでなく、状態によっては病状を悪化させることがあります。まずは医療機関で原因を確かめましょう。
まとめ
虚血性腸炎は、「突然の腹痛 → 下痢 → 血便」という流れが典型で、とくに高齢・便秘がち・動脈硬化のある方に起こりやすい病気です。多くは腸を休ませることで数日〜数週間で良くなりますが、強い持続痛・発熱・血便が止まらない・ショック徴候があるときは、より重い病気との区別も含めて速やかな受診が必要です。血便を見たら自己判断せず、医療機関に相談してください。
※この記事は救急科専門医が一般向けに解説したものです。診断・治療は個々の状態によって異なります。症状がある場合は必ず医療機関を受診してください。

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