餅がのどに詰まって声が出せないとき|119番より先に背中を叩く理由と正しい手順【救急科専門医・2026年版】

餅をのどに詰まらせた人が目の前にいる。声が出ず、顔色が変わっていく。このとき多くの方が最初に119番へ手を伸ばしますが、救助者が1人なら、それは順番が逆です。日本医師会の手順は「救助者が一人だけの場合は、119番通報する前に、異物除去を行います」と明記しています。1分1秒が結果を変える場面なので、手順を先に整理しておきます。救急科専門医が解説します。

まず見るのは「声が出せるか」——チョークサイン

東京消防庁は、窒息を疑う所見をこう挙げています。

チョークサインを出しているとき、声を出せないとき、顔色が急に真っ青になったときなどは、食べ物などにより気道が塞がれていることが疑われます。そのようなときは大きな声で助けを呼び、119番通報とAEDの搬送を依頼し、直ちに気道異物除去を始めます。

東京消防庁「餅などによる窒息事故に注意!」

チョークサインは、のどを親指と人差し指でつかむ動作です。東京消防庁は「窒息を起こし、呼吸ができなくなったことを他の人に知らせる世界共通のサイン」と説明しています。ただし現場では、きれいなチョークサインが出ないほうがむしろ多い。「声が出せない」「強い咳ができない」——この2つで判断してください。

逆に、咳ができているうちは咳をさせます。日本医師会も「まず咳をすることが可能であれば、できる限り咳をさせます」としています。人間の咳は、どんな手技よりも強い排出力を持っています。

救助者が1人なら、119番より異物除去が先

ここが本記事でいちばん伝えたい点です。

救助者が一人だけの場合は、119番通報する前に、異物除去を行います。

日本医師会「救急蘇生法」気道異物除去の手順

政府広報オンラインも「救助者が1人の場合、餅を詰まらせたかたに反応がある間は、119番通報よりも異物除去を優先してください」と同じことを書いています。東京消防庁も「大声で応援を呼んでも誰も来ない場合は、119番通報とAEDの搬送はせずに直ちに気道異物除去を始めます」としています。公的機関3つが揃って同じ順番を示していると考えてください。

周りに人がいる場合は話が別で、119番とAEDの手配を人に頼み、自分は異物除去に専念します。役割を分けられるなら分けたほうがいい。1人しかいないときだけ、通報を後回しにします。

手順① 背部叩打法——手のひらの付け根で、肩甲骨の間を

日本医師会の手順は明快です。

異物除去は、まず「背部叩打法」を試みて、効果が無ければ「腹部突き上げ法」を試みます。異物が取れるか、意識が無くなるまで続けます。

日本医師会「救急蘇生法」気道異物除去の手順

順番は背部叩打法が先です。ネット上には「ハイムリック法が第一選択」と書かれたものもありますが、日本医師会・政府広報オンラインはいずれも背部叩打法を先に置いています。

状況 やり方
立っている/座っている 背中側から、手のひらの基部で、左右の肩甲骨の中間あたりを力強く何度も叩く
倒れている 手前に引き起こして横向きにし、自分の足で胸を支えて背部を叩く
日本医師会「救急蘇生法」および東京消防庁の手順より

東京消防庁は背部叩打法について「誰にでも実施可能であり、比較的簡単な方法です」としています。遠慮して弱く叩くのがいちばんよくありません。「力強く何度も」が原文の表現です。

手順② 腹部突き上げ法——ただし妊婦と乳児には行わない

背部叩打法で出てこないときに移ります。日本医師会の手順を分解するとこうなります。

  1. 患者の後ろに回り、ウエスト付近に手を回す
  2. 一方の手で「へそ」の位置を確認する
  3. もう一方の手で握りこぶしを作り、親指側を「へそ」の上方で、みぞおちより十分下方に当てる
  4. 「へそ」を確認した手で握りこぶしを握り、すばやく手前上方に向かって圧迫するように突き上げる

位置がずれると効果が落ちるだけでなく危険です。「へそより上、みぞおちより十分下」——ここだけは覚えておいてください。

そして禁忌があります。

妊婦や乳児では、「腹部突き上げ法」は行いません。「背部叩打法」のみ行います。

日本医師会「救急蘇生法」気道異物除去の手順

政府広報オンラインは、これに高度肥満の方を加えて「乳児や妊婦、高度肥満のかたには行ってはいけません」としています。

もうひとつ、実施した後に必ずやることがあります。

腹部突き上げ法を実施した場合は、腹部の内臓を傷める可能性があるため、救急隊にその旨を伝えるか、すみやかに医師の診察を受けさせてください。

日本医師会「救急蘇生法」気道異物除去の手順

餅が取れて本人が元気になっても、これは受診の対象です。 救急外来では、腹部突き上げ法のあとに腹腔内の出血が見つかることがあります。「取れたからもう大丈夫」で終わらせないでください。

反応がなくなったら——心肺蘇生に切り替える

異物が取れないまま反応がなくなった場合は、心肺蘇生の手順に移ります。救助者が1人の場合は、ここで119番通報を行い、AEDが近くにあることが分かっていればAEDを取りに行ってから心肺蘇生を開始します。

このとき、やってはいけないことが明記されています。

心肺蘇生を行っている途中で異物が見えた場合は、それを取り除きます。見えない場合にはやみくもに指を入れて探らないで下さい。異物を探すために胸骨圧迫(心臓マッサージ)を中断しないで下さい。

日本医師会「救急蘇生法」気道異物除去の手順

見えないものを指で探るのは、かえって奥へ押し込みます。 そして胸骨圧迫を止めてはいけません。胸骨圧迫そのものが、腹部突き上げ法と似た圧を胸腔にかけて異物を動かす力になります。手を止めて口の中を覗く時間が、いちばんもったいない。

なお、掃除機で吸い出す方法がよく話題になりますが、ここで挙げた公的機関の手順にはいずれも含まれていません。手元に掃除機を取りに行く時間があるなら、背中を叩き続けるほうが手順に沿っています。心肺蘇生の手順は心肺蘇生ガイドライン2025の解説記事にまとめています。

数字で見る——搬送の約7割が中等症以上

東京消防庁が令和2年から令和6年までの5年間を集計しています。

項目 実数(令和2〜6年)
餅などをのどに詰まらせて救急搬送された人 338人
65歳以上が占める割合 約9割以上
最も多い年齢層 80歳代
初診時に中等症以上と診断された割合 約7割
事故が増える時期 毎年12月から1月
東京消防庁「餅などによる窒息事故に注意!」より

搬送された人の約7割が中等症以上——これは救急搬送全体の中でも高い比率です。餅の窒息は「軽く済むことが多いが時々重い」のではなく、起きたら重いほうが普通だと考えてください。

消費者庁が人口動態調査を分析したところ、65歳以上で餅による窒息事故が命に関わる事態に至った661件(平成30年・令和元年の2年間)のうち、43%にあたる282件が1月に集中し、正月三が日だけで127件(うち元日が67件)でした。男女比では男性が女性の2.6倍でした。

なぜ高齢者と餅の組み合わせが危ないのか

消費者庁の資料で、昭和大学名誉教授の向井美惠先生が2つの側面から説明しています。

体の側の変化

  • 噛む力が弱くなる……奥歯がなくなったり入れ歯になったりすることで顎を安定させる力が低下する
  • 唾液の量が少なくなる……食べた物がスムーズに飲み込みにくくなる
  • 飲み込む力が弱くなる……のどに食べ物が残りやすくなり、残ったまま息を吸い込むと気道に詰まることがある
  • 咳などで押し返す力が弱くなる……詰まったときに押し出しにくい

餅の側の性質

ここは意外と知られていません。

餅は、温度が下がるにしたがって硬さが増す性質があるので、お椀の中では柔らかそうに見える餅も、口の中に入れて喉を通るときには温度が下がり硬くなっています。さらに、餅は温度が下がるほどくっつきやすさ(付着性)も増す

消費者庁「年末年始、餅による窒息事故に御注意ください!」(令和2年12月23日)

お椀の中で柔らかく見えた餅は、のどを通るときには硬く、粘膜に貼り付きやすくなっている。 見た目の柔らかさが判断を誤らせます。加えて、お正月の餅は「久しぶりに食べる場合が多く、食べ慣れていない」ことも指摘されています。

防ぐための5つ

消費者庁と東京消防庁が挙げている注意点です。

  1. 餅は小さく切り、食べやすい大きさにする
  2. お茶や汁物を飲み、のどを潤してから食べる……ただし消費者庁は「よく噛まないうちにお茶などで流し込むのは危険です」と補足しています。潤すのは食べる前で、流し込むためではありません
  3. 一口の量は無理なく食べられる量にする
  4. ゆっくりとよく噛んでから飲み込む
  5. 高齢者や乳幼児が食べるときは、周りの人が食事の様子を見守る

東京消防庁はこれに「いざという時に備え、応急手当の方法をよく理解しておきましょう」を加えています。正月に家族が集まるなら、食卓につく前に背部叩打法の位置だけ共有しておく——それが最も現実的な備えです。

よくある質問

Q. 餅が取れて本人がケロッとしています。受診は必要ですか?

A. 腹部突き上げ法を行った場合は必要です。 内臓を傷める可能性があるため、救急隊に伝えるか速やかに医師の診察を受けるよう日本医師会が明記しています。背部叩打法だけで取れて症状もない場合は必ずしも受診とはなりませんが、その後に息苦しさ・胸の痛み・声のかすれ・発熱が出たときは受診してください。餅の一部が気管に残っていることがあります。

Q. 高齢の親が1人で食べているときが不安です。

A. 見守りが最大の対策です。搬送された人の約9割以上が65歳以上で、最も多いのは80歳代でした。1人で食べさせない、というだけで条件がかなり変わります。 難しい場合は、餅を小さく切っておく・汁物と一緒に出す・食事の間は同じ部屋にいる、から始めてください。

Q. 子どもの場合も同じ手順ですか?

A. 基本は同じですが乳児(1歳未満)は別です。乳児には腹部突き上げ法を行わず、背部叩打法のみです。日本医師会は乳児について「救助者の片腕に乳児をうつぶせに乗せ、手のひらで乳児のあごを支えつつ、頭を体よりも低く保ち、もう一方の手のひらの基部で背中の真ん中を数回強く叩く」としています。子どもの窒息全般は子どもの誤嚥・窒息の記事に、年齢別の一次救命処置は年齢・対象別BLSの記事にまとめています。

Q. むせているだけなら大丈夫ですか?

A. 声が出せて強く咳ができているなら、まず咳をさせてください。ただしむせないまま起きる誤嚥もあり、こちらは窒息とは別の問題として肺炎につながります。詳しくは誤嚥性肺炎と不顕性誤嚥の記事をご覧ください。

Q. のどに違和感が残っているだけのときは?

A. 餅ではなく魚の骨など固形の異物が刺さっている場合は対応が変わります。魚の骨がのどに刺さったときの記事を参照してください。ご飯の丸のみは公的機関がそろって否定しています。

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参照ソース(一次情報)

まとめ

餅がのどに詰まって声が出せないとき、救助者が1人なら119番より異物除去が先です。背部叩打法を先に、効果がなければ腹部突き上げ法。妊婦・乳児・高度肥満の方に腹部突き上げ法は行いません。実施したら、取れても受診してください。搬送された338人のうち約9割以上が65歳以上で、約7割が中等症以上でした。正月に家族が集まる前に、背中を叩く位置だけ共有しておいてください。


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