質の高いCPR(High-Quality CPR)とは何か——この記事は研修医・看護師・救急救命士・BLS/ACLSインストラクターなど医療職を対象に、心停止患者の予後を決める「圧迫を止めないこと」と「一回一回の圧迫の質」を定量指標としてどう測り、チームでどう維持するかに特化して解説します(JRC蘇生ガイドライン2025・ILCOR・AHAに準拠)。市民向けの基本手順はAEDと心肺蘇生(CPR)の正しい手順を、対象別(乳児・小児・妊婦・高齢者)の圧迫は年齢・対象別BLSを、ガイドライン全体の変更点は心肺蘇生ガイドライン2025の変更点をご参照ください。
質の高いCPRを支える基本の定量指標
「一生懸命押している」という主観では質は担保できません。まず押さえるべき数値は以下です。
- 圧迫の深さ:成人は5cm以上6cmを超えない。浅ければ心拍出が不足し、深すぎれば胸郭損傷を招きます。小児は胸郭前後径の約1/3が目安です。
- テンポ:100〜120回/分。速すぎると深さと戻りが犠牲になり、遅すぎると灌流が保てません。
- 完全な胸壁の戻り(full recoil):圧迫の合間に胸壁へもたれかからない。incomplete recoil(不完全な戻り)は胸腔内圧を上げ、静脈還流と冠灌流圧を低下させます。
深さ・テンポ・戻りは、いずれも感覚だけでは正確に再現できません。だからこそ客観的なフィードバックが重要になります。
質の高いCPRの核心指標——CCF(胸骨圧迫比率)
個々の圧迫が良質でも、手を止めている時間が長ければ患者の予後は改善しません。ここで最重要となるのがCCF(Chest Compression Fraction/胸骨圧迫比率)です。これは蘇生時間全体のうち、実際に胸骨圧迫が行われていた時間の割合を指します。
ガイドラインはCCF 60%以上、できれば80%以上を目標とします。CCFを下げる最大の要因は「圧迫の中断」です。リズム確認、脈拍チェック、気道確保、除細動——これらのたびに手を止めていると、あっという間にCCFは落ちます。「圧迫を止めない設計」こそが質の高いCPRの本質だと理解してください。
中断を最小化する具体的な運用
- リズム/脈チェックは10秒以内で終える。判断に迷って手が止まる時間を作らない。
- 除細動前後の圧迫中断(pre/post-shock pause)を最小化する。充電は圧迫を続けながら行い、ショック直前の一瞬だけ手を離し、放電後は即座に圧迫を再開します。詳細は除細動と同期電気ショックを参照してください。
- 圧迫者は約2分(5サイクル)ごとに交代する。疲労は自覚より早く質(特に深さと戻り)を低下させます。交代は5秒以内で完了させ、その間もCCFを守ります。
圧迫と換気——高度気道確保の前後で変わる
高度気道確保が入る前は30:2(圧迫30回に対し換気2回)です。BVM換気の手技は気道管理・BVM換気で詳しく解説しています。
気管挿管・声門上気道デバイスなどの高度気道確保後は、胸骨圧迫を中断せず連続で行い、換気は非同期で約10回/分(約6秒に1回)とします。ここで最も避けたいのが過換気です。過換気は胸腔内圧を上げて静脈還流を妨げ、冠灌流・脳灌流を悪化させます。「もっと押したい・もっと吸わせたい」という焦りが、かえって質を落とすことを覚えておいてください。
客観的モニタリングで質を”見える化”する
- リアルタイムCPRフィードバック機器:深さ・テンポ・recoilを客観的に表示します。感覚に頼らず数値で修正できるため、質の均てん化に有効です。
- ETCO2(呼気終末二酸化炭素分圧):圧迫中は10mmHg以上(理想的には20mmHg以上)を目標とし、20mmHg未満なら圧迫の深さ・テンポ・完全な戻り・中断を見直します。挿管下で20分以上ETCO2が10mmHg未満に留まる場合はROSC困難(予後不良)を示唆しますが、ETCO2単独で蘇生中止を判断してはいけません。急上昇はROSC(自己心拍再開)を示唆し、挿管位置の確認にも使えます。
- 観血的動脈圧(Aライン):留置されていれば拡張期(弛緩期)動脈圧を指標にします。拡張期圧が20mmHg未満なら圧迫の質改善を検討してください。
これらの指標は、薬剤投与のタイミングを含むALS全体の流れの中で意味を持ちます。アドレナリン投与の間隔やアルゴリズムはALSアルゴリズムとアドレナリン投与タイミングで解説しています。
まとめ——「質」はチームで作る
質の高いCPRとは、深さ5〜6cm・テンポ100〜120回/分・完全な戻りという「一回の質」と、CCF80%を狙う「止めない設計」の両輪です。個人の頑張りではなく、リーダーがCCF・ETCO2・交代タイミングを声に出して管理し、フィードバック機器で客観補正するチーム運用が予後を変えます。次の蘇生では、ぜひ「今、手は止まっていないか」を口に出して確認してください。
※本記事は医療従事者向けの一般的な解説であり、各施設のプロトコル・指示に優先するものではありません。

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