胃腸炎で吐いてしまい、水分がとれない——冬の救急外来でいちばん多い相談です。結論から書きます。吐いている最中に必要なのは「たくさん飲ませること」ではなく、「5mLを5分おき」という間隔の管理です。これは日本小児救急医学会のガイドラインが具体的な数字で示している方法です。
この記事では、救急科専門医が、学会ガイドラインと厚生労働省の一次資料をもとに、①吐いている最中の水分の与え方、②何を飲ませるか(手元に経口補水液がないときの代用も)、③家庭で脱水の重さを見分ける方法、④すぐ受診・救急要請すべきサイン、⑤やってはいけないこと、⑥食事をいつ戻すか、を順に整理します。
ノロウイルスをはじめとする感染性胃腸炎は、11月ごろから増えはじめ、12月〜翌1月がピークになります(厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」Q8)。流行が始まる前に、家庭での手順を決めておくための記事です。
- まず結論——吐いている最中は「量」ではなく「間隔」で決める
- なぜ「一気に飲ませる」と失敗するのか
- 【本題】5mLを5分おき——学会が示す具体的な与え方
- いつ始めるか——「病院に行く前」が正解
- 4時間で「不足分」を入れる——量の決め方
- 何を飲ませるか——経口補水液と、手元にないときの代用
- 飲ませてはいけない飲み物
- 家庭で脱水の重さを見分ける
- すぐ受診・救急要請の目安——学会の「危険信号」18項目
- やってはいけないこと
- 食事はいつから戻すか
- 大人はノロの検査を受けられないことが多い
- そもそもノロウイルスとは——潜伏期間とうつる期間
- 家庭内でうつさないための最低限
- 保育園・学校・仕事はいつから行けるか
- 高齢の方で特に注意すること
- よくある質問
- まとめ
- 関連記事
- 参照ソース(一次情報)
まず結論——吐いている最中は「量」ではなく「間隔」で決める
時間がない方のために、最初に要点をまとめます。
| やること | やってはいけないこと |
|---|---|
| 1回5mL(ティースプーン1杯)を5分おきに与える | コップ1杯をまとめて飲ませる |
| 吐いてしまっても、少し待ってから同じ方法で再開する | 吐いたからといって水分を完全に中止する |
| 経口補水液(ORS)を使う | スポーツドリンク・果汁・炭酸飲料で代用する |
| 症状が始まったらすぐ家庭で開始する | 「病院で点滴してもらうまで待つ」 |
| 脱水が治まったら食事は早めに戻す | 「腸を休ませる」として絶食を長く続ける |
| 水で薄めた塩素系漂白剤(次亜塩素酸ナトリウム)で吐物を処理する | アルコール消毒だけで済ませる |
そして、次のいずれかがあれば、脱水の管理ではなく別の病気を疑う場面です。時間を置かず受診してください。詳しくは後半の「すぐ受診・救急要請の目安」で説明します。
- 黄色や緑色(胆汁性)の吐物、または血が混じった吐物
- 血便、または黒い便
- お腹の痛みが波のように強くなる、体をくの字に折り曲げて泣き叫ぶ
- 右下腹部が痛む、みぞおちから右下腹部へ痛みが移った
- 反応が鈍い、呼びかけへの反応が普段と違う
- 手足が冷たい、皮膚がまだらに紫がかっている
なぜ「一気に飲ませる」と失敗するのか
吐いている人は、胃が刺激に対してとても敏感になっています。この状態で一度に多量の水分が胃に入ると、胃が広がった刺激そのものが次の嘔吐の引き金になります。せっかく飲んだ分が出てしまい、「飲ませても吐くだけだ」と家族があきらめてしまう——これが脱水が進む典型的な経過です。
一方で、経口補水液(ORS)は、少しずつでも確実に吸収されるように組成が設計されています。小腸ではナトリウムとブドウ糖が一緒に運ばれることで水が引き込まれます。日本小児救急医学会のガイドラインは「ORSはNa-ブドウ糖共輸送を利用して、効率的に吸収される」と説明しています。
つまり、吸収する力が落ちているのではなく、胃に入れる速度が速すぎるだけという場面が非常に多い。だから「量」ではなく「間隔」で管理します。
【本題】5mLを5分おき——学会が示す具体的な与え方
日本小児救急医学会『エビデンスに基づいた子どもの腹部救急診療ガイドライン2017』の第Ⅰ部「小児急性胃腸炎診療ガイドライン」は、嘔吐がある場合の経口補水療法(ORT)について、次のように具体的に書いています。
嘔吐症例にORTを行う場合には、5mLのORSを 5 分ごとに投与する。ティースプーン 1 杯、ペットボトルのキャップ 3 / 4 程度の量が5mLの目安である。スポイトやシリンジを用いて、投与してもよい。嘔吐が治まってくれば、投与間隔を徐々に短くしていく。ORSを嘔吐してしまった場合でも、ORTを続けてよい。
日本小児救急医学会 診療ガイドライン作成委員会編『エビデンスに基づいた子どもの腹部救急診療ガイドライン2017』第Ⅰ部 小児急性胃腸炎診療ガイドライン CQ8
この一文に、家庭で実行するために必要なことがほぼ全部入っています。分解します。
| ポイント | ガイドラインの記載 | 家庭での実際 |
|---|---|---|
| 1回量 | 5mL | ティースプーン1杯/ペットボトルのキャップ4分の3 |
| 間隔 | 5分ごと | タイマーをかける。「のどが渇いたと言ったら」では管理できない |
| 道具 | スポイトやシリンジを用いてもよい | 薬局で買える経口投与用シリンジが便利。コップだと1回量が増えがち |
| 吐いたとき | 嘔吐しても続けてよい | 中止しない。少し休んでから、同じ方法で再開する |
| 落ち着いたら | 投与間隔を徐々に短くしていく | 5分→3分→2分と、回数を増やして総量を上げていく |
1回5mL・5分おきは、1時間で60mLです。「たったそれだけ」と感じるかもしれませんが、吐き続けて何も入っていない状態と比べれば決定的な差になります。そして、この方法なら「飲ませては吐く」の悪循環に入りません。
吐いた直後にどれくらい待つかについては、同ガイドラインが掲載している世界保健機関(WHO)のプロトコルが具体的です。「嘔吐をする児では、5〜10分待って、それから再度、経口補水液を与えるが、もっとゆっくりと(例:ティースプーンで2〜3分ごと)」とされています。待つのは5〜10分で、そのあとはむしろより少量を、より頻回にという考え方です。
また、同じWHOのプロトコルは投与方法について「乳児と幼少児はスプーンやコップで与える。哺乳瓶は使うべきではない」「2歳以下の小児では、1〜2分ごとにティースプーンで与える」としています。哺乳瓶は一度に入る量が読めないため、間隔管理には向きません。
いつ始めるか——「病院に行く前」が正解
ここは誤解が多いところです。同ガイドラインのCQ6は、推奨度1-A(最も強い推奨)で次のように述べています。
脱水のない、もしくは中等度以下の脱水のある小児急性胃腸炎に対する初期治療としては、経静脈輸液療法よりも経口補水液による経口補水療法が推奨される。また経口補水療法は、嘔吐や下痢の症状が始まったら、速やかに自宅で開始することが推奨される。(1–A)
同ガイドライン CQ6
点滴より先に、まず家庭で始める。しかも「症状が始まったら速やかに」です。受診を待っている数時間が、いちばん脱水が進みやすい時間帯だからです。ガイドラインの根拠になったメタアナリシスでは、現在主流の低浸透圧ORSを経口で飲んだ場合、点滴と比べて補液がうまくいかない割合に差がなく、入院日数はむしろ経口補水のほうが短いと報告されています。
4時間で「不足分」を入れる——量の決め方
間隔が5分おきだとして、合計どれくらい入れればよいのか。ガイドラインのCQ7は「軽度〜中等度の脱水のある小児急性胃腸炎に対する初期治療として、4時間以内に不足分の水分を経口補水液で経口摂取することが推奨される(1-C)」としています。
量の目安は体重から計算します。ガイドラインは「軽度〜中等度での脱水では体重の 5 〜10%程度の脱水であるため、ORSの具体的な投与量としては50〜100mL/kgを投与することを推奨している」と記載しています。
| 体重 | 4時間で目標にする総量(50〜100mL/kg) | 1回あたりの目安 |
|---|---|---|
| 10kg(1歳前後) | 500〜1,000mL | 吐き気が落ち着いてから10〜20mLへ増やす |
| 15kg(3〜4歳) | 750〜1,500mL | 同じく15〜30mLへ |
| 20kg(6歳前後) | 1,000〜2,000mL | 同じく20〜40mLへ |
| 30kg以上・成人 | WHOのプロトコルでは「飲みたいだけ」。改善しないときの追加は成人で750mL/時まで | 吐き気が強いうちは5〜10mLから |
ここで大事なのは、この総量は「吐き気が落ち着いてきてからの目標」だということです。嘔吐が激しい最初の1〜2時間は5mL・5分おきで様子を見て、吐かなくなってきたら1回量を増やし、間隔を詰めて、4時間の目標に近づけていきます。いきなりこの量を飲ませようとすれば、また吐きます。
なお、この記事で引用している投与量は小児のガイドラインのものです。成人に体重あたりの数字がそのまま当てはまるわけではありませんが、「少量・頻回で始める」「経口補水液を使う」という原則は共通です。成人・高齢者の水分のとり方については脱水症状とは?原因・症状・応急処置・病院に行くべきタイミングもあわせてご覧ください。
何を飲ませるか——経口補水液と、手元にないときの代用
脱水がある場合、ガイドラインは明確です。「脱水がある場合には、必ず経口補水液(ORS)を用いる」(CQ9)。水やお茶では塩分が足りず、スポーツドリンクでは糖が多くて塩分が少ないため、ORSの代わりにはなりません。
問題は、夜中に吐き始めて手元にORSがない場合です。ガイドラインは緊急時の代用を具体的に示しています。
ORSを自宅に常備をしていない場合には、食卓塩3g、砂糖18gを水1Lに溶解したもので、代用できる。この際、柑橘系の果汁を少量加えると、味が調整されて飲みやすくなり、カリウムも補給できる。しかし、前述の手作りORSは濃度が必ずしも正確ではないため、十分な量の電解質補給ができない可能性がある。したがって、あくまでも市販のORSがすぐに手に入らない場合の緊急避難的措置として用いるべきである。
同ガイドライン CQ6
「緊急避難的措置」という限定がついている点が重要です。翌朝に薬局が開いたら、市販のORSに切り替えてください。手作りORSの作り方そのものは室内熱中症|エアコンなしで生き延びる応急対応と予防でも扱っています(そちらは暑い環境での脱水が対象です。胃腸炎では嘔吐があるぶん、与え方の管理がより重要になります)。
さらに、ORSを嫌がって飲まない子どもへの代替について、ガイドラインは日本の食習慣に踏み込んだ記載をしています。
| 代用できるもの | ガイドラインの記載 |
|---|---|
| 塩分を含んだ重湯・お粥 | 「重湯、お粥は下痢の回数を減少させる効果があることが報告されている」。重湯を半分程度に希釈し、100mL当たり0.3〜0.4gの塩で味付けするとNa濃度が51.3〜68.4mEq/LとなりORSに近い組成になる |
| 味噌汁の上澄み(1/2〜1/3に希釈) | 「味噌汁の上澄みを 1 / 2〜 1 / 3 程度に希釈することで、Na濃度は経口補水液に近くなる」。味噌のアミノ酸がブドウ糖の代わりにナトリウム吸収を助けうる |
| 野菜スープ・チキンスープ | 野菜1kgを煮て1Lのスープを作るとカリウム濃度が30〜40mEq/Lとなり、塩を3〜4g加えると希釈した味噌汁の上澄みと同様の効果が理論的に期待できる |
ただし、これらは「明らかな脱水所見がなければ」という条件つき(推奨度2-C)です。脱水がある人にはORSを使ってください。
飲ませてはいけない飲み物
ガイドラインが避けるべきとしている飲料は、炭酸飲料、市販の果物ジュース、甘いお茶、コーヒーです(CQ9)。理由は、糖が多い飲み物は浸透圧が高く、腸に水を引き出して下痢を悪化させるからです。米国疾病管理予防センター(CDC)の記載として「糖分の多い食事は避けるべきである。なぜなら、高浸透圧で下痢を悪化させるからである」が引用されています。
逆に、水やお茶だけを大量に飲むのも安全ではありません。下痢と嘔吐で失っているのは水だけでなくナトリウムです。塩分を含まない水分だけを大量に入れると血液中のナトリウムが薄まり、けいれんや意識障害につながることがあります。この病態については水中毒(運動関連低ナトリウム血症)とは?水分のとりすぎが招く落とし穴で詳しく解説しています。
家庭で脱水の重さを見分ける
ガイドラインのCQ4は「脱水の重症度評価に臨床症状を用いることは推奨される(1-B)」として、CDCの基準を表で掲載しています。家庭で確認できる項目を抜き出すと、次のようになります。
| 見るところ | 軽度(体重減少3%未満) | 中等度(3〜9%) | 重度(9%超) |
|---|---|---|---|
| 意識・反応 | 正常 | 刺激に過敏 | 感情鈍麻、嗜眠、意識不明 |
| 飲みたがるか | 飲水正常、水を拒否することもある | 口渇あり、水を欲しがる | ほとんど水を飲まない、飲むことができない |
| 涙 | あり | 減少 | なし |
| 口・舌 | 湿っている | 乾燥している | 乾ききっている |
| 目 | 正常 | わずかに落ちくぼむ | 深く落ちくぼむ |
| 皮膚のしわ(つまんで離す) | すぐに戻る | 2秒未満でもとに戻る | 戻るのに2秒以上かかる |
| 手足 | 暖かい | 冷たい | 冷たい、斑状、チアノーゼあり |
| 尿量 | 正常から減少 | 減少 | ほとんどなし |
いちばん実用的な指標は「涙」と「尿」です。泣いても涙が出ない、半日以上おしっこが出ていない(乳児ならおむつが重くならない)——このどちらかがあれば、家庭での経口補水だけで粘る段階を過ぎています。
そして、重度の脱水は経口補水の対象外です。ガイドラインのCQ5は「体重の9%を超える水分を喪失しているような重度の脱水が明らかである場合は、ショックの前兆と考え、経口補水療法よりも経静脈輸液療法を優先することが推奨される(1-B)」としています。ぐったりして飲むことができない状態は、家で頑張る場面ではありません。
高齢の方は、のどの渇きを自覚しにくく、脱水が進んでも症状がはっきり出ないことがあります。詳しくはかくれ脱水とは?高齢者がのどの渇きを感じにくい理由と家族が気づけるサインをご覧ください。
すぐ受診・救急要請の目安——学会の「危険信号」18項目
同ガイドラインは、ワーキンググループが独自に作成した「危険信号(Red Flag)」を18項目挙げています。これは「経口補水を続けてよいか、それとも受診か」を分ける、実務的にもっとも役に立つリストです。原文をもとに、家庭で確認できる形に整理します。
| 区分 | 危険信号 | 意味 |
|---|---|---|
| 重い脱水を示唆(7項目) | ①見た目に調子が悪そう、もしくはだんだん調子が悪くなる ②ちょっとした刺激に過敏に反応する、反応性に乏しい ③目が落ちくぼんでくる ④脈が速い(頻脈) ⑤呼吸が速い(多呼吸) ⑥皮膚をつまむと戻りが遅い(ツルゴールの低下) ⑦手足が冷たい、もしくは網状チアノーゼ | この段階では経口補水だけで粘らず受診する。ただし重症脱水以外でも認められることがある |
| これから脱水が進む(2項目) | ⑧持続する嘔吐 ⑨大量の排便 | 今は元気に見えても、経過を追う必要がある |
| 通常と異なる配慮が必要(2項目) | ⑩糖尿病、腎不全、代謝性疾患などの基礎疾患がある ⑪生後2か月未満 | 脱水の影響が出やすい。早めに相談する |
| 胃腸炎以外の病気を疑う(7項目) | ⑫生後3か月未満の乳児の38℃以上の発熱 ⑬黄色や緑色の胆汁性嘔吐、もしくは血性嘔吐 ⑭反復する嘔吐の既往 ⑮間欠的腹痛(痛みが波のように来る) ⑯くの字に体を折り曲げる、痛みで泣き叫ぶ、歩くと響くなどの強い腹痛 ⑰右下腹部痛、特に心窩部・上腹部から右下腹部に移動する痛み ⑱血便もしくは黒色便 | 「外科的疾患や敗血症などを念頭に置き鑑別を行う必要がある」とされる項目。ここに該当する場合は「胃腸炎だろう」と決めつけない |
救急医の立場から、この表の使い方を補足します。最後の7項目は「脱水の話ではない」というサインです。胆汁性の嘔吐は腸閉塞を、波のような腹痛は腸重積を、右下腹部への痛みの移動は虫垂炎を、血便は細菌性腸炎や腸重積を示唆します。胃腸炎として様子を見ているあいだに、別の病気が進行している——これがいちばん避けたい経過です。
血便があるときは細菌性の腸炎も考えます。とくに下痢止めを使ってはいけない病気があるため、O157とは?血便・HUSの危険サインと「下痢止め・抗菌薬がNGな理由」を確認してください。左下腹部を中心に痛みと発熱が続く場合は大腸憩室炎とは?左下腹部だけとは限らない痛みと発熱も鑑別に入ります。
また、何度も吐いたあとに血が混じる場合は、吐く力そのもので食道と胃のつなぎ目が裂けていることがあります。詳しくは嘔吐後に血を吐いた——マロリー・ワイス症候群とは?をご覧ください。
救急車を呼ぶ判断としては、上の表の「重い脱水を示唆」のうち反応が鈍い・呼びかけへの反応がおかしい・手足が冷たくまだらになっているが重なる場合、または吐物をのどに詰まらせて息が苦しそうな場合が該当します。ためらう必要はありません。
やってはいけないこと
①下痢止めを飲む。厚生労働省の「ノロウイルスに関するQ&A」は、「止しゃ薬(いわゆる下痢止め薬)は、病気の回復を遅らせることがあるので使用しないことが望ましいでしょう」と明記しています(Q11)。
小児ではさらに強い表現です。ガイドラインのCQ15-2は「止痢薬・止瀉薬の使用は推奨されない(1-B:使用しないことを強く推奨する)」とし、ロペラミドについて「乳児でイレウスの発症が報告され、6か月未満は禁忌、2歳未満は原則禁忌となっている」と記載しています。根拠になったメタアナリシスでは、ロペラミドを投与された927人中8人にイレウス・全身倦怠などの重い有害事象が認められ、それらはすべて3歳未満で起きたと報告されています。
②「腸を休ませる」として絶食を続ける。ガイドラインのCQ11は推奨度1-Aで「経口補水療法によって脱水が補正されればミルクや食事は早期に開始してよく、長時間の食事制限は推奨されない。食事の内容も年齢に応じた通常の食事でよい。食事制限をしても治癒までの期間に変わりはなく、むしろ体重の回復を遅らせる可能性がある」としています。
③スポーツドリンクや果汁で代用する。前述のとおり、糖が多く塩分が少ない飲料は下痢を悪化させます。経口補水液とスポーツドリンクの違いは熱中症を防ぐ食べ物・飲み物とは?効果的な水分・塩分補給で成分ごとに比較しています。
④アルコール消毒だけで済ませる。日本小児科学会は、ノロウイルスについて「アルコール消毒は効きにくいため、流水下に石鹸で手洗いをし」と明記しています。厚生労働省も「消毒用エタノールによる手指消毒は、石けんと流水を用いた手洗いの代用にはなりません」としています(Q16)。
⑤吐き気止めに頼りすぎる。ガイドラインのCQ15-3は制吐薬について「有効とする報告もあるがエビデンスレベルは高くなく一律に使用する必要はない(0-C:使用してもよいが積極的な推奨はしない)」としています。日本で小児に使えるドンペリドン・メトクロプラミドには錐体外路系や心電図異常の有害事象が報告されており、「急性胃腸炎の嘔吐は自然治癒するものであり、有効性とのバランスを勘案して使用を決めねばならない」と結ばれています。
食事はいつから戻すか
脱水が補正されたら、絶食時間をおかずに通常の食事へ戻します。避けるべき食事について、ガイドラインのCQ13は「エビデンスは十分ではないが、高脂肪の食事や糖分が多い飲料は避けることが推奨される(2-C)」とし、各国ガイドラインに共通する不適切な食事として次の2点を挙げています。
- (中等度以上の)脱水補正中の固形物の摂取
- 脱水補正後の糖分の多い飲み物と炭酸飲料の摂取
逆に言えば、この2つ以外は「年齢相当の通常の食事」でよいということです。おかゆだけを何日も続ける必要はありません。母乳を飲んでいる乳児は、経口補水液で脱水を補正している最中も母乳を続けてよいとされています(CQ10)。
大人はノロの検査を受けられないことが多い
「ノロかどうか検査してほしい」という希望は非常に多いのですが、ここには制度上の壁があります。厚生労働省のQ&A(Q12)は次のように説明しています。
「ノロウイルス抗原検査」は、ふん便中のノロウイルスを検査キットで検出するもので、3歳未満、65 歳以上の方等を対象に健康保険が適用されています。医療機関で、医師が医学的に必要と認めた場合に行われ、診断の補助に用いられます。なお、この検査は、結果が早く出るメリットがありますが、ノロウイルスに感染していても陽性とならない場合もあり、ノロウイルスに感染していないことを確かめることはできません。
厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」Q12(最終改訂 令和3年11月19日)
つまり3歳〜64歳の方は、原則として保険での抗原検査の対象外です。しかも陰性でも否定できません。同Q&Aは「通常の場合、臨床症状や周囲の感染状況等から、総合的にノロウイルスを原因と推定して診療がなされていることが多い」とも述べています。
そして、ここが実際的に重要な点です。ノロかどうかが分かっても、治療は変わりません。厚生労働省のQ11は「現在、このウイルスに効果のある抗ウイルス剤はありません。このため、通常、対症療法が行われます」としています。検査結果を待つより、経口補水を始めるほうが先です。
同じ冬の感染症でも、インフルエンザは検査のタイミングで結果が変わり、薬にも適応があります。考え方が正反対なので、インフルエンザの初期症状と検査のタイミング|悪寒・関節痛が出たら何時間後に受診?とあわせて読むと違いが整理できます。
そもそもノロウイルスとは——潜伏期間とうつる期間
基本的なデータを、出典ごとに並べます。資料によって数字の幅が違うので、どちらが正しいかではなく「幅がある」と理解してください。
| 項目 | 厚生労働省Q&A(令和3年11月19日改訂) | 日本小児科学会(2025年4月改訂版) |
|---|---|---|
| 潜伏期間 | 24〜48時間 | 12-48時間 |
| 主な症状 | 吐き気、嘔吐、下痢、腹痛。発熱は軽度 | 嘔吐と下痢が主症状であり、脱水を合併する |
| 症状の期間 | 1〜2日続いた後、治癒し、後遺症もない | 多くは1-3日で治る |
| ウイルスが出続ける期間 | 症状がなくなっても通常1週間程度、長いときには1か月程度 | 便中に3週間以上排泄されることもある |
| かかる年齢 | 子どもやお年寄りでは重症化することがある | 乳幼児のみならず、学童、成人にも多くみられ、再感染もまれでない |
「一度かかったから今年はもう大丈夫」は成り立ちません。日本小児科学会が「再感染もまれでない」と書いているとおりです。ノロウイルスには多数の遺伝子型があり、2014年ごろから流行したGII.17のように「今までのウイルスと抗原性が異なり、このウイルスに対する免疫を持たない人が多いことが推定される」型も出現しています(厚生労働省Q7)。
流行の規模も年によって大きく違います。厚生労働省の集計では、ノロウイルスによる食中毒は令和7年(2025年)に462件・患者18,566名で、これは同年の食中毒総患者数24,727名の75.1%にあたります。前年の令和6年(276件・8,656名)から件数・患者数とも大きく増えました。
食中毒としての側面では、原因食品が特定できるのは一部です。「食中毒事例のうちでも約7割では原因食品が特定できていません」(Q13)とされており、加熱不足の二枚貝よりも、感染した調理者を介した汚染のほうが多いのが実態です。食品からの予防については食中毒を防ぐために知っておきたいこと、加熱で防げないタイプについては再加熱では防げない毒素型(黄色ブドウ球菌・セレウス菌・ウェルシュ菌)もご覧ください。
家庭内でうつさないための最低限
嘔吐物の処理手順そのものは自治体が詳しい資料を出しているので、ここでは「濃度」と「なぜそうするのか」を押さえます。数字は厚生労働省Q&AのQ16・Q17・Q20・Q21によります。
| 対象 | 方法 |
|---|---|
| 手 | 石けんと流水で洗う。石けん自体にウイルスを失活させる効果はなく、手の汚れを落としてウイルスを「はがれやすくする」ためのもの。アルコールは手洗いの代用にならない |
| 吐物・便を拭き取った後の床 | 次亜塩素酸ナトリウム(塩素濃度約200ppm)で浸すように拭き、その後に水拭き |
| 使ったペーパータオル・おむつ | ビニール袋に密閉。袋の中に塩素濃度約1,000ppmの次亜塩素酸ナトリウムを、廃棄物が十分に浸る量入れることが望ましい |
| 衣類・リネン | 下洗いのうえ85℃・1分間以上の熱水洗濯。できなければ次亜塩素酸ナトリウムで消毒 |
| 食品(二枚貝など) | 中心部が85℃〜90℃で90秒以上の加熱 |
家庭用の次亜塩素酸ナトリウムを含む塩素系漂白剤で代用できます(製品の「使用上の注意」を必ず確認してください)。
意外に知られていないのが、「乾かさない」ことの重要性です。厚生労働省は「ノロウイルスは乾燥すると容易に空中に漂い、これが口に入って感染することがあるので、吐ぶつやふん便は乾燥しないうちに床等に残らないよう速やかに処理し」と述べています。日本小児科学会も「乾燥してエアロゾル化した吐物からは空気感染も発生しうる」としています。処理のあとは換気も行います。
そして、時間が経てば安全というわけでもありません。厚生労働省は「12日以上前にノロウイルスに汚染されたカーペットを通じて、感染が起きた事例も知られており」と記載しています。
保育園・学校・仕事はいつから行けるか
ウイルスが1か月出続けることがある一方で、その間ずっと休むのは現実的ではありません。日本小児科学会は登校(園)基準を次のように定めています。
症状のある間が主なウイルスの排泄期間なので、下痢、嘔吐症状が消失した後、全身状態のよい者は登校(園)可能であるが、手洗いを励行する。
日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会「学校、幼稚園、認定こども園、保育所において予防すべき感染症の解説」2025年4月改訂版
園や学校ごとに登園許可証などの取り決めがある場合は、そちらに従ってください。
ただし、食品を直接扱う仕事の方は基準が違います。厚生労働省は「このウイルスは下痢等の症状がなくなっても、通常では1週間程度長いときには1ヶ月程度ウイルスの排泄が続くことがあるので、症状が改善した後も、しばらくの間は直接食品を取り扱う作業をさせないようにすべきです」としています(Q18)。飲食業・給食・調理の従事者は、必ず職場の責任者に申し出てください。
高齢の方で特に注意すること
厚生労働省は「健康な方は軽症で回復しますが、子どもやお年寄りなどでは重症化したり、吐ぶつを誤って気道に詰まらせて」しまうことがあると注意を促しています(Q1)。高齢の方で気をつける点を3つに絞ります。
- 吐くときの姿勢——仰向けのまま吐くと、吐物が気道に入ります。横向きにして、顔を下に向けられるようにします。飲み込む機能が落ちている方では、吐物の誤嚥から肺炎につながることがあります(誤嚥性肺炎とは?親の「むせ」と不顕性誤嚥)
- 脱水の自覚が乏しい——のどの渇きを感じにくく、症状が出にくいまま進みます。飲んだ量と尿の回数を、家族が数字で記録してください
- 持病の薬——利尿薬、糖尿病の薬、腎臓に負担のかかる薬を飲んでいる方は、脱水で影響が出やすくなります。飲食がとれない状態が続くときは、かかりつけ医に相談してください
よくある質問
吐いてしまったら、水分は一度やめたほうがいいですか?
やめる必要はありません。日本小児救急医学会のガイドラインは「ORSを嘔吐してしまった場合でも、ORTを続けてよい」としています。同ガイドラインが掲載するWHOのプロトコルでは、嘔吐する場合は5〜10分待ってから、より少量・より頻回(ティースプーンで2〜3分ごと)で再開するとされています。中止すると脱水が進みます。
経口補水液がありません。スポーツドリンクでもいいですか?
脱水がある場合は代わりになりません。ガイドラインは「脱水がある場合には、必ず経口補水液(ORS)を用いる」としており、避けるべき飲料として炭酸飲料、市販の果物ジュース、甘いお茶、コーヒーを挙げています。どうしても手に入らない緊急時の代用として、食卓塩3g・砂糖18gを水1Lに溶かしたものが示されていますが、濃度が正確でないため緊急避難的措置と位置づけられています。
下痢止めを飲んで早く止めたほうがいいですか?
すすめられません。厚生労働省は「止しゃ薬(いわゆる下痢止め薬)は、病気の回復を遅らせることがあるので使用しないことが望ましいでしょう」としています。小児のガイドラインでは推奨度1-B(使用しないことを強く推奨する)とされ、ロペラミドは6か月未満が禁忌、2歳未満が原則禁忌です。
食事はいつから戻していいですか?
脱水が補正されたら、絶食時間をおかずに戻して構いません。ガイドラインは推奨度1-Aで「長時間の食事制限は推奨されない。食事の内容も年齢に応じた通常の食事でよい」とし、食事制限をしても治るまでの期間は変わらず、むしろ体重の回復を遅らせる可能性があるとしています。ただし高脂肪の食事と糖分の多い飲料は避けます。
大人でもノロウイルスの検査はしてもらえますか?
ノロウイルス抗原検査に健康保険が適用されるのは3歳未満と65歳以上の方等で、医師が医学的に必要と認めた場合に限られます。また陰性であってもノロウイルスに感染していないことは確かめられません。有効な抗ウイルス薬がなく治療は対症療法のため、結果によって治療方針が変わる場面は多くありません。
症状が治まれば、もう人にうつしませんか?
うつす可能性は残ります。厚生労働省は「下痢等の症状がなくなっても、通常では1週間程度長いときには1ヶ月程度ウイルスの排泄が続くことがある」としており、日本小児科学会も「便中に3週間以上排泄されることもある」と記載しています。症状が消えた後も手洗いを続けてください。食品を直接扱う仕事の方は、職場の責任者に申し出る必要があります。
アルコール消毒スプレーで予防できますか?
ノロウイルスにはアルコールが効きにくく、日本小児科学会も「アルコール消毒は効きにくいため、流水下に石鹸で手洗いをし」としています。厚生労働省も、消毒用エタノールによる手指消毒は石けんと流水を用いた手洗いの代用にはならないとしています。汚染された場所の消毒には次亜塩素酸ナトリウム(床は約200ppm、廃棄物は約1,000ppm)を使います。
子どもが保育園に行けるのはいつからですか?
日本小児科学会の登校(園)基準は「症状のある間が主なウイルスの排泄期間なので、下痢、嘔吐症状が消失した後、全身状態のよい者は登校(園)可能であるが、手洗いを励行する」です。園や学校ごとに登園許可証などの取り決めがある場合は、そちらに従ってください。
まとめ
胃腸炎で吐いて水が飲めないとき、家庭でやるべきことは1回5mLを5分おきから始める経口補水です。吐いても中止せず、5〜10分待って、より少量・より頻回で再開します。学会は「症状が始まったら速やかに自宅で開始する」ことを最も強い推奨度で求めています。下痢止めは使わず、脱水が治まったら食事は早めに戻す。そして、胆汁性・血性の吐物、血便、波のような腹痛、右下腹部への痛みの移動があれば、それは脱水の話ではなく別の病気を疑う場面です。ためらわず受診してください。
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参照ソース(一次情報)
- 日本小児救急医学会 診療ガイドライン作成委員会編「エビデンスに基づいた子どもの腹部救急診療ガイドライン2017 第Ⅰ部 小児急性胃腸炎診療ガイドライン」(Mindsガイドラインライブラリ・全文PDF)——CQ4(脱水の重症度評価)、CQ5(重度脱水は点滴優先)、CQ6(1-Aで自宅から開始・手作りORS)、CQ7(4時間・50〜100mL/kg)、CQ8(5mLを5分ごと)、CQ9(代用飲料と避けるべき飲料)、CQ11(早期の食事再開)、CQ13(不適切な食事)、CQ15-2(止瀉薬)、CQ15-3(制吐薬)、表3(危険信号18項目)、表6(脱水の重症度評価)、表7(WHO・NICE・CDCのプロトコル)
- 厚生労働省「ノロウイルスに関するQ&A」(作成 平成16年2月4日/最終改訂 令和3年11月19日)——Q1(重症化と誤嚥)、Q7(GII.17)、Q8(11月から増加し12〜1月がピーク)、Q9(潜伏期間24〜48時間)、Q11(下痢止めは望ましくない)、Q12(抗原検査の保険適用範囲)、Q13(約7割で原因食品が特定できない)、Q15(85〜90℃・90秒以上)、Q16(手洗いとアルコール)、Q17・Q20・Q21(200ppm/1,000ppm/熱水85℃1分)、Q18(食品取扱者の就業)
- 日本小児科学会 予防接種・感染症対策委員会「学校、幼稚園、認定こども園、保育所において予防すべき感染症の解説」2025年4月改訂版(PDF)——ノロウイルス感染症の潜伏期間12-48時間、便中3週間以上の排泄、成人にも多く再感染もまれでないこと、アルコールが効きにくいこと、登校(園)基準
- 日本小児科学会「ノロウイルス感染症」(一般向けページ)——保護者向けの要約
- 国立健康危機管理研究機構「感染性胃腸炎(詳細版)」——初冬から増加して12月に一度ピーク、春にもう一つの山という流行パターン。ウイルス性は対症療法が中心
- 厚生労働省「感染性胃腸炎(特にノロウイルス)」——通知・リーフレット等のまとめ
※この記事は一般の方向けの情報提供であり、個々の診療に代わるものではありません。判断に迷うときは、医療機関または救急安心センター事業(#7119)、子ども医療電話相談(#8000)にご相談ください。
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