「数日前まで何ともなかったのに、今朝になって急に膝が腫れて、熱を持って痛む」——高齢のご本人やご家族から、救急外来でよく聞くお話です。転んだわけでも、無理をしたわけでもないのに突然起こる膝の腫れと痛み。その原因として高齢の方にとくに多いのが「偽痛風(ぎつうふう)」です。
「痛風」と名前は似ていますが、まったく別の病気です。この記事では、偽痛風とはどんな病気か、痛風とどう違うのか、診断・治療、そしてもっとも大切な「急いで受診すべき危険なサイン」までを、救急科専門医がわかりやすく解説します。
偽痛風(CPPD)とは?
偽痛風は、正式には「ピロリン酸カルシウム結晶沈着症(CPPD)」と呼ばれます。関節の中にピロリン酸カルシウムという小さな結晶がたまり、それが引き金となって急に関節炎(関節の腫れ・痛み・熱感)を起こす病気です。主な特徴は次のとおりです。
- 高齢の方に多い——加齢とともに増え、80歳以上では珍しくありません。男女差はほとんどないとされています。
- とくにきっかけがなく突然発症する——ぶつけた・ひねったといった心当たりがないのに、ある日急に始まります。脱水や手術後、ほかの病気で入院した後などに起こることもあります。
- 膝に最も多い——偽痛風の多くが膝関節に起こります。手首・肩・足首などにも生じます。
- 症状——痛み・腫れ・熱感・関節に水がたまる・動かしにくさが出ます。
「痛風」とはどう違うの?
名前が似ているため混同されがちですが、原因となる結晶も、予防の方法もまったく異なります。
- 痛風:尿酸(高尿酸血症)が背景にある病気です。足の親指の付け根に「焼け火箸を押しつけられるような」激痛が起こるのが典型で、食事や尿酸値の管理が予防の柱になります。
- 偽痛風:原因は尿酸とは無関係の「ピロリン酸カルシウム」です。そのため尿酸値を下げる薬や食事制限では予防できません。膝に起こりやすく、痛風ほど激烈ではないことが多いのも違いです。
「尿酸値は正常なのに痛風のような発作が出た」と戸惑う方がいますが、それはこの偽痛風であることが少なくありません。痛風そのものについては 痛風・高尿酸血症とは?原因・症状・治療 で詳しく解説していますので、あわせてご覧ください。
どうやって診断するの?
診察に加えて、次の検査を組み合わせて診断します。とくに大切なのは、後で述べる「化膿性関節炎(細菌感染)」との見分けです。
- 血液検査:炎症の値(CRP)が大きく上がることがあります。ただしこれは偽痛風だけに見られるものではありません。なお偽痛風では、白血球の中の「好中球」の増加は比較的乏しいとされ、これは強い細菌感染(化膿性関節炎)との違いを考えるヒントになります。
- レントゲン(X線):ピロリン酸カルシウムはX線に写るため、膝の半月板や関節軟骨の表面に線状の石灰化像が見えることがあり、診断の手がかりになります。
- 関節液検査:腫れた関節に細い針を刺して関節の水を採り、顕微鏡(偏光顕微鏡)でピロリン酸カルシウムの結晶を確認できれば、診断の確かな根拠になります。化膿性関節炎では、関節液がより強く濁り、含まれる細胞の数が極端に多く、糖の値が下がるなどの違いが見られます。
治療はどうするの?
偽痛風の治療は、痛みと炎症をしずめる対症療法が基本です。具体的には、飲み薬の消炎鎮痛薬(NSAIDs)を中心に、安静や冷却を行います。関節へのステロイド注射が有効な場合もあります。多くは数日から数週間で軽快します。手術になることはまれですが、再発を繰り返す場合に関節内を洗浄する処置を検討することがあります。
ここで大切な注意が二つあります。一つは、痛風で使う尿酸値を下げる薬(アロプリノールなど)は、偽痛風には効きません。原因が尿酸ではないためです。もう一つは、関節へのステロイド注射は、後で述べる「化膿性関節炎」が否定できない段階では避けるべきという点です。感染症に気づかずにステロイドを使うと悪化させてしまう恐れがあります。自己判断で市販薬だけに頼らず、まずは医療機関で診てもらうことが大切です。
【最重要】見逃してはいけない「化膿性関節炎」
偽痛風と非常に見た目が似ていて、しかも緊急性がまったく違う病気があります。それが「化膿性関節炎」——関節の中に細菌が入って起こる感染症です。
化膿性関節炎は、偽痛風よりも発赤や熱感が強く、急速に腫れと痛みが悪化し、高熱が出て全身の具合も悪くなっていくのが特徴です。怖いのは、治療が遅れると関節の軟骨が壊れ、関節の機能に重い後遺症を残す恐れがあること。そのため医療機関では、原因菌の特定を待たずに抗菌薬を始め、早期に手術(関節内の洗浄)を行うことがあります。
見た目だけで偽痛風と化膿性関節炎を見分けるのは、専門家でも難しいものです。だからこそ、次のサインがあれば「ただの偽痛風だろう」と自己判断せず、早めに受診してください。
こんなときは急いで医療機関へ
- 関節の腫れ・痛みとともに高い熱が出ている
- 関節が真っ赤に腫れ、強い熱感がある
- 痛みが急速に強くなっている/関節をまったく動かせない
- ぐったりして全身の具合が悪い(強いだるさ・食欲低下・意識がはっきりしないなど)
- 糖尿病がある、ステロイドや免疫を抑える薬を使っているなど、感染症にかかりやすい状態の方
これらが当てはまる場合は、化膿性関節炎の可能性があり、時間との勝負になります。夜間や休日でも迷わず救急外来の受診を検討してください。
「首に起こる偽痛風」——急な首の痛みと発熱
あまり知られていませんが、偽痛風は首の付け根(環軸関節)にも起こることがあります。これを「crowned dens syndrome(CDS)」と呼びます。高齢の方に、急な首の痛み・発熱・首を動かしにくいという症状が現れます。髄膜炎など別の重い病気と間違われやすいのが注意点ですが、首のCT検査で診断でき、消炎鎮痛薬がよく効いて数日から数週間で軽快することが多い病気です。「高齢の家族が急に首を痛がり、熱もある」というときは、こうした病気の可能性も含めて医療機関で相談してください。
よくある質問(FAQ)
Q. 偽痛風は再発しますか?
A. 再発することがあります。とくにきっかけなく繰り返す方もいます。発作のたびに消炎鎮痛薬で対応するのが基本で、何度も繰り返す場合は整形外科・リウマチ科でご相談ください。
Q. 痛風の薬や食事制限は効きますか?
A. 効きません。偽痛風の原因は尿酸ではなくピロリン酸カルシウムのため、尿酸値を下げる薬やプリン体を控える食事では予防できません。ここが痛風との大きな違いです。
Q. 患部は冷やすべき?温めるべき?
A. 急に腫れて熱を持っている発作中は、冷やして安静にするのが基本です。ただし高熱や強い全身症状を伴うときは、自己流のケアより先に受診してください。
Q. ほかに「急な激痛」を起こす結晶の病気はありますか?
A. はい。痛風(尿酸の結晶)や、腎臓・尿管にできる結石(尿路結石)も、結晶が関わって突然の激痛を起こす代表例です。痛む場所や状況で見分けますので、強い痛みが続くときは受診をおすすめします。
まとめ
- 偽痛風(CPPD)は、ピロリン酸カルシウムの結晶が原因で高齢者の膝などに急に起こる関節炎です。
- 痛風とは別の病気で、尿酸の管理や食事制限では予防できません。
- 治療は飲み薬の消炎鎮痛薬が基本で、多くは数日〜数週間で軽快します。
- もっとも大切なのは、見た目がそっくりな「化膿性関節炎」を見逃さないこと。高熱・激しい腫れと熱感・全身状態の悪化があれば、自己判断せず早めに受診してください。
※この記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の診断・治療に代わるものではありません。症状が気になる場合は医療機関を受診してください。
参照ソース
- 一般社団法人 日本リウマチ学会「偽痛風」 https://www.ryumachi-jp.com/general/casebook/gitsufu/
- 慶應義塾大学病院 医療・健康情報サイト KOMPAS「ピロリン酸カルシウム結晶沈着症(CPPD)、偽痛風」 https://kompas.hosp.keio.ac.jp/disease/000722/
- MSDマニュアル プロフェッショナル版「ピロリン酸カルシウム関節炎」 MSDマニュアル プロフェッショナル版
- 一次資料:日本救急医学会(編)『救急診療指針』「内因性の筋・骨格系疾患」章

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