ウェルニッケ脳症とは?お酒をよく飲む人・食べられない人は要注意——救急科専門医が解説【2026年版】

「最近、お酒をよく飲む家族の物忘れがひどい」「つわりで食べられない日が続いて、ぼんやりして話のつじつまが合わない」——そんなとき、頭の片隅に置いておいてほしい病気があります。それがウェルニッケ脳症(Wernicke脳症)です。ビタミンB1(チアミン)の不足で起こる急性の脳の障害で、対応が遅れると記憶に一生残る後遺症につながることがあります。一方で、早く気づいて適切に治療すれば回復が期待できる病気でもあります。この記事では、救急科専門医の立場から、家族が気づくためのポイントをやさしく解説します。

こんな症状・状況は要注意

ウェルニッケ脳症は、「B1が足りなくなりやすい状況の人」に、次のような変化が出たときに疑います。

  • ぼんやりする・反応が鈍い(意識がはっきりしない、ずっと眠そう)
  • 目の動きの異常(ものが二重に見える、黒目が小刻みに揺れる=眼振)
  • ふらつく・まっすぐ歩けない(酔っていないのにフラフラする)
  • 物忘れ・つじつまの合わない言動(最近のことを覚えられない、作り話をする)

ここで大切なのは、これらが全部そろうとは限らないことです。古典的には「意識障害・眼球運動の異常・ふらつき」の3つが特徴とされますが、実際に3つすべてがそろう人は1〜2割程度にとどまるとされています。むしろ症状が1つか2つしか出ない「非典型的な現れ方」の方が多数派です。だからこそ見逃されやすく、初診時に診断がつかないことも少なくありません。「1つでも当てはまる」なら注意する、という心構えが命を守ります。

なぜ起こる? お酒だけではないリスク

原因はビタミンB1の不足です。B1は体内にあまり蓄えられず、数週間食事が偏るだけでも底をつきます。最も多いのは慢性的な大量飲酒ですが、お酒を飲まない人でも、次のような「食べられない・栄養が偏る状況」が続くと誰にでも起こりえます。

  • 極端な食事制限・過度なダイエット、偏食
  • 胃の切除後や肥満手術(減量手術)後で栄養の吸収が落ちている
  • 妊娠悪阻(重いつわり)で食べられない・繰り返し吐く
  • 点滴や経管栄養だけの状態が長く続いている
  • がんの治療中・抗がん剤治療中、透析中など

「うちはお酒を飲まないから大丈夫」と思わず、食べられない状態が続いているかどうかを目安にしてください。大量に飲酒する方は、あわせてアルコール性ケトアシドーシスなど、飲みすぎと栄養不足が重なって起こる緊急事態にも注意が必要です。

【重要】甘いものより先に「ビタミンB1」を

ここは特に知っておいてほしいポイントです。栄養が足りていない人・大量に飲酒する人に、糖分(ブドウ糖)だけを先に大量に入れると、かえってウェルニッケ脳症を引き起こしたり悪化させたりすることがあります。体が糖をエネルギーに変えるときにビタミンB1を使うため、ただでさえ不足しているB1がさらに消費されてしまうからです。

医療現場では、こうした人にはビタミンB1と糖分を「どちらか一方」ではなく、同時に(あるいはB1をわずかに先に)補うのが原則です。つまりB1は”糖分の代わり”ではなく、順序や同時投与を医療者が判断するものだと考えてください。ご家庭でも、衰弱している人に「とりあえず甘い点滴」「糖分の多い栄養ドリンクだけ」で元気にしようとするのは危険な場合があります。

ただし、これは「糖分を与えてはいけない」という意味ではありません。意識がない・けいれんしている・インスリンや血糖を下げる薬を使っている人など、低血糖が強く疑われる緊急時は別です。この場合はためらわず救急要請し、応急処置としての糖分補給を遅らせてはいけません。判断が難しいときは、自己流でサプリや糖分を与える前に、まず医療機関・救急に相談してください。

治療と、放置したときの後遺症

治療は、ビタミンB1をすみやかに十分量、点滴などで補うことです。疑わしい場合は、検査結果を待たずにB1を投与するのが一般的とされています。早い段階で治療できれば回復が期待できます。

一方、対応が遅れるとコルサコフ症候群という状態に進むことがあります。これは新しいことを覚えられない・記憶の空白を作り話で埋めてしまうといった、元に戻りにくい記憶の障害で、生活に大きな影響を残します。「早く気づけたかどうか」で結果が大きく変わる病気なのです。

受診の目安・予防

大量飲酒の人や、食べられない状態が続く人に、ふらつき・物忘れ・目の動きの異常・ぼんやり・つじつまの合わない言動が出たら、早めに医療機関を受診してください。とくに意識がおかしい、反応が鈍いといった場合は、ためらわず救急外来へ。時間との勝負になる病気です。

予防の基本はバランスのよい食事です。B1は豚肉・大豆・玄米などに多く含まれます。お酒が多い人、ダイエット中の人、つわりや手術後で食べられない人は、食事がとれない期間が続くこと自体がリスクだと意識し、無理せず早めに医療者に相談しましょう。

まとめ

  • ウェルニッケ脳症はビタミンB1不足で起こる急性の脳の障害で、命に関わることもある
  • 特徴的な3つの症状がそろうのは1〜2割程度。1つでも当てはまれば要注意
  • 大量飲酒だけでなく、ダイエット・胃切除後・つわりなど「食べられない状況」全般がリスク
  • 衰弱した人に糖分だけを先に大量に入れるのは危険。B1と糖分は医療者が順序を判断(低血糖の緊急時は糖分を遅らせない)
  • 早く治療すれば回復が期待できるが、遅れると記憶の後遺症が残りうる

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※この記事は一般的な医療情報の提供を目的としたもので、診断・治療に代わるものではありません。気になる症状がある場合は、必ず医療機関を受診してください。

参照ソース

  • 日本神経学会「認知症疾患診療ガイドライン」ビタミン欠乏症の項
  • 済生会「ウェルニッケ脳症とは」 https://www.saiseikai.or.jp/medical/disease/wernicke_encephalopathy/
  • MSDマニュアル家庭版「ウェルニッケ-コルサコフ症候群」
  • 厚生労働省 e-ヘルスネット「ウェルニッケ・コルサコフ症候群」
  • 医学書院 医学界新聞プラス「ビタミンB1は救急外来でいつ、誰に、どれだけ投与するのか?」

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