卵巣出血は、若い女性が突然の下腹部痛で救急外来を受診したときに、必ず頭に置かなければならない病気のひとつです。卵巣の表面やその中にできた組織が破れ、お腹の中(腹腔内)に血液が広がった状態を指します。多くは安静と点滴で軽快しますが、一部は出血が止まらず、血圧が下がって重篤な状態に至ります。お盆や夏休みで婦人科が閉まっている時期は、この病気が「胃腸炎でしょう」「生理痛でしょう」で帰されるリスクが上がります。
この記事では、救急科専門医が虫垂炎・卵巣茎捻転・異所性妊娠との見分け方と、受診の目安を一次情報に沿って解説します。腹痛全般でどんなときに救急へ行くべきかという総論は「お腹が痛いとき救急に行くべきサイン──急性腹症の見極め方」にまとめています。本記事は、そこで扱いきれなかった「女性特有の下腹部痛」の各論にあたります。
卵巣出血とは——卵巣の表面が破れて、お腹の中に出血する
卵巣は子宮の左右に一つずつある臓器です。日本産科婦人科学会の解説によると、卵巣はもともと2〜3cmほどの大きさで、腫瘍ができると10〜20cmを超えることもあります。この小さな臓器は、毎月の排卵にあわせて激しく形を変えています。卵胞が育ち、破れて卵子を出し、そのあとに黄体という組織ができる。この一連の流れのなかで、卵巣の表面や内部の血管が破れ、腹腔内に出血することがあります。これが卵巣出血です。
腹腔内には本来ほとんど液体がありません。そこに血液が流れ込むと、腹膜が刺激されて強い痛みが出ます。出血が少なければ自然に止まり、たまった血液も時間をかけて吸収されていきます。問題は、出血が止まらない場合です。腹腔内は圧力が低く、皮膚のように押さえて止めることができないため、静かに、しかし持続的に血液がたまり続けることがあります。
排卵期の「卵胞出血」と、黄体期の「黄体出血」
卵巣出血は起こる時期によって2つに分けられます。ひとつは排卵の前後、卵胞が破れるときに起こる卵胞出血。もうひとつは排卵のあと、黄体(排卵後の卵胞が変化してできる組織)やその中にできた嚢胞から出血する黄体出血です。黄体は新しい血管が密に入り込んだ、いわば血の通いのよい組織です。そのため黄体期に起こる出血のほうが、量が多くなりやすいと考えられています。
排卵期には、女性ホルモンの一時的な低下によって子宮内膜の一部がはがれ、少量の出血が起こることがあります。いわゆる排卵期出血です。日本産科婦人科学会は「排卵の前後に起こる月経間期出血」を異常子宮出血に含めて説明しており、繰り返す場合は産婦人科の受診をすすめています。ただし、この排卵期出血(腟から出てくる出血)と、卵巣出血(お腹の中への出血)はまったく別のものです。お腹の中への出血は、外からは一滴も見えません。「出血していないから大丈夫」という判断が通用しないのが、この病気の怖いところです。
きっかけは、あることもないこともある
卵巣出血は、性交渉をきっかけに起こることがよく知られています。ほかにも、スポーツ、排便時のいきみ、腹部への打撲などが引き金になることがあります。一方で、何のきっかけもなく、じっとしていて突然始まることも珍しくありません。「思い当たることがないから違うだろう」とは言えません。
強い外傷でも起こります。日本救急医学会雑誌に報告された22歳女性の症例(2008年)では、乗用車を運転中に誤って5m下の川に車ごと転落するという大きな外傷で搬送され、造影CTでは出血部位が特定できないまま出血性ショックの状態でした。試験開腹の結果、左卵巣の黄体嚢胞からの持続出血が原因と判明し、腹腔内には約750mLの血液がたまっていました。これは交通外傷という強い衝撃の例で、日常の軽い打撲とは条件が違いますが、女性の腹腔内出血では卵巣も出血源の候補になるということを示しています。
起こる年齢——20代後半から30代前半に多いが、10代でも起こる
卵巣出血は月経のある年代全般に起こります。日本小児外科学会雑誌に報告された症例(1996年)では、卵巣出血は「性的に最も成熟した20代後半から30代前半に多いが12歳から報告があり、思春期女児では急性腹症としてとくに虫垂炎との鑑別上念頭におくべき疾患」と述べられています。
この報告の患者は14歳の女児で、右下腹部痛を主訴に受診し、虫垂炎が疑われて超音波検査が行われています。超音波では8×7cmの内部が不均一な腫瘤と周囲の液体貯留が確認され、翌日には歩行のふらつきと貧血が出現。貧血が高度となったため入院4日目に開腹し、手拳大の右卵巣内血腫と腹腔内出血300mLが確認され、血腫の部分を楔状に切除して卵巣は可能なかぎり温存されました。著者らは、本症の診断には腹部超音波検査が必須であるとしています。
なぜ「胃腸炎でしょう」「生理痛でしょう」で帰されてしまうのか
右側だと、虫垂炎とそっくりになる
右の卵巣から出血すると、痛む場所は右下腹部です。虫垂(いわゆる盲腸)とほぼ同じ場所で、押したときの痛みの出方もよく似ています。先ほどの14歳の症例が「虫垂炎が疑われて」検査に進んでいるとおり、経験のある医師でも初診時に区別できないことがあります。逆にいえば、若い女性の右下腹部痛は、虫垂炎と決めつけずに婦人科疾患も同時に評価する必要があるということです。
症状が「よくある病気」と重なる
腹腔内にたまった血液が腹膜や腸を刺激すると、吐き気、嘔吐、下痢のような症状が出ることがあります。夏場でお腹をこわしている人が多い時期だと、この組み合わせは「感染性胃腸炎」に見えます。発熱がなく、下痢が主症状でないこと、そして痛みが「食あたりの痛み」ではなく突然始まったことが、区別の手がかりになります。
生理痛との違いは「突然」「持続」「初めて」
月経痛は、月経中に周期的に起こり、これまでにも同じ経験があり、鎮痛薬である程度やわらぐことが多い痛みです。これに対して卵巣出血の痛みは、ある瞬間に突然始まり、波が引かずに持続し、これまで経験したことのない種類の痛みであることが特徴です。時期も月経中とは限らず、排卵期や、次の月経の前の時期に起こります。「いつもの生理痛と同じかどうか」は、本人にしか判断できない重要な情報です。違うと感じたら、そのまま医師に伝えてください。
急性腹症の診療ガイドラインでも、婦人科疾患は主要な鑑別
急性腹症診療ガイドラインは2015年に初版が作られ、2025年3月に10年ぶりの改訂となる第2版が発行されました。初版は日本腹部救急医学会、日本医学放射線学会、日本プライマリ・ケア連合学会、日本産科婦人科学会、日本血管外科学会の5学会が作成し、第2版ではこれに日本病院総合診療医学会、日本超音波医学会、日本超音波検査学会が加わった8学会で作成されています。初版から一貫して日本産科婦人科学会が作成に加わっていること自体が、急性腹症の診療において婦人科疾患の評価が欠かせないという合意を示しています。
痛みの強さではなく「出血のサイン」を見る
痛みの強さと出血量は必ずしも一致しません。のたうち回るほど痛くても出血が少量のこともあれば、「思ったより我慢できる」と言いながら腹腔内には数百mLの血液がたまっていることもあります。痛みの強さを基準にすると判断を誤ります。見るべきは、体が血液を失ったときに出るサインです。
立ちくらみ・ふらつき・冷や汗・顔面蒼白
横になっているときは平気なのに、起き上がると目の前が暗くなる。トイレに立ったらふらついた。冷や汗が出る、あくびが止まらない、顔色が白い、手足が冷たい。これらは循環血液量が減っているサインです。先ほどの14歳の症例でも、受診後に「歩行のふらつき」と貧血が出現しています。
立ちくらみそのものは日常的な症状で、多くは血圧調節の問題によるものです(梅雨の立ちくらみ・失神は「起立性低血圧」かも)。しかし強い下腹部痛と同時に立ちくらみが出たときは意味がまったく違います。この組み合わせは、出血を疑う根拠になります。
肩やみぞおち・背中に広がる痛み(放散痛)
お腹の痛みなのに、肩が痛い。この訴えは、腹腔内に何かが漏れているときの特徴的なサインです。腹腔内にたまった血液が横隔膜を刺激すると、横隔膜を支配する神経を通じて、肩やその周辺に痛みとして感じられます。横になると血液が横隔膜のほうへ移動しやすく、肩の痛みが強くなることがあります。「下腹部が痛くて、しかも肩が痛い」は、そのまま救急外来で伝えるべき情報です。
意識・呼吸・脈
呼びかけへの反応が鈍い、ぼんやりしている、呼吸が速く浅い、脈が速くて弱い。ここまで来ていれば、迷わず救急車です。
「血圧は正常でした」は安心材料になりません
もうひとつ知っておいてほしいのは、若い女性は血圧が保たれやすいということです。体には出血を補う仕組みがあり、若く健康な人ほどよく働きます。そのため、かなりの量が出血していても、病院で測った血圧が正常に見えることがあります。血圧が下がるのは、その仕組みが限界を超えたあとです。「血圧は正常でした」は、出血していないことの証明にはなりません。だからこそ、立ちくらみ・冷や汗・顔面蒼白といった、数字より先に出るサインを見ます。
迷ったら#7119
救急車を呼ぶべきか判断に迷うときは、救急安心センター事業(#7119)が使えます。総務省消防庁によると、医師・看護師・救急救命士から電話でアドバイスを受けられる仕組みで、応急手当の方法についての助言や適切な受診医療機関の案内を行うほか、緊急性が高いと判断した場合は119番通報への転送やかけ直しの要請も行われます。「電話したら救急車を呼べなくなる」ということはありません。
妊娠反応は必ず確認する——異所性妊娠を外さないために
卵巣出血を疑ったとき、絶対に省略できない検査が妊娠反応です。理由は、異所性妊娠(子宮外妊娠)を見落とさないためです。
異所性妊娠は、通常は子宮内腔に着床する受精卵が、子宮以外の場所に着床してしまうものです。日本医科大学多摩永山病院の解説では、全妊娠の0.5〜1.5%に発生し、クラミジアなどの性感染症の増加や体外受精・胚移植の普及によって頻度が増加しているとされています。同院の解説では、妊娠6週になっても経腟超音波検査で子宮内に胎嚢が確認されない場合に本症を強く疑うとされており、まず妊娠反応で妊娠しているかどうかを確かめることが出発点になります。
同院の解説では、卵管が破裂して診断が遅れ、腹腔内出血を放置すると、出血は時に2000mL以上にもおよぶとされています。大量の腹腔内出血による急性貧血と循環虚脱から、低血圧、頻脈、顔面蒼白、発汗、悪心・嘔吐、意識障害といったショック症状が現れます。ここで誤解しないでほしいのは、2000mLたまらないとショックにならない、という意味ではないということです。先ほどの22歳の症例では、腹腔内出血は約750mLでしたが、すでに出血性ショックの状態でした。出血の速さや体格によって、はるかに少ない量でも全身の状態は崩れます。
「生理が来ていたから妊娠していない」は成り立たない
異所性妊娠では、不正出血を月経だと思い込んでいることがあります。量が少なかった、時期が少しずれた、という程度の違いは見過ごされます。だからこそ、自己申告ではなく検査で確認する必要があります。妊娠反応は数分で結果が出る検査です。「妊娠しているはずがない」と感じていても、断らずに受けてください。この一手間が、卵巣出血と異所性妊娠を分ける最初の分岐点になります。
治療は妊娠部位を取り除く手術が中心
順天堂大学医学部附属順天堂医院の解説では、異所性妊娠の手術として卵管摘出術と卵管線状切開の2つが紹介されており、現在は卵管摘出術が主流とされています。卵巣出血が保存的に経過を見られることが多いのに対し、異所性妊娠は方針がまったく異なります。この2つを取り違えないことが、若い女性の下腹部痛の診療で最も重要な分岐です。
卵巣茎捻転との違い——こちらは時間との勝負
もうひとつ、鑑別しなければならないのが卵巣茎捻転です。卵巣が腫れている状態(卵巣嚢腫や卵巣腫瘍がある状態)で、卵巣が根元でねじれてしまう病気です。日本産科婦人科学会は「卵巣腫瘍が破裂したり、ねじれたり(茎捻転)すると、突然激しい腹痛に襲われます」と説明し、この場合は直ちに産婦人科を受診するようすすめています。順天堂医院も、卵巣嚢腫を放置すると卵巣全体がねじれる(茎捻転)、あるいは嚢腫の内容が流出する(破裂)ことがあると解説しています。
卵巣出血と茎捻転はここが違う
卵巣出血は「出血」の病気で、出血が止まれば痛みは引いていきます。これに対して茎捻転は「血流が途絶える」病気です。ねじれによって卵巣に行く血液が遮断されるため、時間が経つほど卵巣の組織はダメージを受け、元に戻らなくなります。逆に、早く手術してねじれを解除できれば卵巣を残せる可能性が高くなります。時間との勝負になるのはこちらです。
- 嘔吐:茎捻転は強い吐き気・嘔吐をともないやすい
- 背景:茎捻転は卵巣嚢腫や卵巣腫瘍を指摘されている人に起こりやすい(ただし腫れのない正常な卵巣でも起こり、とくに初経前後の年代で報告があります)
- 治療:茎捻転はねじれを元に戻して血流を再開させる緊急手術が必要になる
ただし、この2つを症状だけで見分けることはできません。茎捻転の痛みは持続することもあれば、ねじれが自然に戻っていったんおさまり、また強くなるという間欠的な経過をとることもあります。数日から数週間、間欠的な痛みを繰り返したあとに激痛が起こることもあります。痛みがいったん引いたことは、茎捻転を否定する理由になりません。最終的な区別は超音波検査などの画像で行われます。だからこそ、症状で自己判断せずに受診してください。
健診や婦人科で「卵巣が腫れている」「卵巣嚢腫がある」と言われたことがある人は、その情報を必ず救急外来で伝えてください。この一言で、検査の優先順位が変わります。
救急外来・産婦人科で行われること
問診で聞かれること(先に整理しておくと早い)
- 最終月経の開始日と、月経周期の長さ
- 妊娠の可能性の有無
- 痛みが始まった正確な時刻と、そのとき何をしていたか
- 痛みの場所と、場所が移動したかどうか
- 吐き気・嘔吐・下痢の有無
- 立ちくらみ、冷や汗、肩の痛みの有無
- 卵巣嚢腫や子宮内膜症を指摘されたことがあるか
- 低用量ピルや血液をさらさらにする薬を飲んでいるか
行われる検査
妊娠反応(尿)、血液検査(ヘモグロビン、白血球、CRPなど)、超音波検査(経腟または経腹)が基本です。超音波では、卵巣の腫大や内部の性状に加えて、腹腔内にたまった液体(血液)が確認できます。必要に応じてCTが追加されます。
ここで知っておいてほしいのは、出血の直後はヘモグロビンがまだ下がりきらないということです。急に出血した時点では血液の濃さがすぐには変化しないため、最初の採血で貧血がなくても出血を否定できません。だからこそ、時間をあけて採血を繰り返したり、経過観察のために入院を提案されたりします。「一度検査して大丈夫だったのに、なぜまた」と感じるかもしれませんが、これは出血が続いていないことを確かめるための手順です。
治療——多くは保存的、一部は手術
卵巣出血と診断されても、必ずしも手術による止血が必要になるわけではありません。腹腔内に出血があっても自然に止まることが多く、安静と輸液で経過を見られる場合があります。たまった血液は時間をかけて吸収され、それにともなって痛みも引いていきます。先ほどの14歳の症例報告でも、著者らは「ショック症状など大量出血をきたさない限り保存療法とすべき」と述べています。
一方で、出血が続く、貧血が進行する、全身状態が悪化するといった場合には、腹腔鏡などによる止血手術が行われます。どの時点で手術に切り替えるかは、出血量、全身状態、ほかの出血源の可能性などを総合して判断されます。婦人科の診療は日本産科婦人科学会の「産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編」に沿って行われます。
飲んでいる薬を必ず伝えてください
問診で低用量ピルや「血液をさらさらにする薬」について聞かれるのには理由があります。抗凝固薬や抗血小板薬を飲んでいる方は血が止まりにくく、同じ状況でも出血量が多くなりうるため、経過観察の慎重さが変わります。また卵巣出血は排卵にともなって起こるため、繰り返す方では排卵を抑える治療が予防の選択肢として検討されることがあります。どうするかは背景によって変わりますので、落ち着いてから産婦人科でご相談ください。
お盆・年末年始に婦人科が閉まっているときの動き方
まず救急外来のある病院へ
お盆の時期は、かかりつけの婦人科クリニックが休診になっていることが多く、「明日開くまで待とう」という判断になりがちです。しかし、卵巣出血で待ってはいけないパターンは前述のとおり明確です。産婦人科の当直医がいない病院でも、妊娠反応・血液検査・超音波という一次評価はできることがほとんどです。そこで異常が見つかれば、産婦人科のある病院へ搬送する判断ができます。まず救急外来にたどり着くことが目的です。
受診時に伝えるべきこと
短く、この順番で伝えてください。「最終月経は◯月◯日から」「妊娠の可能性は◯(あり/なし/わからない)」「痛みは◯時◯分ごろ、突然始まった」「◯◯をしていたときだった」「痛いのは右/左/下腹部全体」「立ち上がるとふらつく」「肩が痛い」。この情報がそろっていると、卵巣出血・異所性妊娠・卵巣茎捻転を早い段階で候補に挙げられます。
移動手段
強い痛みとふらつきがあるときに自分で運転するのは避けてください。家族の車で行く場合も、助手席ではなく後部座席で横になれるようにします。付き添いが誰もおらず、立ち上がると目の前が暗くなる状態なら、救急車を呼んでください。
10代の方へ——保護者の前で話しにくいとき
保護者が同席していると、月経や性交渉のことを話しにくいのは当然です。そういうときは、医師や看護師に「一人で話したい」と伝えてかまいません。診察室で保護者に一度席を外してもらうのは、医療機関では普通に行われている配慮です。言い出しにくければ、問診票の余白に書くだけでも伝わります。
いったん帰宅を許可されたあと、戻るべきサイン
卵巣出血は多くが保存的に経過を見られるため、検査のあと「帰宅して様子を見ましょう」と言われることがあります。これは出血が止まったと確定したという意味ではなく、いまの時点では待てるという判断です。次のいずれかが出たら、翌日の外来を待たずにもう一度受診してください。
- 痛みが帰宅時より強くなった、あるいは痛む範囲が広がった
- 立ち上がると目の前が暗くなる、ふらついて歩けない
- 冷や汗が出る、顔色が白い、手足が冷たい
- 肩やみぞおち、背中に痛みが広がってきた
- 吐き気が強くなった、水分がとれない
- ぼんやりする、受け答えがはっきりしない(周囲の人が気づくサインです)
帰宅するときは、受診した病院の連絡先と、次にどこへ行けばよいかを必ず確認しておいてください。
やらないほうがいいこと
- 市販の鎮痛薬を追加で飲んで、受診せずに様子を見続ける:問題は薬そのものではなく「受診を先延ばしにすること」です。急性腹症診療ガイドラインでは、病院では原因が確定する前でも早期に鎮痛薬を使うことが推奨されており、痛み止めによって診断が妨げられることはないとされています。病院で痛み止めを勧められたら我慢せずに受けてください。避けたいのは、自宅で薬を重ねながら受診を遅らせることです。なお市販の解熱鎮痛薬に多いNSAIDs(ロキソプロフェン、イブプロフェンなど)は血小板のはたらきを抑えるため、出血が疑われる場面で自己判断で追加するのは避けてください
- お風呂で温める:血流が増えることに加え、ふらつきがある状態での入浴は浴室内で倒れる危険があります
- 「恥ずかしいから」と月経や性交渉の情報を伏せる:この情報がないと、医師は妊娠反応や超音波の優先順位を判断できません
- 一人で部屋に戻って寝てしまう:出血が進行しても誰も気づけません。同居している人がいれば必ず声をかけておいてください
- 痛みが少し引いたから大丈夫と判断する:腹腔内の出血は、痛みが落ち着いたあとも続いていることがあります
関連記事
- お腹が痛いとき救急に行くべきサイン──急性腹症の見極め方(腹痛全般の総論。虫垂炎・腸閉塞などの消化器・血管系を扱っています)
- 尿路結石とは?激痛発作の対処法と再発予防(側腹部から下腹部にかけての激痛の代表。女性でも起こります)
- 梅雨の立ちくらみ・失神は「起立性低血圧」かも(立ちくらみが単独で起こる場合の代表的な原因)
よくある質問(FAQ)
卵巣出血は自然に治りますか?
出血が少なく全身状態が安定していれば、安静と輸液で経過を見ながら軽快することが少なくありません。腹腔内にたまった血液も時間をかけて吸収されます。ただし出血が続く場合や貧血が進行する場合は、止血のための手術が必要になります。自然に治るかどうかは、受診して出血量と全身状態を評価しなければ判断できません。
卵巣出血と生理痛はどう違いますか?
生理痛は月経中に周期的に起こり、これまでにも経験があり、鎮痛薬である程度やわらぐことが多い痛みです。卵巣出血は排卵期や黄体期に突然始まり、波が引かずに持続し、これまで経験したことのない種類の痛みであることが特徴です。立ちくらみや冷や汗をともなう場合は、生理痛では説明できません。
性交渉のあとに強い下腹部痛が出ました。受診したほうがいいですか?
受診してください。性交渉は卵巣出血のきっかけになることがあります。痛みが強い、痛みが続く、立ちくらみや冷や汗があるときは、翌日まで待たずにその日のうちに救急外来を受診してください。
妊娠していないのに妊娠検査をするのはなぜですか?
異所性妊娠(子宮外妊娠)を見落とさないためです。異所性妊娠では不正出血を月経だと思い込んでいることがあり、自己申告だけでは否定できません。妊娠反応は数分で結果が出る検査で、卵巣出血と異所性妊娠を分けるうえで欠かせません。
卵巣茎捻転はどんなときに疑いますか?
卵巣が腫れている人に、突然の激しい下腹部痛が起こり、強い吐き気や嘔吐をともなう場合です。ただし腫れを指摘されていない正常な卵巣でも起こり、痛みがいったんおさまってまた強くなる間欠的な経過をとることもあるため、痛みが引いたことは否定する理由になりません。ねじれによって血流が途絶えた状態のため時間の余裕がなく、緊急の対応が必要になります。卵巣嚢腫を指摘されたことがある人は、その情報を必ず伝えてください。
お盆で婦人科が閉まっています。翌日まで待てますか?
痛みが強い、痛みが続く、立ちくらみ・冷や汗・顔面蒼白・肩の痛みがあるときは待たないでください。産婦人科の当直がいない病院でも、妊娠反応・血液検査・超音波という一次評価はできることがほとんどです。判断に迷うときは#7119に電話して相談できます。
まとめ
卵巣出血は、月経のある年代の女性に起こる急性腹症の代表格です。右側に起これば虫垂炎と紛らわしく、吐き気をともなえば胃腸炎に見え、下腹部痛というだけで生理痛として片づけられることがあります。判断の軸は痛みの強さではなく、立ちくらみ・冷や汗・顔面蒼白・肩の痛みという出血のサインです。そして妊娠反応で異所性妊娠を、痛みの持続と嘔吐で卵巣茎捻転を切り分けます。お盆でかかりつけが閉まっていても、救急外来にたどり着けば一次評価は始められます。突然始まって引かない下腹部痛は、翌日まで持ち越さないでください。
本記事は一般向けの情報提供であり、個別の診療に代わるものではありません。気になる症状があるときは、かかりつけ医または医療機関にご相談ください。
参照ソース(一次情報)
- 公益社団法人 日本産科婦人科学会「卵巣の腫瘍とがん」(市民のみなさまへ)
- 公益社団法人 日本産科婦人科学会「異常子宮出血と不正性器出血」(市民のみなさまへ)
- 公益社団法人 日本産科婦人科学会「産婦人科診療ガイドライン」(婦人科外来編)
- 順天堂大学医学部附属順天堂医院 女性低侵襲外科・リプロダクションセンター「対象疾患」
- 日本医科大学多摩永山病院 女性診療科・産科「子宮外妊娠(異所性妊娠)」
- Mindsガイドラインライブラリ(公益財団法人 日本医療機能評価機構)「(旧版)急性腹症診療ガイドライン2015」(日本腹部救急医学会・日本医学放射線学会・日本プライマリ・ケア連合学会・日本産科婦人科学会・日本血管外科学会)
- 日本血管外科学会「急性腹症診療ガイドライン改訂版に関するパブリックコメント募集のお知らせ」(第2版は2025年3月発刊)
- 日本腹部救急医学会「急性腹症診療ガイドライン2015」(診断前の早期鎮痛薬使用に関する章)
- 日本小児外科学会雑誌「特発性卵巣出血の1例」(第32巻2号・1996年)
- 日本救急医学会雑誌「鈍的卵巣外傷による腹腔内出血の1例」(第19巻1号・2008年)
- 総務省消防庁「救急安心センター事業(#7119)ってナニ?」

コメント