前庭神経炎は、耳の奥にある平衡感覚の神経(前庭神経)に障害が起こり、突然の激しい回転性めまいで発症する病気です。特徴は、めまいが数十秒で終わらず、横になってもぐるぐるが止まらないまま何時間も続き、その後もふらつきが何日も残ること。そして、難聴や耳鳴りをともなわないことです。救急外来では「一晩寝れば治るだろう」と我慢して翌日以降に来られる方が多く、一方でその中に小脳梗塞が混ざっていることがあります。
この記事では、救急科専門医が、日本めまい平衡医学会の「前庭神経炎診療ガイドライン2021年版」に沿って、BPPV(良性発作性頭位めまい症)や脳の病気との見分け方、受診の目安、そして回復のために本当に効くことを解説します。寝返りで数十秒だけ天井が回るタイプのめまいについては「良性発作性頭位めまい症(BPPV)の見分け方とEpley法」にまとめています。本記事は、そこで扱いきれなかった「おさまらずに何日も続くめまい」のほうを扱います。
前庭神経炎とは——聴こえは無事なのに、平衡感覚だけが失われる
内耳には、音を聞き取る蝸牛と、体の傾きや回転を感じ取る三半規管・耳石器が隣り合って入っています。ここから脳へ向かう神経も、聴こえを伝える神経と平衡感覚を伝える神経が束になって走っています。前庭神経炎では、このうち平衡感覚を伝える側(前庭神経)だけが障害されます。だから、めまいは強烈なのに、耳は普通に聞こえるのです。
片側の平衡感覚が急に働かなくなると、脳は「体が猛烈に回っている」という誤った信号を受け取り続けます。これが回転性めまいの正体です。左右の内耳から届く信号は、通常はつり合っています。片方が突然黙り込むと、そのつり合いが崩れ、脳は差分を「回転」として解釈してしまいます。
診断基準に書かれている4つの症状
日本めまい平衡医学会の前庭神経炎診断基準(2017年)は、症状として次の4つを挙げています。要約すると、①突発的な回転性めまい発作で発症し、その発作は1回のことが多い ②発作のあと、体を動かしたときや歩いたときのふらつきが持続する ③めまいにともなう難聴・耳鳴・耳閉感といった聴覚症状を認めない ④第Ⅷ脳神経以外の神経症状がない——です。
この4つを患者さん側の言葉に置き換えると、こうなります。「ある瞬間、突然ぐるぐるが始まった」「そのぐるぐるの発作は、何度も繰り返してはいない」「激しいのが去ったあとも、動くとふわふわして真っ直ぐ歩けない日が続く」「耳の聞こえは変わっていない」「手足のしびれやろれつの回りにくさはない」。
診断基準にはさらに検査所見の項目があり、温度刺激検査(耳に冷たい水や空気を入れて反応を見る検査)で片側の前庭機能が落ちていることの確認が求められます。症状の4項目だけを満たす場合は「疑い例」、検査所見まで満たして初めて「確実例」と分類されます。つまり、確定診断には耳鼻咽喉科での平衡機能検査が必要で、救急外来で当日つく診断は多くの場合「疑い」の段階にあります。
原因はウイルスと考えられているが、確定はしていない
ガイドラインでは、上気道感染(かぜ)が先行する症例が多く、臨床症状からもウイルス感染の関与が推定されるとされています。とくに小児例では先行感染例が多いことが指摘されています。前庭神経節に潜んでいた単純ヘルペスウイルス1型(HSV-1)が再び活動しはじめて発症するという説も提唱されており、ヒトの前庭神経節にHSV-1が存在することも報告されています。ただしガイドラインは、これらを「推定されているが未だ明らかではない」という書き方にとどめています。血流障害の関与を示唆する報告もあります。
どれくらいの人がなるのか、何歳が多いのか
ガイドラインが引用する疫学データによると、日本の有病率は1993年の調査で10万人あたり3.5人。近年の海外の調査ではドイツで10万人あたり14人、クロアチアで11.7〜15.5人と報告されており、ドイツの国立統計報告では24人とされています。ただしガイドライン自身が、質問紙による調査と眼振検査まで含めた調査が混在しているため単純な比較は困難だと注意を促しています。
発症年齢は、1981年の厚生省研究班の報告で40〜50歳代に多く、性差はないとされています(男性にやや多いとする報告もあります)。「高齢者の病気」ではなく、働き盛りの世代に起こるのが特徴です。また、再発はないとされているのもこの病気の性質で、繰り返すめまいであれば別の病気を考えます(再発例の報告自体はあります)。
「数十秒」か「何日も」か——BPPV・メニエール病との見分け方
めまいで受診された方に、私たちがまず尋ねるのは「どのくらい続きますか」と「耳は聞こえますか」の2つです。この2つで、頻度の高い病気はかなり整理できます。
- 数秒〜数十秒でおさまり、寝返り・起き上がり・上を向くなど頭を動かしたときだけ回る:良性発作性頭位めまい症(BPPV)。じっとしていれば止まります
- 数十分〜数時間続き、めまいのたびに難聴・耳鳴り・耳が詰まる感じをともない、それを何度も繰り返す:メニエール病
- 突然始まって何時間も続き、じっとしていても止まらず、聴こえは変わらない。激しい発作は多くの場合1回で、そのあとふらつきが日単位で残る:前庭神経炎
- 片耳が急に聞こえなくなり、それにめまいをともなう:突発性難聴。こちらは48時間が勝負とされ、時間の余裕がありません
日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会も、めまいには天井が回る回転性のもの、ふわふわする動揺性のもの、目の前が暗くなる立ちくらみなどが含まれ、原因には内耳の病気や脳の病気があり、中には緊急を要するものもあると説明しています。
「聴こえは大丈夫」は安心材料ではなく、分岐点
ここは誤解されやすいところです。聴覚症状がないことは、前庭神経炎らしさを支持する所見であって、「軽症だから大丈夫」という意味ではありません。聴こえに異常がないことは、脳の病気を否定する材料にはなりません。小脳や脳幹の梗塞では、めまいとふらつきだけが表に出て、聴こえがまったく変わらないことがあるからです。「耳は聞こえるから耳鼻科の病気だろう」という推論は成り立ちません。
そのめまい、脳ではないと言い切れますか——救急科医が必ず除外するもの
前庭神経炎の診断基準には、検査所見の項目として「小脳、脳幹を中心とした中枢性疾患など、原因既知の疾患を除外できる」ことが明記されています。つまりこの病気は、脳の病気を除外して初めて成立する診断です。救急外来でめまいの患者さんを診るとき、私たちが最初に考えるのは前庭神経炎ではなく、後ろにある脳梗塞のほうです。
日本脳卒中協会が挙げる5つの症状
公益社団法人 日本脳卒中協会は、脳卒中の主な症状として次の5つを挙げ、疑われるときは救急車を呼ぶよう呼びかけています。
- 片方の手足・顔半分の麻痺・しびれが起こる
- ロレツが回らない、言葉が出ない、他人の言うことが理解できない
- 力はあるのに、立てない、歩けない、フラフラする
- 片方の目が見えない、物が二つに見える、視野の半分が欠ける
- 経験したことのない激しい頭痛がする
この3番目に注目してください。「力はあるのに、立てない、歩けない」——これは小脳の症状です。手足の力は入るのに体幹のバランスだけが取れない状態で、めまいと一緒に出たときは脳を強く疑います。
ただし、ここで「歩けるかどうか」だけで自己判断しないでください。診療ガイドラインは、前庭神経炎でも発症直後は著しい眼振と平衡障害が出現し、歩行や食事が困難となると記載しています。つまり「歩けない=必ず脳」でもなければ、「歩けるから脳ではない」でもありません。歩行の状態は、あくまで他の神経症状と合わせて医師が評価する材料のひとつです。この記事の危険サインは、ひとつでも当てはまったら受診するために挙げているのであって、当てはまらないことを安心の根拠にするためのものではありません。
めまいに「これ」が付いたら、耳ではなく脳を考える
日本めまい平衡医学会も、脳卒中によるめまいでは意識障害、言語障害、運動・歩行障害、嚥下障害、感覚異常、複視、激しい頭痛などをともなうことが多いと説明しています。そして重要なのは、これらの症状がめまいと前後して出現することもあるという点です。受診したその瞬間に揃っていなくても、あとから出てくることがあります。だから、いったん帰宅したあとの見守りが必要になります。
あわせて、飲み込みにくさ(むせる、水が飲み込めない)、しゃっくりが止まらない、片方の顔だけ汗をかかない・まぶたが下がる、といった訴えも脳幹の症状として重要です。ご本人よりも、そばにいる家族のほうが先に気づくことが少なくありません。
危険因子があると、同じ症状でも意味が変わる
高血圧、糖尿病、脂質異常症、喫煙、心房細動などの不整脈、そして過去の脳梗塞や心筋梗塞。これらがある方の「突然のめまい」は、同じ症状でも脳血管の病気である確率が上がります。受診時には、持病と内服薬を必ず伝えてください。お薬手帳を持っていくのがいちばん確実です。首を強くひねったあと、あるいは首や後頭部の痛みをともなうめまいでは、椎骨動脈の解離も考えます。
眼の動きを見る診察は、自分では判定できません
医師は診察で、眼振(勝手に動く眼の揺れ)の向きや、頭を素早く動かしたときの眼の追従(head impulse test)などを確認します。前庭神経炎では眼振の向きが一定なのに対し、見る方向によって向きが変わる眼振や、上下方向の眼振は中枢性を疑う所見です。ただし、これらは訓練を受けた医師が組み合わせて判断する診察手技であり、鏡の前でご自分の眼を見て判定できるものではありません。ネットの情報でセルフチェックを試みるより、症状を正確に伝えて診察を受けるほうが確実です。
夏に受診が遅れやすい3つの理由
①「夏に多い」という報告がある
ガイドラインは季節性について、季節性はないとする報告と、夏に多いとする報告の両方があると併記しています。「夏に多い」としているのは、いずれもめまいで入院した症例を集計した日本の臨床統計(2003年・2007年)です。したがって「夏は前庭神経炎が増える」と言い切ることはできませんが、少なくとも夏だからこの病気を考えなくてよい理由はないということになります。
②夏は、めまいの原因が他にもたくさんある
暑い時期は、脱水、熱中症、冷房による自律神経の乱れ、立ちくらみなど、ふらつきを起こす要因が重なります。実際に多いのも事実です。しかしこれらのふらつきと、前庭神経炎の回転性めまいは性質が違います。
- 脱水・熱中症・起立性低血圧:立ち上がったときに目の前が暗くなる、フワッとする。横になると数十秒〜数分で楽になる(起立性低血圧/熱中症の症状と重症度)
- 前庭神経炎:横になっても天井や自分がぐるぐる回り続ける。吐き気が強く、実際に嘔吐することも多い
「横になっても止まらない」かどうかが、家庭でできるいちばん実用的な切り分けです。水を飲んで涼しいところで休んで、それでも回転が止まらないなら、暑さのせいにしないでください。
③お盆に、耳鼻咽喉科が閉まっている
お盆や年末年始は、かかりつけの耳鼻咽喉科が休診になっていることが多く、「開くまで待とう」という判断になりがちです。ここで思い出してほしいのは、前庭神経炎そのものは数日で山を越える一方で、待ってはいけないのは背後にある脳梗塞のほうだということです。そして脳梗塞かどうかの一次評価は、耳鼻咽喉科ではなく救急外来のある病院でできます。
救急車を呼ぶべきか判断に迷うときは、救急安心センター事業(#7119)が使えます。総務省消防庁によると、医師・看護師・救急救命士から電話でアドバイスを受けられる仕組みで、応急手当の助言や受診できる医療機関の案内を行い、緊急性が高いと判断された場合は119番へつなぐ運用になっています。電話したことで救急車を呼べなくなるということはありません。
治療——「寝て治す」でよいのは最初の数日だけ
この病気でいちばん誤解が多いのが、ここです。急性期と、そのあとで、やるべきことが正反対になります。
急性期(発症〜数日):暗く静かな部屋で休んでよい
日本めまい平衡医学会は、急性期には部屋を暗くして安静に横になるとかなり楽になると説明しています。この時期は無理に動く必要はありません。医療機関では、吐き気に対する制吐薬、めまいを抑える薬、点滴などが症状の軽減を目的に行われます。めまいが高度で水分もとれない場合は入院になることがあります。
ステロイド:選択肢だが「確立した治療」ではない
ガイドラインのクリニカルクエスチョン3(急性期の前庭神経炎にステロイドは有効か?)に対する推奨は、半規管麻痺の回復を促進する可能性があり治療の選択肢であるが、確立したものとはいえない(推奨度C1)というものです。前庭代償を促進する可能性についても同じく推奨度C1とされています。C1は「行うことを考慮してもよいが、十分な科学的根拠がない」という段階です。
実際の使用にあたっては、閉塞隅角緑内障・糖尿病・胃潰瘍などの持病があると悪化する可能性があるため慎重な判断が必要とされ、B型肝炎ウイルスの再活性化リスクへの配慮も求められています。「ステロイドを出してもらえなかった=手抜きの診療」ではありません。使わない判断にも根拠があります。
抗ウイルス薬:ガイドラインは「勧められない」
ここは意外に思われるかもしれません。原因としてヘルペスウイルスの関与が推定されているにもかかわらず、ガイドラインのクリニカルクエスチョン4に対する推奨は、抗ウイルス薬の有効性を示す根拠に乏しく、前庭神経炎の治療に抗ウイルス薬を用いることは勧められない(推奨度D)です。Dは「行わないよう勧められる」に相当する、この病気の推奨度の中で最も否定的な区分です。原因の推定と、効く薬は別だということです。
亜急性期以降:安静が過剰にならないようにする
ここが治療の分水嶺です。ガイドラインは、急性期を脱して症状が治まってきたら安静が過剰にならないようにするとし、起立歩行が可能になれば手すりにつかまりながらの歩行など安全な運動をするよう指導する、としています。さらに、前庭代償(残った側の機能と脳の調整でバランスを取り戻す仕組み)の促進には視覚や体性感覚からの入力が重要であるため、発症後はなるべく早い時期に離床を促し、積極的に動き回るよう指導することが重要と明記されています。
つまり、ふらつくからといって寝続けていると、回復はかえって遅れます。脳は「ずれた感覚」を実際に使いながら再調整していくため、動かないと調整の材料が入ってこないのです。
ただし、ガイドラインは同時に注意も与えています。フレイルや日常生活動作の低下がある方では、長期臥床がさらに動けなさを進めるリスクがある一方、無理に早期離床を進めすぎると、ふらつきを支える筋力がない場合に転倒事故を誘発する危険があるとしています。とくに高齢の方は、転倒して頭を打つと別の問題が起こります。手すりのある場所で、誰かがそばにいる状況から始めてください。
慢性期のリハビリテーションは、推奨度A
ガイドラインの6つのクリニカルクエスチョンのうち、唯一「推奨度A(行うよう強く勧められる)」が付いているのが、慢性期の前庭リハビリテーションです。根拠として、コクランレビュー(McDonnellら、2015年)のメタアナリシスが引用されており、片側の末梢前庭機能障害に対して前庭リハビリテーションは対照群と比較して統計学的に有意に高い有効性を示した(オッズ比2.67、95%信頼区間1.85〜3.86、参加者565名)とされています。有害事象の報告はなかったとも記載されています。
薬よりリハビリのほうが強く推奨されている——これがこの病気の治療の実像です。しかも、施設ごとに行われているリハビリ法の間に有意な差は認められず、いずれの方法でも有用という結論が得られています。本邦では北里大学方式、奈良県立医科大学方式(まほろば式)などが用いられています。具体的な方法は、必ず主治医や理学療法士の指導のもとで始めてください。自己流で頭を激しく振るような運動は、転倒や吐き気の悪化につながります。
経過——検査の数字が戻らなくても、ふらつきは良くなる
「いつ治りますか」は、この病気でいちばん多い質問です。回復には2つの道筋があります。ひとつは、落ちた前庭機能そのものが回復する道。もうひとつは、機能は戻らないまま、脳がその状態に合わせて調整する道(前庭代償)です。
ガイドラインが引用する報告(水野ら、2008年)では、初診時(発症後平均20日)には100%の症例で温度刺激検査の異常(半規管麻痺)が認められ、発症後平均90日の時点でも53%に半規管麻痺が残存していたとされています。約半数は、3か月たっても検査上の機能は戻りきっていないということです。
それでも多くの方の日常生活が戻るのは、前庭代償が働くからです。ガイドラインも、半規管麻痺が回復してめまいが消失する場合は予後良好である一方、十分回復せず前庭代償に頼る場合は、体を動かしたときの浮動感やふらつきが持続するとしています。「検査でまだ左右差があります」と言われても、それは治っていないという意味ではありません。症状の回復と検査値の回復は、別々に進みます。
そして、この代償を進める最大の手段が「動くこと」です。前庭神経炎の回復期に、家の中でじっとしている時間を減らすことには、それだけの意味があります。
受診の目安——いつ救急車を呼び、いつ翌日でよいのか
すぐに救急車(119番)
- 手足や顔の片側に力が入らない、しびれる
- ろれつが回らない、言葉が出ない、話が通じない
- 力は入るのに、支えても立てない・座っていられない
- 物が二つに見える、片方の目が見えない、視野が欠ける
- 経験したことのない激しい頭痛、首や後頭部の強い痛みをともなう
- むせて水が飲み込めない、意識がぼんやりする
その日のうちに受診
- 片耳の聞こえが悪くなった、耳鳴りや耳の詰まった感じが出た(突発性難聴は時間が勝負です)
- 回転性めまいが数時間続き、吐いて水分がとれない
- 高血圧・糖尿病・不整脈・脳梗塞の既往があり、突然めまいが始まった
- 初めて経験する強さのめまいで、何が起きているか分からない
翌日以降の受診でよいことが多いもの
- 寝返りや起き上がりのときだけ数十秒回り、じっとしていれば止まる(BPPVらしいパターン)
- 激しいめまいの山は越えていて、動いたときのふらつきだけが残っている
ただし後者でも、ふらつきが日を追って強くなる場合や、1週間たっても改善の方向が見えない場合は受診してください。前庭神経炎は発症時が最も強く、その後は少しずつ良くなっていく経過をたどります(ふらつき自体は数週間から数か月残ることがあります)。問題なのは残っていることではなく、悪くなっていくことです。「だんだん悪くなる」は、この病気らしくない経過です。
帰宅を許可されたあと、戻るべきサイン
検査で明らかな異常がなく、「様子を見ましょう」と帰宅になることがあります。これは脳の病気が完全に否定されたという意味ではなく、現時点では待てるという判断です。次のいずれかが出たら、翌日を待たずにもう一度受診してください。
- ろれつが回らない、言葉が出にくい
- 物が二重に見える、片側の顔や手足の感覚がおかしい
- 支えても立てない、座っていられないほどバランスが崩れた
- 激しい頭痛、後頭部・首の痛みが出てきた
- 吐き気が強く、水分がまったくとれない状態が続く
- 受け答えがはっきりしない(これは周囲の人が気づくサインです)
やらないほうがいいこと
- 回転が止まらないのに一晩耐える:脳梗塞かどうかの判断は、時間が経つほど治療の選択肢が狭くなります
- 症状が落ち着いたあとも寝続ける:ガイドラインは亜急性期以降、安静が過剰にならないようにするとしています。動かないと前庭代償が進みません
- 逆に、自己流で頭を激しく振る運動をする:転倒や吐き気の悪化を招きます。リハビリは指導を受けてから
- ふらつくまま入浴する・車を運転する:浴室での転倒、運転中の再発はどちらも危険です。運転再開の時期は主治医に確認してください
- 市販の酔い止めだけで済ませて受診しない:症状は多少やわらぎますが、脳梗塞の除外にはなりません
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よくある質問(FAQ)
前庭神経炎のめまいはどれくらい続きますか?
激しい回転性めまいは突然始まって数時間から数日続き、その後は体を動かしたときのふらつきに変わって数週間から数か月残ることがあります。診療ガイドラインが引用する報告では、発症後平均90日の時点でも53%に検査上の半規管麻痺が残っていたとされています。ただし検査値が戻らなくても、脳が調整する前庭代償によって日常生活は戻っていきます。
BPPVと前庭神経炎はどう見分けますか?
続く時間と誘発の有無で分かれます。BPPVは寝返りや起き上がりなど頭を動かしたときに数秒から数十秒だけ回り、じっとしていれば止まります。前庭神経炎は頭を動かさなくても回転が続き、横になっても止まりません。激しい発作は多くの場合1回で、そのあとふらつきが日単位で残るのも特徴です。最終的な区別は眼振の観察や平衡機能検査で行います。
前庭神経炎で耳が聞こえなくなることはありますか?
前庭神経炎という診断の定義上、聴覚症状はともないません。難聴・耳鳴・耳閉感を認めないことが、日本めまい平衡医学会の診断基準に症状の項目として明記されているためです。したがって、めまいに聴こえの症状が出たときは「前庭神経炎が悪化した」ではなく、突発性難聴やメニエール病など別の病気を考えることになります。とくに突発性難聴は治療開始までの時間が予後に影響するため、その日のうちに受診してください。
めまいのとき、安静にすべきですか、動くべきですか?
時期によって逆になります。発症直後の急性期は、部屋を暗くして横になって休んでかまいません。しかし症状が落ち着いてきた亜急性期以降は、診療ガイドラインが「安静が過剰にならないようにする」「なるべく早い時期に離床を促し、積極的に動き回るよう指導することが重要」としています。ふらつくからと寝続けると、回復に必要な前庭代償が進みません。ただし高齢の方や筋力が落ちている方は転倒の危険があるため、手すりのある場所で付き添いのもと始めてください。
前庭神経炎にステロイドや抗ウイルス薬は効きますか?
診療ガイドライン2021年版では、ステロイドは半規管麻痺の回復を促進する可能性があり治療の選択肢であるものの確立したものとはいえないとされ、推奨度はC1です。抗ウイルス薬については有効性を示す根拠に乏しく、用いることは勧められないとして推奨度Dが付いています。一方で慢性期の前庭リハビリテーションには推奨度Aが付いており、この病気で最も強く勧められる治療はリハビリテーションです。
めまいが脳梗塞かどうか、自分で見分けられますか?
確実には見分けられません。ただし、日本脳卒中協会が挙げる症状——片側の手足や顔の麻痺・しびれ、ろれつが回らない、力はあるのに立てない・歩けない、物が二つに見える、経験したことのない激しい頭痛——のいずれかをともなう場合は、迷わず救急車を呼んでください。これらの症状はめまいと前後して出てくることもあります。眼の動きを診る手技は医師が組み合わせて判断するもので、自己判定はできません。
前庭神経炎は再発しますか?
診療ガイドラインでは、前庭神経炎の再発はないとされています(再発例の報告自体はあります)。したがって、激しい回転性めまいの発作を何度も繰り返す場合は、メニエール病など別の病気を考える必要があります。繰り返すめまいは、回数・持続時間・聴覚症状の有無をメモして耳鼻咽喉科を受診してください。
まとめ
前庭神経炎は、聴こえの症状をともなわない突然の回転性めまいで発症し、激しい発作は多くの場合1回、そのあとふらつきが日単位で続く病気です。数十秒でおさまるBPPVとは、続く時間で分かれます。しかしこの診断は、小脳や脳幹の梗塞を除外して初めて成立します。片側の麻痺やしびれ、ろれつの回りにくさ、力はあるのに立てない、物が二重に見える、経験したことのない頭痛——このいずれかがあれば救急車です。治療については、ステロイドは推奨度C1、抗ウイルス薬は推奨度D、そして推奨度Aが付いているのは慢性期の前庭リハビリテーションだけです。急性期は休んでよい。しかし症状の山を越えたら、動くことが治療になります。
本記事は一般向けの情報提供であり、個別の診療に代わるものではありません。気になる症状があるときは、かかりつけ医または医療機関にご相談ください。

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