高齢の親が尻もちのあと腰や背中を痛がったら、湿布で様子を見る前に確認する3つのこと|圧迫骨折はレントゲンで写らないことがある・受診を急ぐサイン【救急科専門医・2026年版】


高齢の親が尻もちをついたあと、腰や背中を痛がって寝返りもつらそうにしている——その痛みは、背骨がつぶれる圧迫骨折かもしれません。日本整形外科学会は、高齢者に起こる背骨の骨折は「ほとんどが骨粗鬆症に起因して尻もちなどの軽微な外力により生じる」と説明しています。「打ち身だろう」と湿布で様子を見ているうちに、次の骨折を防ぐ機会を逃すことがあります。救急科専門医が、家族が確認できる3つのことと、その日のうちに受診してほしいサインを、学会のガイドラインと厚生労働省の統計に沿って解説します。

高齢者の圧迫骨折は「尻もち程度」で起きます

圧迫骨折は、背骨の本体である椎体(ついたい)がつぶれる骨折です。日本整形外科学会の「脊椎椎体骨折」の解説は、高齢者の場合をこう書いています。

老人におこるものは胸椎と腰椎の移行部(胸腰移行部)あたりの椎体に生じ、ほとんどが骨粗鬆症に起因して尻もちなどの軽微な外力により生じるものです。

胸腰移行部は、背中と腰の境目のあたりです。本人が「腰が痛い」と言っていても、骨折しているのは少し上の背中側ということがあります。

つぶれ方にも特徴があります。同じ解説は「尻もちなどの外力でも力が集中したところの椎体の前方がつぶれくさび形になります」と書いています。尻もちだけではありません。「中腰や重いものを持つなど胸腰移行部に力が集中して骨折することもあります」とも書かれていて、転んでいないのに骨折していることもあります。

日本骨粗鬆症学会の「骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2025年版」も、骨粗鬆症による骨折の中で最も多いのが椎体骨折だとしています。ガイドラインが「軽微な外力」と呼ぶのは、「立った姿勢からの転倒か,それ以下の外力」です。立った高さから転んだだけで背骨が折れるのが、骨粗鬆症の怖さです。

痛みがないまま折れていることもある

ガイドラインには、家族が知っておきたい数字があります。

形態椎体骨折のうち,3分の2は無症候性であることに留意する

X線で椎体の変形が見つかる骨折のうち、はっきりした痛みが出るものは3分の1にすぎません。尻もちのあとに痛みを訴えているなら、それは骨折がはっきり症状に出た3分の1かもしれない、ということです。「痛みが軽いから大丈夫」とも言い切れません。日本整形外科学会も、骨粗鬆症で骨が弱くなっているときに起こる骨折では「疼痛が軽度のこともあります」と書いています。

湿布で様子を見る前に確認する3つのこと

尻もちのあとに腰や背中を痛がっているとき、家族が確認してほしいのは次の3つです。

①寝返り・起き上がり・立ち上がりで痛むか

日本整形外科学会は、尻もちなど明らかな外力が加わった椎体骨折では「通常は骨折のある部位の疼痛を伴います」と書いています。圧迫骨折の痛みは、姿勢を変えるときに強く出るのが典型です。

  • 寝ている姿勢から起き上がるときに「いたたた」と声が出る
  • 寝返りを打てない、打つたびに顔をしかめる
  • いすから立ち上がる瞬間に背中や腰を押さえる

こうした様子があるなら、打ち身と決めずに一度は整形外科でX線検査を受けてください。受診のときは「いつ、どこで、どう転んだか」を伝えると診察がスムーズです。

②足のしびれ・力の入りにくさがないか

背骨の中には、脳から足へ向かう神経(脊髄)が通っています。日本整形外科学会は、強い外力による椎体骨折では「脊髄損傷を生じる場合もあります」とし、胸腰移行部の骨折では「重症では両下肢麻痺を生じる」ことがあると説明しています。

家族が確認できるのは次の点です。

  • 足に力が入らない、つま先やかかとで立てない
  • 足がしびれる、触っても感覚が鈍い
  • さっきまで歩けていたのに、急に歩けなくなった

ひとつでも当てはまれば、その日のうちに救急外来を受診してください。無理に歩かせて確かめることはしないでください。

③身長が縮んだ・背中が丸くなった・前にも骨折したことがあるか

3つめは、今回の痛みより前のことです。

日本整形外科学会は「いくつもの場所に多発性に椎体骨折が生じると背中が丸くなり(円背)、身長が低くなります」と書いています。ガイドラインでは、25歳のときから4cm以上身長が縮んだ人は、それ未満の人に比べて椎体骨折の相対危険率が2.8倍だったという研究が紹介されています。

「最近、背が縮んだ」「背中が丸くなってきた」「以前に手首や足の付け根を骨折した」「骨粗鬆症と言われたことがある」——こうした情報は、医師が骨折を疑う強い材料になります。受診のときに必ず伝えてください。

レントゲンで「骨折はない」と言われても、痛みが続くとき

圧迫骨折でもっとも誤解されやすいのがここです。受傷直後のX線では骨折がはっきりしないことがあります。ガイドラインはこう書いています。

椎体における脆弱性骨折ではしばしば不顕性骨折となるため,単純X線像で明らかでない場合においても症状から骨折を疑う場合はMRI撮影が有用である

さらに、MRIは「特に骨折発生2週間以内では,単純X線像による診断に比べ診断率は高い」としています。日本整形外科学会の解説でも、X線での確定に加えて「椎体骨折部の粉砕や脊髄損傷のある場合は、CTやMRI検査が必要になります」とされています。

最初のX線で骨折がないと言われても、寝返りや起き上がりの痛みが続くなら、そのことを伝えて再診してください。「前回は大丈夫と言われたから」と遠慮する必要はありません。

その日のうちに救急外来を受診してほしいサイン

多くの圧迫骨折は外来での治療になります。ただし、次のような場合は外来の予約を待たずに、その日のうちに救急外来を受診してください。

サイン 考えること
足に力が入らない・しびれる・感覚が鈍い 骨折が神経(脊髄)を圧迫している
高い所から落ちた、交通事故など強い外力が加わった 背骨全体がつぶれて不安定になる骨折
尻もちのあと立てない・歩けない(特に足の付け根が痛い) 背骨ではなく大腿骨の付け根の骨折
安静にしていても強く痛む(がんの治療歴がある) がんの骨への転移による骨折
転んだときに頭も打った 頭の中の出血

それぞれに根拠があります。日本整形外科学会は、強い外力による骨折では「脊椎椎体が後方要素を含め、全体につぶれて不安定になり」、脊髄の麻痺を生じることがあると説明しています。

がんの転移による骨折について、同学会は「骨折部の体動時の痛みのほかに安静時にも痛むのが普通です」と書いています。動くと痛むが横になれば楽、という典型的な圧迫骨折とは痛み方が違います。「転移性脊椎腫瘍」の解説でも、脊髄を圧迫している場合は麻痺が生じるとされています。

腰の痛みを起こすのは骨折だけではありません。ガイドラインは腰背痛をきたす疾患として、骨粗鬆症に伴う椎体骨折のほかに、内臓の病気(内科的疾患)・炎症・腫瘍などを挙げています。熱がある、尻もちの程度に比べて痛みが強すぎる、といった「いつもの腰痛らしくない」ときも、早めに受診してください。

尻もちのあとで立てないときは、背骨よりも大腿骨の付け根の骨折を考えます。ガイドラインは大腿骨近位部骨折について「受傷の瞬間から歩行障害が生じる」と書いています。頭も打っているときは、高齢者が転倒して頭を打ったときの記事もあわせて確認してください。

圧迫骨折と言われたら:治療と家での過ごし方

日本整形外科学会は、骨粗鬆症による軽度の圧迫骨折の治療をこう説明しています。

骨粗鬆症による軽度の骨折(圧迫骨折)の場合は、簡易コルセットなどの外固定をし、前屈(お辞儀する動作)を禁じ、比較的安静にします。 安静にすることで、3~4週ほどでほとんどが治ります。

家で気をつけたいのは「前かがみ」です。床の物を拾う、靴下をはく、低いいすから立ち上がる——こうした動作でお辞儀の姿勢になります。物は腰の高さに置く、座って靴下をはく、といった工夫で前かがみを減らせます。

一方で、同学会は「圧迫骨折が高度であったり、骨折部の不安定性強かったり」する場合や「いつまでも疼痛が残るもの」には手術が必要になることがある、としています。コルセットをしていても痛みが強くなる、足のしびれが出てきた、というときは予約日を待たずに受診してください。

本当に大事なのは「次の骨折」を防ぐこと

圧迫骨折は、痛みが引けば終わりではありません。

ガイドラインは、椎体骨折または大腿骨近位部骨折がある人は「骨密度にかかわらず骨粗鬆症と診断する」としています。尻もちで背骨が折れたこと自体が、骨粗鬆症の診断になるということです。

そして、骨折は次の骨折を呼びます。

一度骨折をした(既存骨折,脆弱性骨折)症例では,その後に再び骨折(二次性骨折,続発骨折,再骨折)をきたすリスクが高まる(骨折連鎖:fracturecascade)

ガイドラインの表では、椎体骨折を有する場合の二次性骨折発生率が、70歳代の女性で既存骨折なし2.45%に対して既存骨折あり8.80%と示されています。背骨の変形が進むと、ガイドラインの言葉では「慢性の腰背部痛が生じ,身体運動機能が低下し,易転倒性が増大する」——つまり転びやすくなり、また折れる、という悪循環です。

この悪循環は、介護の入口にもなります。厚生労働省の「2025(令和7)年 国民生活基礎調査」では、要介護者の介護が必要になった主な原因は「認知症」が23.6%で最も多く、次いで「骨折・転倒」が14.8%でした。

ガイドラインは、初回の骨折を起こした人に次の骨折予防対策を行うこと(二次性骨折予防)は有意義だとしています。2022年度の診療報酬改定では、二次性骨折予防継続管理料が新設されました。圧迫骨折の治療が終わりに近づいたら、「骨粗鬆症の治療はどうしますか」と主治医に聞いてください。家では、食事が十分とれているか、転びやすい薬が増えていないかも見直すきっかけになります。

よくある質問

Q1. 湿布と痛み止めで様子を見てもいいですか?

尻もちのあとに寝返りや起き上がりで腰や背中が痛むなら、一度は整形外科でX線検査を受けてください。高齢者の圧迫骨折はほとんどが骨粗鬆症に起因して尻もちなどの軽い外力で起きます。骨折があれば骨密度の値にかかわらず骨粗鬆症と診断され、次の骨折を防ぐ治療の対象になります。湿布だけでは、この入口を逃します。

Q2. レントゲンで骨折はないと言われましたが、まだ痛みます。

椎体の骨折はX線ではっきりしない不顕性骨折になることがしばしばあります。日本骨粗鬆症学会のガイドラインは、X線で明らかでなくても症状から骨折を疑う場合はMRIが有用で、特に骨折から2週間以内ではX線より診断率が高いとしています。痛みが続くときは、そのことを伝えて再診してください。

Q3. 圧迫骨折はどのくらいで治りますか?

日本整形外科学会は、骨粗鬆症による軽度の圧迫骨折では簡易コルセットなどで固定し、前かがみの動作を避けて比較的安静にすることで、3〜4週ほどでほとんどが治ると説明しています。骨折が高度な場合や痛みがいつまでも残る場合には手術が必要になることがあります。

Q4. 何科を受診すればいいですか?

歩けて足のしびれや力の入りにくさがなければ、整形外科の外来で構いません。足に力が入らない・感覚が鈍い、立てない・歩けない、安静にしていても強く痛む、頭も打った、高い所から落ちたなどの強い外力が加わった、といった場合はその日のうちに救急外来を受診してください。

Q5. 骨折が治ったら、もう通院しなくていいですか?

骨折が治っても骨粗鬆症は残ります。脆弱性骨折は一度起こすと再骨折のリスクが高く、学会はこれを骨折連鎖と呼んで、初回の骨折を起こした人に次の骨折の予防策を行うことを勧めています。2022年度の診療報酬改定では二次性骨折予防継続管理料も新設されました。骨粗鬆症の治療を続けるかどうかを主治医と相談してください。

まとめ

高齢者の圧迫骨折は、ほとんどが骨粗鬆症を背景に尻もち程度の外力で起きます。尻もちのあとに腰や背中を痛がったら、①寝返り・起き上がりで痛むか、②足のしびれや力の入りにくさがないか、③身長の縮みや過去の骨折がないか、の3つを確認し、一度は整形外科へ。最初のX線で骨折がなくても、痛みが続けば再診を。足の麻痺、立てない、安静時の強い痛み、頭部打撲があればその日のうちに救急外来へ。治ったあとは次の骨折を防ぐ治療を主治医と相談してください。

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